悪女の取り扱いには注意してください。

羽月☆

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26 いろいろと学習した二人。

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目が覚めた時、さらに真っ暗な室内に、ぼんやりとした明かりで佐々木君の寝顔が見えた。

ゆっくり起き上がっても起きる気配がなくて。
適当に服を掴みあげて、バスルームに行った。

体に残るけだるさを流して、そっと寝室に戻り着替えをとってリビングで着替えた。
ぐっすり寝てるようだった。

リビングのフロアランプだけつけて、水分をとり、ソファに座る。
やっぱり座面は硬くて、体が倒れることはない。
いつもいる中央より、少し端に座っている。

時計を見る。さすがに泊めてあげる時間だった。

着替えも全くないけど、いいだろうか?

あのまま朝まで寝てるなら、その間に洗濯してもいいけど。

勝手には出来ない。

それに夜中に起きだして脱いだはずの下着がなかったらびっくりするだろう。
キョロキョロとしながら手探りで暗い床を探すかもしれない。
そんな姿を思い浮かべて、ちょっと楽しくなった。

意地悪な七面鳥を完全にやり込めた。
あの最初の頃ならそう思ったかもしれない。

でも今は困った顔の佐々木君が可愛く思える。

誰も想像してないかもしれない。




ペットボトルを持ったままぼんやりとしていた。

寝室のドアが開いて影が出てきた。
やっぱり下着とTシャツは探して着たみたい。
ちょっと笑顔になって冷蔵庫に行って水を持ってくる。

「佐々木君、シャワー浴びるよね?今準備するから。」

お水を差しだして声をかけた。

バスルームに明かりをつけて、タオルと歯ブラシの予備を出す。
着替えはさすがにない。

下着が半分見えるくらい、そんな心もとない恰好で明かりが途切れた場所に立っている。

「もう遅いから、泊まって行くかなと思ってるんだけど。」

「いいの?」

「追い出すと思ってるの?」

「ありがとう。」

首を振った後にお礼を言われた。

「じゃあ、ゆっくりして。適当に使ってね。着替えはないんだけど、洗濯して良かったらこの中に入れて、洗濯機に入れて。明日には乾いてるから。バスタオルは洗面台に置いてて。新しいバスタオルを置いておくね。」

そう言って扉を閉めた。

腰にバスタオルを巻いて出て来るか、普通にさっきの恰好で出て来るか。


さっきからいろんな反応を楽しみにしてる。
まだまだ読み解けない。
慣れてない人に慣れてない私。
でも、偉そうに言っても私も普通レベル。

ただ佐々木君がちょっとだけそれ以下だっただけ。

そんな本当の事、絶対に言えないから、内緒内緒。

林は知っていたの?
だからあのプレゼント?
もしくは単なる励ましというか、勢い付けとか?
私の部屋にはないだろうと分かっていたのか。


確認もできない事実。


しばらくしてバスルームのドアが開いた音がした。
タオルを巻いて出てきたらしい。

「洗濯をお願いしていい?」

「いいよ。」

入れ違いでバスルームに入り、乾燥まで予約しておく。
下着とタオル。
最小限の物だけにした。


リビングに行くとぼんやりと立っているままの佐々木君がいた。

「お腹空いてない?」

お昼も抜きだったはずだ。

「ううん、大丈夫。」

「本当に食事しなくても大丈夫なんだ。細いもんね。」

隠れてない上半身を見る。
まるでワンタンのような体。
白くて薄い。

「すっかり眠気も覚めてぼんやりしてたの。眠いならベッド使っていいよ。」

もちろんソファをどうぞなんて今更言わない。

ソファの端寄りに座ると、同じように隣に腰を下ろす。

「眠くはない。でも、やっぱり目が覚めた時にはいなかった。」

「良く寝てたみたいだったから。とりあえず化粧を落としたかったの。帰ったらすぐ落としたいタイプなの。」

言い訳をするように言う。
そんないつ目が覚めるか分からないのに、シャワーも浴びない状態で待ってるのも、どう?

「こっちじゃなくて、一緒にベッドに寝ていいんだよね。」

「いいよ。」

「じゃあ、明日の朝は起きるまで待ってて。起こしてくれてもいいから、一緒に起きたい。」

どんな夢を見てる?
朝なんて顔も髪も酷いと思うのに。
決して喜んで見られたいわけじゃないのに。
ものすごいロマンティックな想像をされても現実は違うけど、大丈夫?


「ボサボサのグチャグチャだと思うけど。アイドルの寝起き風写真を見過ぎてない?素人はそんなきれいじゃないよ。」

「いい。」

いいなら、多分大丈夫。

正面を向いたまま二人でぼんやりとお水を飲む。
時間はいい加減の夜。
普通だと今こそが、そろそろとベッドにと誘う時間だけど、佐々木君に普通を期待してもしょうがない。

「ねえ、どんな子供だったの?」

「自分では普通だと思ってた。それなりに元気で友達とふざけて、一応女子とも喋ってたし。成績も普通よりいいくらい。勉強は嫌いじゃなかったから、試験で残念な思いをしたのは就職の時だけ。後は普通。」

「男子校って想像できない。どんな感じ?」

「真面目な方の男子校だったから、半分くらいはどこかの女子と浮かれてたけど、残念だけどそっちのグループじゃなかったから。塾に行っても女子と話をすることもなく、本当に偏った高校生だった。いじめとかもあんまりなかった気がするから平和で静かな男子校生生活だったかな。」

「部活とかは?」

「特にこれといって、何もしてない。」

「大学のグループに女子はいなかったの?」

「いたよ。それなりにグループの中でいろいろあったけど、巻き込まれることもなく、相談されることすらなく、ワクワクするようなことは起こらなかった。」

本当に?
物静かな雰囲気だけど、決して嫌われる要素はないけど。

じっと顔を見る。

少し幼さを足してみてもまあ普通かな。
地味な感じではあるけど。

「バイト先は?」

「コンビニだからほとんど男子学生とプータローのお兄さんと、店長と、お母さん世代。若い女の子はいない。」

お客様はもとより想定外らしい。


「楽しい学生生活だったんでしょう?」

そう聞かれた。

「うん、まあね。趣味のかぶらない友達ばっかりだったから、嫌われることもなく、ワイワイしてた。」

「戻りたいと思う?」

そう聞かれて、視線を外して考えた。

「・・・・それはどうかな?思わないかも。今がいいよ。」

毎日楽しく過ごしてる。
両隣も気を遣わない。
その周囲には嫌われてても、それはしょうがないと諦めた。


そう思ってた。

「ありがとう。」

お礼を言われて、肩を抱き寄せられた。

ちょっと答えがすれ違ってしまったけど、まあ、今のこの時だって貴重だし、満足してると思うから、あえて否定はしない。訂正も不要。

触れた上半身の肌は思ったよりヒンヤリしてた。

「ごめん、湯冷めするね。せめて布団を掛けてた方がいいから。」

そう言ったらそのまま手をつながれて、立ち上がって一緒に寝室に歩いて行った。

寝室も薄暗いまま。
ジーンズとシャツとバッグが頭の方へ寄せられてる。

横になってもまだ眠気もない。手をつないだまま二人で横になり、くるりと首だけ隣を見る。
目を開けたまま上を見ている佐々木君の横顔が見えた。

そっと顔を戻した。

目を閉じれば眠れるだろうか。
そう考えながら目を閉じて。

「亜弓さん、・・・・・・お腹空いた。」

さっき聞いたのに。
いいって言ったじゃない。

「適当に何かあると思うよ。」

食べる?
歯ごたえのなさそうな冷凍食品で良ければ何かはある。

「違う、それはさっき言ったから、いらない。」

そう言われて見下ろされた。

顔が近寄る。
普通の夜の時間、しかも下着を取り上げたのは私で、バスタオルだけの佐々木君。
それはそれで普通でもあるのに。
わざわざ変な宣言するからちょっと間違っただけ。


さっきよりずっと時間をかけてゆっくり駆け上がる。


不器用と慣れてない、こだわった理由は分かった気がした。
慣れるのは早いらしい。
不器用さは消えるらしい。
むしろ、器用と言ってもいい。

息をつき、そんな言えない感想を転がすように思う。


あと、痩せていても体力は普通にあるらしい。


やっぱりおかしい人だ。
でも普通に見えなかったところが、どんどん普通に近づいてると思えてきて。
私の見方が変わったのだろうか?


軽くかけられた布団の中で足先がくっつく。
隣でくるりと向きを変えられて見つめられる視線を感じる。
私も天井から視線を動かすように横を向く。

すぐそこに、いた。

「亜弓さん、やっぱり甘い。」


歯磨きもしたし、水も飲んだのに?
『いつもそう感じるの?』
つい聞いてしまいそうになる。
今後もそういう感想を言われるんだろうか?
味覚障害者の変わった味覚。


じゃあ苦いと言われたら、何を反省すればいいんだろうか?


くっついた足の指先が絡み合うように動く。ふくらはぎも、そして太もももくっついたら、後は体を引き寄せられる。


「疲れないの?」

「大丈夫みたい。」

「まだまだ、たくさんあるし。」


林に乗せられてどうするの?
面白半分のプレゼントなのに。

運動部でも良かったんじゃない?
運動神経が悪いっていう欠点があればしょうがないけど。

そんな事も思った。


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