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7 初めてきちんと向き合った夜。
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ゆっくり廊下を歩きながら言われたことについて考える。
ヤツがあんなことを私に言うメリットは何?
伝聞の形でしかない話。大嫌いな噂話。
それでもまだ、今なら断れる。
仕事のことを言い訳にできる。
そう思いながらも目の前でエレベーターの扉が開いた。
ゆっくり足を踏み入れて一階を押す。まだ、考えてる。
チン。
一階について顔を上げる。
探すまでもない、すれ違うはずもない。
とてもわかりやすいところにいた。
笑顔はそんな含みがあるとは思えない。
それに一回目でそんな犯罪まがいのことする?
まがいじゃなくて、本当に犯罪じゃない?
同じビルの会社だよ。
他にも被害者がいるって……、知らない、そんな話。
意識して軽く表情を緩めながら、ゆっくり会社を出た。
そんな事しなくても人気ありそうだし、もし単なる噂だとしたらひどい噂だ。
結局会社から離れたところで声をかけられて一緒に歩いた。
とりあえず意識の片隅に。
「いつもこのくらいの時間なの?」
「そうですね。最近ちょっと慣れない仕事を押し付けられて、すごくストレス溜まってたんです。」
「そう、愚痴でも聞くよ。飲んで飲んで。」
そんなセリフも今は聞き流せない。
「明日早くて、ほんとに少しだけにします。」
「そうなんだ、がっかりだけどしょうがないか。」
「お店は決まってますか?」
「少しだけなら軽く食事もお酒もってとこにしようか?決めていい?」
「はい。」
「よく飲みに行きますか?」
「そうだね。仲のいいやつとそれなりに。鈴鹿さんは?」
「私もそれなりにです。今日も誘われてたんですが、遅くなると困るから断ってたんです。」
「そう?それじゃあ、誘われてくれてすごくうれしいなあ。」
うっすらとごまかし、言い訳を重ねた会話。
連れて行かれたのはアイリッシュハブだった。
軽く付き合うのにはいいくらいのお店だ。
やはり普通すぎて警戒心も薄れる。
多くの人の声とアイリッシュミュージック。
賑やかでつい距離は近くなる。
「ちょっとうるさいね。間違えたかな?」
「大丈夫です、どんなに愚痴を言っても紛れます。」
「どうぞ、大きな声で。」
ビールが届く。食べ物も少し。
愚痴どころかお互いの会社の面白い人の話や仕事上の失敗談で盛り上がる。
やっぱり感じのいい人で、まったくそんな怪しい気配はない。
途中お腹が冷えてトイレに行った。
勿論荷物は持っていった。自衛はする。
最近食べ物もいい加減だったから、消化するのにすごく体力使ってる気分。
手を洗って、出来るだけ長く待たせないように出たつもりだ。
席に戻ろうとしたら、自分の腕に手がかかりビックリして、声が出そうになった。
そこにはヤツがいた。
「何で?」
そう言ったら黙って携帯を出してきた。
見せられたのは動画で、遠くからでも映ってるのが誰だか分かる、席にいる芦屋さん。
芦屋さんがポケットから何かを出してそっと私のグラスの上に手をかけて、離す。
それだけじゃあ何もわからない。
でもまた手をポケットに戻して出す。
時計を見て、笑う顔がなんとなく見れた気がした。
そんな・・・・・、何?
「まだ信じないと思うけど、気を付けた方がいい。席に戻っても飲まないようにして、すぐに電話するから、仕事があるから会社に戻れって言うから。話を合わせて。急いで会社に戻って、あの席で待ってて、しばらくして大丈夫だと思ったら、タクシーで送るから。もし信じてくれるなら。」
メールも見せられた。
『芦屋って、そいつマジヤバイ奴だよ。何だよ、何かあったのか?近寄ったら巻き込まれるぞ。絶対一緒に飲むなよ。』
そんなメールも見せられて、本当にわからなくなった。
送信者は知らない人。
「変だと思われるから、戻って。電話出てね。ガッカリした演技で、会社に走って。」
軽くうなずいて、席に戻った。
「すみませんでした。やっぱり女子トイレは混んでいて。」
ついグラスに手を伸ばそうとして、いけないと思った。手を離したら、不思議な顔をされた。
ちょうど電話が鳴っていて、ポケットから探るように電話を取り出してみて、ほっと溜息をつく。
ガッカリのため息に見えたと思いたい。
「会社からです・・・・。」
そう言って出る。
かつてないほど、話の途中に何度か相槌を打つ、最後にはわかりましたと答えた。
相手は当然佐々木さんで、本当に仕事の追加があるから帰ってきてほしいという内容そのものだった。
しばらく画面を見つめていたけど、諦めたようにポケットに戻して、事情を説明した。
「帰らなくては行けなくなりました。すみません。」
「そうなの?大変だね。」
ガッカリされたけど、それだけ。
他にはよくわからない。
代金は注文の品が来るたびに払うシステムで済んでいる。
グラスには口も付けずに、バッグを持って挨拶をしてお店を出た。
本当に睡眠薬だったりしたら・・・・。
考えたら怖い。
何で普通に仕事してるの?
訴えられないの?
噂になるくらいなのに?
もしかして被害者が何も言えない状態に追い込まれるとか?
考えただけで寒気がしてきた。
本当にそんな人には見えない。
それでもあの動画の映像が頭の中で再生される。
まったく見えない悪意は逆に怖くて、面と向かって言われたり、これ見よがしに言われる方には慣れてるのに。
初めて会って喋った相手なのに、何でそんな事をされるっていうの?
来た道を戻りながらもバッグをしっかり掴んで、必死に会社へ急いだ。
ヤツがあんなことを私に言うメリットは何?
伝聞の形でしかない話。大嫌いな噂話。
それでもまだ、今なら断れる。
仕事のことを言い訳にできる。
そう思いながらも目の前でエレベーターの扉が開いた。
ゆっくり足を踏み入れて一階を押す。まだ、考えてる。
チン。
一階について顔を上げる。
探すまでもない、すれ違うはずもない。
とてもわかりやすいところにいた。
笑顔はそんな含みがあるとは思えない。
それに一回目でそんな犯罪まがいのことする?
まがいじゃなくて、本当に犯罪じゃない?
同じビルの会社だよ。
他にも被害者がいるって……、知らない、そんな話。
意識して軽く表情を緩めながら、ゆっくり会社を出た。
そんな事しなくても人気ありそうだし、もし単なる噂だとしたらひどい噂だ。
結局会社から離れたところで声をかけられて一緒に歩いた。
とりあえず意識の片隅に。
「いつもこのくらいの時間なの?」
「そうですね。最近ちょっと慣れない仕事を押し付けられて、すごくストレス溜まってたんです。」
「そう、愚痴でも聞くよ。飲んで飲んで。」
そんなセリフも今は聞き流せない。
「明日早くて、ほんとに少しだけにします。」
「そうなんだ、がっかりだけどしょうがないか。」
「お店は決まってますか?」
「少しだけなら軽く食事もお酒もってとこにしようか?決めていい?」
「はい。」
「よく飲みに行きますか?」
「そうだね。仲のいいやつとそれなりに。鈴鹿さんは?」
「私もそれなりにです。今日も誘われてたんですが、遅くなると困るから断ってたんです。」
「そう?それじゃあ、誘われてくれてすごくうれしいなあ。」
うっすらとごまかし、言い訳を重ねた会話。
連れて行かれたのはアイリッシュハブだった。
軽く付き合うのにはいいくらいのお店だ。
やはり普通すぎて警戒心も薄れる。
多くの人の声とアイリッシュミュージック。
賑やかでつい距離は近くなる。
「ちょっとうるさいね。間違えたかな?」
「大丈夫です、どんなに愚痴を言っても紛れます。」
「どうぞ、大きな声で。」
ビールが届く。食べ物も少し。
愚痴どころかお互いの会社の面白い人の話や仕事上の失敗談で盛り上がる。
やっぱり感じのいい人で、まったくそんな怪しい気配はない。
途中お腹が冷えてトイレに行った。
勿論荷物は持っていった。自衛はする。
最近食べ物もいい加減だったから、消化するのにすごく体力使ってる気分。
手を洗って、出来るだけ長く待たせないように出たつもりだ。
席に戻ろうとしたら、自分の腕に手がかかりビックリして、声が出そうになった。
そこにはヤツがいた。
「何で?」
そう言ったら黙って携帯を出してきた。
見せられたのは動画で、遠くからでも映ってるのが誰だか分かる、席にいる芦屋さん。
芦屋さんがポケットから何かを出してそっと私のグラスの上に手をかけて、離す。
それだけじゃあ何もわからない。
でもまた手をポケットに戻して出す。
時計を見て、笑う顔がなんとなく見れた気がした。
そんな・・・・・、何?
「まだ信じないと思うけど、気を付けた方がいい。席に戻っても飲まないようにして、すぐに電話するから、仕事があるから会社に戻れって言うから。話を合わせて。急いで会社に戻って、あの席で待ってて、しばらくして大丈夫だと思ったら、タクシーで送るから。もし信じてくれるなら。」
メールも見せられた。
『芦屋って、そいつマジヤバイ奴だよ。何だよ、何かあったのか?近寄ったら巻き込まれるぞ。絶対一緒に飲むなよ。』
そんなメールも見せられて、本当にわからなくなった。
送信者は知らない人。
「変だと思われるから、戻って。電話出てね。ガッカリした演技で、会社に走って。」
軽くうなずいて、席に戻った。
「すみませんでした。やっぱり女子トイレは混んでいて。」
ついグラスに手を伸ばそうとして、いけないと思った。手を離したら、不思議な顔をされた。
ちょうど電話が鳴っていて、ポケットから探るように電話を取り出してみて、ほっと溜息をつく。
ガッカリのため息に見えたと思いたい。
「会社からです・・・・。」
そう言って出る。
かつてないほど、話の途中に何度か相槌を打つ、最後にはわかりましたと答えた。
相手は当然佐々木さんで、本当に仕事の追加があるから帰ってきてほしいという内容そのものだった。
しばらく画面を見つめていたけど、諦めたようにポケットに戻して、事情を説明した。
「帰らなくては行けなくなりました。すみません。」
「そうなの?大変だね。」
ガッカリされたけど、それだけ。
他にはよくわからない。
代金は注文の品が来るたびに払うシステムで済んでいる。
グラスには口も付けずに、バッグを持って挨拶をしてお店を出た。
本当に睡眠薬だったりしたら・・・・。
考えたら怖い。
何で普通に仕事してるの?
訴えられないの?
噂になるくらいなのに?
もしかして被害者が何も言えない状態に追い込まれるとか?
考えただけで寒気がしてきた。
本当にそんな人には見えない。
それでもあの動画の映像が頭の中で再生される。
まったく見えない悪意は逆に怖くて、面と向かって言われたり、これ見よがしに言われる方には慣れてるのに。
初めて会って喋った相手なのに、何でそんな事をされるっていうの?
来た道を戻りながらもバッグをしっかり掴んで、必死に会社へ急いだ。
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