上 下
8 / 37

8 半笑いで話をしてくる内容は。

しおりを挟む
ビルに入りエレベーターにかけ乗るようにして扉が閉まったらホッとした。
言われた通り資料課の部屋へ戻り、灯りをつけて席についた。


静かで、まだまだ慣れないその部屋。
よそよそしさが自分の肌を刺すようで、体を小さくして自分の腕を回して自分を抱いた。

早く来てほしい・・・・・。

廊下を歩く足音がした。
佐々木さんだと思う、そうだよね・・・・。

入って来た姿を見て、本当にホッとした。


思わず立ち上がって・・・・・・・、お礼を言った。

「ありがとう。」

気にしてくれて、あそこにいてくれて、教えてくれて、電話をかけてくれて。

「とりあえず間に合ったらしいね。」

それだけ言って自分の席に座る。

「どうしてあそこにいたの?」

「あのままじゃあ気になるし。噂じゃ本当にやばいって、そう書かれてたでしょう?」

「私のために?」

「今回はね。別に他の人でも同じことをしたよ。全然、・・・・そんな、特別じゃないよ。」


「そんな意味じゃない。そんなの分かってる。それでも、ありがとう、ございました。」

嫌われてるのも知ってるから。
さっきはすごく安心したその姿なのに、言葉は感謝を伝えながらも可愛くない言い方になる。

荷物に手をかけて立ち上がった。


「お疲れさまでした。まっすぐ帰ります。」

「まだ待って。タクシーで送るから。しばらくここにいた方がいい。せっかくだから本当に仕事する?」

机には新しい資料が山となっていた。

お酒も飲んでるのに、そんな集中力なんてないし。
何で仕事しようなんて思うの?


「まあ、いいか。でも、一時間くらい、ここにいた方がいい。」

「・・・・本当にそんなにひどい人なの?」


ここにきても信じられない気持ちも少しはあって、それも隠せない。


「噂じゃそうだね。知り合いのアドバイスもそう言ってるし。あいつと同じ会社の奴のメールを見せたんだけど。たまたま知り合いがいるんだ。前にうっすら聞いていた名前が、廊下から偶然聞こえてきてビックリした。」

そうですか・・・・。
丸聞こえだったらしいから、思い当たったと。



「なんだか、林君からはすごいぞって言われてたのに、ちょっとガッカリだなあ。もっと違う感じで楽しめると思ってたのに。普通だね。噂もなかなか凄いのに。」

「何がですか?」

「『悪評高い鈴鹿さん』って聞いてたから。それなのに普通に仕事してるだけだし、こんな罠にひっかかりそうになるし。ちなみに何で知り合ったの?今日コーヒー奢ってもらったって、午後だよね。急に元気になってたし。違う会社なのに、そこは評判通りなのかな?」

半笑いしながら、おかしそうに聞いてくる。

その神経が分からない。

酷い目に合うところだったのに、そのいきさつを話せと言う。
無神経なヤツ。
もしかして嫌がらせの続き?
嘘だったの?
全部丸ごと嫌がらせ?

こっちを見て興味深そうにしてるその顔を、眼鏡が壊れるくらい殴りたい。
目つきが正直にそう言ってたかもしれない。

「ごめんごめん、デリカシーないから止める。あいつにとっては最高の獲物だったかもしれないのに、ガッカリしてるかな。また狙われるかもしれないから、気を付けて。」

脅しともとれる発言。
そこまで私を怖がらせたいの?

怖がってやるもんか、頼ったのも、お礼を言ったのも今回だけ。
あとは何とかする、自分で始末つけるし。

睨んだ。

「無理だよ、自分で何とかしようとしても無理な事あるし、有名だって自覚ないの?」

あるわよ。噂が勝手に形を変えて、大きくなって伝わってるって。
誰もがそれを信じてるって。


「あんなの噂だけじゃない、私は悪くない!誘われて、たまにそれに応じてるだけ、それも食事してるだけ、普通に話しをしてるだけ、なのに勝手に被害者を名乗られて、詰め寄られたり、噂話のネタになったり、こっちだって被害者だから。はっきり断ってもどうせののしる癖に。それにちゃんと自分の分の食事代は払ってる、関係ない人に奢られるようなこともしてない、無駄に駆け引きして気を持たせるようなことはしない。」


「一度会うくらい。だって会社の人だし、誘われたら、時間があったら一度は付き合う事があるだけなのに・・・・。食事くらいいいかなって。」


だって、それを無くしたら、私に出会いのチャンスはないじゃない。
そんなの皆同じことしてる。軽く誘いにのってるはず。
とりあえずって、一度くらいは会うじゃない。
たまたまそれが一度でうんざりして、すぐ二度目はないと伝えたり、向こうに他に大切な人がいて、その人に内緒だったりとか、何でそれまで全部私のせいになるのよ。

「そうなんだろうね。林君もそう言ってた。言い訳しないから、今じゃあ悪女のレッテルがべったりはりついてるって。」

いつもご丁寧にはがれかけたところを修復してるくせに。
そんな林が何を言うんだ。

林と本当に仲がいいのは分かった。


「私の知らないところで勝手に話のネタにして欲しくない。」

そう言ったらきょとんとした顔をする。

「だって一緒に飲むことなんてないから、知ってるところで話なんてすることもないじゃない。昔からの知り合いって聞いたけど、仲が良かったんでしょう?」

小学生の頃の距離感の事を言われても、ピンとこないし。

「もしかして林君が初恋の相手だったりして。」

またまた半笑いで聞いてくる。

呆れた顔しかできない。
全く違う。

「ただのご近所。」

「聞いてた話と違うけど、まあそういうことにしておこうか。林君には言わない方がいいよ、思い出を壊すよ。男は女の人よりロマンチストみたいだし。」

どんな話をしてるのよ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

閉じたまぶたの裏側で

櫻井音衣
恋愛
河合 芙佳(かわい ふうか・28歳)は 元恋人で上司の 橋本 勲(はしもと いさお・31歳)と 不毛な関係を3年も続けている。 元はと言えば、 芙佳が出向している半年の間に 勲が専務の娘の七海(ななみ・27歳)と 結婚していたのが発端だった。 高校時代の同級生で仲の良い同期の 山岸 應汰(やまぎし おうた・28歳)が、 そんな芙佳の恋愛事情を知った途端に 男友達のふりはやめると詰め寄って…。 どんなに好きでも先のない不毛な関係と、 自分だけを愛してくれる男友達との 同じ未来を望める関係。 芙佳はどちらを選ぶのか? “私にだって 幸せを求める権利くらいはあるはずだ”

処理中です...