NineRing~捕らわれし者たち~

吉備津 慶

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67.アイランド会議

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 「ズルガ侯爵、今回の件はなんだ? 八百もの兵を差し向けながら、奴らを抹殺出来ぬとは、アイスウォ-カ-も出したのであろう!」

 第二王子のトリニドが吠える。
 何の力も持たず、王位継承とは無縁だった男が、思いもよらず権威を手にすると、自分が偉くなったと勘違いして、威張り始める典型であった。
 頭を下げながらトリニドの話を聞くズルガ侯爵の瞳には、用が無くなったらどのような苦しみの中で殺してやるかを、考えているようであった。

 「はい、思いもよらず。あのような人間が、まだ残っていたとは思いませんでした」

 ズルガ侯爵は、頭を上げて背筋を伸ばすと、腕を組み話し出す。
 ズルガ侯爵の『あのような』とは、言うまでもなく響の事である。と言うのも現在、あれ程の広範囲に影響を及ぼす魔法を使える者は、今では人間の中に三人しかいなくなっていた。
 何故ならば、千年前におきた魔王との大戦で、力を持つ者達は全て亡くなり、教えを乞う事が出来なくなったからだ。
 その後、魔術書は高値で取引されるようになり、殆どが王侯貴族所有の秘蔵本となったのだ。
 これまで響の周りで高位魔法を使う者を見なかったのも、このためである。

 「あの者を、何と見る? どこに消えた」

 「そうですね………使っていた魔法が魔属性魔法ですから。魔王配下の生き残りと言った所でしょうか、消えたのは………空間移動、『テレポート』でしょうね。ただ、あれ程の人数を移動出来るとは、知りませんでした」

 「魔王の配下が人間を助ける? そんな事聞いた事が無いぞ!」

 「そうですね………ランベル王国に攻め込もうとしている今になって、なぜコタン村に? ランベル王国の支部にも、問い合わせてみましょう」

 「分かった、そうしてくれ! だが、お前達の実力をもってすれば、人間など滅ぼすのは容易かろうに、何故こんな手間をかけて国を取るのだ?」

 「それは、貴方の為ですよ。我らも金銀財宝は必要ですから」

 「そうか!」

 ズルガ侯爵の返答に満足したトリニドは、満面の笑みを浮かべて喜んでいた。
 ズルガ侯爵達悪魔は魔王達とは違い、人間の苦しみ、悲しみと言った負のオ-ラを、少なからず必要としていた。
 要は、人間を飼いならす国が必要なのである。
 それを知らないトリニドの浮かれようを見て、ズルガ侯爵の笑みは止まらない。





 琴祢の調査に、思いのほか時間がかかっていた。
 響達は、待っている間に食事を取る事にした。
 今日のメニュ-は、サラダとカレ-ライスだ。
 始めてカレ-ライスを見たアクラ族長は、そのスパイスの香りを鼻で楽しみ、スプ-ンいっぱいにすくったカレ-ライスを、口へと放り込む。

 「おぉ~これは美味しいですな」

 「そうでしょう! 私も初めて食べた時には、驚きました。この歳になるまで、こんなに美味い物を食べた事がない。そしてこの冷えたビ-ルが、食をいっそうそそるんです」

 ドワ-フのドヴェルグ村長は、他の者より大きなジョッキを片手に、カレ-ライスを食べるのであった。

 おいおい、会議の途中でなぜビ-ル出す~。
 それに、何で俺だけ水なんだ?
 それと………ア-リンさんは、何で俺にくっ付いているのかな?
 
 響にビ-ルを出さないのは、元の世界に戻った時の事を考えて、ティスが決めた事であるが、響は知らない。ここの所、慌ただしい日々が続いていたため、話す機会が無かったのだ
 そして、元気になったア-リン・リドルが、響に寄り添うのには訳がある。
 響が、ガズール帝国のコタン村に向かう日の朝、ア-リンが眠る部屋に行き、ア-リンの左手中指に風属性の精霊シルフ・キャンディーが封印されているリングを、ア-リンの指にハメて旅立ったのだ。
 しかし、この異世界での常識を知らない響は、大きな間違いを犯していた。
 響は、わざわざ左手の薬指を避けて、中指にリングをハメたのだが、この世界では、未婚の女性が左手中指にリングをハメる事こそ、婚約・結婚の証だったのだ。
 そしてその事を、響は知る由もなかった。

 「マスタ-、調査完了!」

 「それで、どうだった?」

 全員、食事の手を止めて琴祢の報告を待っている。

 「『生体認証チップ』の確認が取れない者が九名、その内四名が亡くなった夫婦と娘二人の物で、残りの五人が、何度かランゲルンで問題を起こしていたナミゴシの不良グル-プのメンバ-だよ」

 「あいつ等か~」

 アリス団長は、スプ-ンを持ったまま立ち上がり、何かを後悔しているようだ。

 「アリス団長………何か心当たりの者が?」

 「あっ。はい、ランゲルンで一度、喧嘩で捕まえた事があります。ですが二日間投獄した後、解放致しました。それがまさか、殺しを行うとは………」

 響の問いにアリス団長は、『あのまま投獄していれば』と後悔していた。

 「喧嘩だけでは、仕方なかろうて。響様、騎士団が設置している『座標設定アンカー』か、空飛ぶ道具は使えませんかな?」

 ウルム公爵は、『ヒビキアイランド』の中でも、古株になって来ただけあり、よく物事を知っていた。
 それがあっての公爵様なのである。

「それ無理! だって、『座標設定アンカー』は人や物を転送するのが目的だから、魔物や動物の数は分かっても、映像は取り込めないし~、ドロ-ンを送り込むにしても範囲が広すぎて、見付けるのは何時になるか………分かんない!」

 調子狂うなぁ~。

 「アリス団長。今、捜索はどの位の規模で行ってる?」

 「はい、響様、五分隊六十名で捜索しております」

 「ですがアリス団長殿、そ奴らが馬か馬車で逃げているのであれば、後を追うのは容易たやすいのではないですか?」

 「はぁ~、奴らが痕跡を消しているのか、見付けるのが難しく………と言いますか、痕跡を見付けて後を追うだけの技量を持つ者が、フェスタ-騎士団にいないのが実情なのです。アクラ族長」

 騎士団は、敵と戦うのが使命であり、捜索をする者はそれ専門の部隊か、冒険者に依頼するのが基本であった。
 しかし、『ヒビキアイランド』には、捜索専門の部隊も冒険者組合も無いのである。
 それに、今回のような事件が起きること自体、誰も考えていなかったのだ。

 「それでは、我が部族の中で、捜索に長けた者を派遣致しましょう」

 「それはありがたい。アクラ族長、感謝致します」

 アリス団長は、秘密機関タンバの事を知っていたのであろう、アクラ族長の申し出を直ぐに受け入れ、礼まで述べていた。

 それにしても、『生体認証チップ』は、何故壊れたんだ?
 それに、今回の件を考えると………

 「静止衛星でもあればなぁ~」

 響の独り言に、皆が注目する。
 静止衛星が、気になったようだ。

 「作れるよ!」

 「はぁ~琴祢、静止衛星だぞ? どうやって上げるんだよ!」

 「衛星を静止軌道上に、転送すればいいんでしょ!」

 「ああ、そうなの………」

 琴祢の言う『静止軌道上』が、あまり理解出来ない響であった。

 その後、コタン村から派遣されたメンバ-を伴い、捜索が行われる事三日目に、ナミゴシ達は捕まり娘達は解放された。
 しかし、娘達の精神は崩壊しており、ナミゴシ達の所業は人々の反感をかい、処罰の行方に注目が集まった。
 『アイランド会議』で、ナミゴシ達の事情聴取を行い審議した結果。
 後悔の念も見られず、ナミゴシ達の公開処刑が言い渡され、ランゲルンの広場で即日刑が執行された。
 残酷なようではあるが、まだ成熟していない時代と言う事も有り、響も納得するしかなかった。
 その後、『生体認証チップ』は改良され、『ヒビキアイランド』の空には三つの静止衛星が、『ヒビキアイランド』の住人達を見守るように、静止軌道上に設置された。
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