67 / 95
67.アイランド会議
しおりを挟む
「ズルガ侯爵、今回の件はなんだ? 八百もの兵を差し向けながら、奴らを抹殺出来ぬとは、アイスウォ-カ-も出したのであろう!」
第二王子のトリニドが吠える。
何の力も持たず、王位継承とは無縁だった男が、思いもよらず権威を手にすると、自分が偉くなったと勘違いして、威張り始める典型であった。
頭を下げながらトリニドの話を聞くズルガ侯爵の瞳には、用が無くなったらどのような苦しみの中で殺してやるかを、考えているようであった。
「はい、思いもよらず。あのような人間が、まだ残っていたとは思いませんでした」
ズルガ侯爵は、頭を上げて背筋を伸ばすと、腕を組み話し出す。
ズルガ侯爵の『あのような』とは、言うまでもなく響の事である。と言うのも現在、あれ程の広範囲に影響を及ぼす魔法を使える者は、今では人間の中に三人しかいなくなっていた。
何故ならば、千年前におきた魔王との大戦で、力を持つ者達は全て亡くなり、教えを乞う事が出来なくなったからだ。
その後、魔術書は高値で取引されるようになり、殆どが王侯貴族所有の秘蔵本となったのだ。
これまで響の周りで高位魔法を使う者を見なかったのも、このためである。
「あの者を、何と見る? どこに消えた」
「そうですね………使っていた魔法が魔属性魔法ですから。魔王配下の生き残りと言った所でしょうか、消えたのは………空間移動、『テレポート』でしょうね。ただ、あれ程の人数を移動出来るとは、知りませんでした」
「魔王の配下が人間を助ける? そんな事聞いた事が無いぞ!」
「そうですね………ランベル王国に攻め込もうとしている今になって、なぜコタン村に? ランベル王国の支部にも、問い合わせてみましょう」
「分かった、そうしてくれ! だが、お前達の実力をもってすれば、人間など滅ぼすのは容易かろうに、何故こんな手間をかけて国を取るのだ?」
「それは、貴方の為ですよ。我らも金銀財宝は必要ですから」
「そうか!」
ズルガ侯爵の返答に満足したトリニドは、満面の笑みを浮かべて喜んでいた。
ズルガ侯爵達悪魔は魔王達とは違い、人間の苦しみ、悲しみと言った負のオ-ラを、少なからず必要としていた。
要は、人間を飼いならす国が必要なのである。
それを知らないトリニドの浮かれようを見て、ズルガ侯爵の笑みは止まらない。
琴祢の調査に、思いのほか時間がかかっていた。
響達は、待っている間に食事を取る事にした。
今日のメニュ-は、サラダとカレ-ライスだ。
始めてカレ-ライスを見たアクラ族長は、そのスパイスの香りを鼻で楽しみ、スプ-ンいっぱいにすくったカレ-ライスを、口へと放り込む。
「おぉ~これは美味しいですな」
「そうでしょう! 私も初めて食べた時には、驚きました。この歳になるまで、こんなに美味い物を食べた事がない。そしてこの冷えたビ-ルが、食をいっそうそそるんです」
ドワ-フのドヴェルグ村長は、他の者より大きなジョッキを片手に、カレ-ライスを食べるのであった。
おいおい、会議の途中でなぜビ-ル出す~。
それに、何で俺だけ水なんだ?
それと………ア-リンさんは、何で俺にくっ付いているのかな?
響にビ-ルを出さないのは、元の世界に戻った時の事を考えて、ティスが決めた事であるが、響は知らない。ここの所、慌ただしい日々が続いていたため、話す機会が無かったのだ
そして、元気になったア-リン・リドルが、響に寄り添うのには訳がある。
響が、ガズール帝国のコタン村に向かう日の朝、ア-リンが眠る部屋に行き、ア-リンの左手中指に風属性の精霊シルフ・キャンディーが封印されているリングを、ア-リンの指にハメて旅立ったのだ。
しかし、この異世界での常識を知らない響は、大きな間違いを犯していた。
響は、わざわざ左手の薬指を避けて、中指にリングをハメたのだが、この世界では、未婚の女性が左手中指にリングをハメる事こそ、婚約・結婚の証だったのだ。
そしてその事を、響は知る由もなかった。
「マスタ-、調査完了!」
「それで、どうだった?」
全員、食事の手を止めて琴祢の報告を待っている。
「『生体認証チップ』の確認が取れない者が九名、その内四名が亡くなった夫婦と娘二人の物で、残りの五人が、何度かランゲルンで問題を起こしていたナミゴシの不良グル-プのメンバ-だよ」
「あいつ等か~」
アリス団長は、スプ-ンを持ったまま立ち上がり、何かを後悔しているようだ。
「アリス団長………何か心当たりの者が?」
「あっ。はい、ランゲルンで一度、喧嘩で捕まえた事があります。ですが二日間投獄した後、解放致しました。それがまさか、殺しを行うとは………」
響の問いにアリス団長は、『あのまま投獄していれば』と後悔していた。
「喧嘩だけでは、仕方なかろうて。響様、騎士団が設置している『座標設定アンカー』か、空飛ぶ道具は使えませんかな?」
ウルム公爵は、『ヒビキアイランド』の中でも、古株になって来ただけあり、よく物事を知っていた。
それがあっての公爵様なのである。
「それ無理! だって、『座標設定アンカー』は人や物を転送するのが目的だから、魔物や動物の数は分かっても、映像は取り込めないし~、ドロ-ンを送り込むにしても範囲が広すぎて、見付けるのは何時になるか………分かんない!」
調子狂うなぁ~。
「アリス団長。今、捜索はどの位の規模で行ってる?」
「はい、響様、五分隊六十名で捜索しております」
「ですがアリス団長殿、そ奴らが馬か馬車で逃げているのであれば、後を追うのは容易いのではないですか?」
「はぁ~、奴らが痕跡を消しているのか、見付けるのが難しく………と言いますか、痕跡を見付けて後を追うだけの技量を持つ者が、フェスタ-騎士団にいないのが実情なのです。アクラ族長」
騎士団は、敵と戦うのが使命であり、捜索をする者はそれ専門の部隊か、冒険者に依頼するのが基本であった。
しかし、『ヒビキアイランド』には、捜索専門の部隊も冒険者組合も無いのである。
それに、今回のような事件が起きること自体、誰も考えていなかったのだ。
「それでは、我が部族の中で、捜索に長けた者を派遣致しましょう」
「それはありがたい。アクラ族長、感謝致します」
アリス団長は、秘密機関タンバの事を知っていたのであろう、アクラ族長の申し出を直ぐに受け入れ、礼まで述べていた。
それにしても、『生体認証チップ』は、何故壊れたんだ?
それに、今回の件を考えると………
「静止衛星でもあればなぁ~」
響の独り言に、皆が注目する。
静止衛星が、気になったようだ。
「作れるよ!」
「はぁ~琴祢、静止衛星だぞ? どうやって上げるんだよ!」
「衛星を静止軌道上に、転送すればいいんでしょ!」
「ああ、そうなの………」
琴祢の言う『静止軌道上』が、あまり理解出来ない響であった。
その後、コタン村から派遣されたメンバ-を伴い、捜索が行われる事三日目に、ナミゴシ達は捕まり娘達は解放された。
しかし、娘達の精神は崩壊しており、ナミゴシ達の所業は人々の反感をかい、処罰の行方に注目が集まった。
『アイランド会議』で、ナミゴシ達の事情聴取を行い審議した結果。
後悔の念も見られず、ナミゴシ達の公開処刑が言い渡され、ランゲルンの広場で即日刑が執行された。
残酷なようではあるが、まだ成熟していない時代と言う事も有り、響も納得するしかなかった。
その後、『生体認証チップ』は改良され、『ヒビキアイランド』の空には三つの静止衛星が、『ヒビキアイランド』の住人達を見守るように、静止軌道上に設置された。
第二王子のトリニドが吠える。
何の力も持たず、王位継承とは無縁だった男が、思いもよらず権威を手にすると、自分が偉くなったと勘違いして、威張り始める典型であった。
頭を下げながらトリニドの話を聞くズルガ侯爵の瞳には、用が無くなったらどのような苦しみの中で殺してやるかを、考えているようであった。
「はい、思いもよらず。あのような人間が、まだ残っていたとは思いませんでした」
ズルガ侯爵は、頭を上げて背筋を伸ばすと、腕を組み話し出す。
ズルガ侯爵の『あのような』とは、言うまでもなく響の事である。と言うのも現在、あれ程の広範囲に影響を及ぼす魔法を使える者は、今では人間の中に三人しかいなくなっていた。
何故ならば、千年前におきた魔王との大戦で、力を持つ者達は全て亡くなり、教えを乞う事が出来なくなったからだ。
その後、魔術書は高値で取引されるようになり、殆どが王侯貴族所有の秘蔵本となったのだ。
これまで響の周りで高位魔法を使う者を見なかったのも、このためである。
「あの者を、何と見る? どこに消えた」
「そうですね………使っていた魔法が魔属性魔法ですから。魔王配下の生き残りと言った所でしょうか、消えたのは………空間移動、『テレポート』でしょうね。ただ、あれ程の人数を移動出来るとは、知りませんでした」
「魔王の配下が人間を助ける? そんな事聞いた事が無いぞ!」
「そうですね………ランベル王国に攻め込もうとしている今になって、なぜコタン村に? ランベル王国の支部にも、問い合わせてみましょう」
「分かった、そうしてくれ! だが、お前達の実力をもってすれば、人間など滅ぼすのは容易かろうに、何故こんな手間をかけて国を取るのだ?」
「それは、貴方の為ですよ。我らも金銀財宝は必要ですから」
「そうか!」
ズルガ侯爵の返答に満足したトリニドは、満面の笑みを浮かべて喜んでいた。
ズルガ侯爵達悪魔は魔王達とは違い、人間の苦しみ、悲しみと言った負のオ-ラを、少なからず必要としていた。
要は、人間を飼いならす国が必要なのである。
それを知らないトリニドの浮かれようを見て、ズルガ侯爵の笑みは止まらない。
琴祢の調査に、思いのほか時間がかかっていた。
響達は、待っている間に食事を取る事にした。
今日のメニュ-は、サラダとカレ-ライスだ。
始めてカレ-ライスを見たアクラ族長は、そのスパイスの香りを鼻で楽しみ、スプ-ンいっぱいにすくったカレ-ライスを、口へと放り込む。
「おぉ~これは美味しいですな」
「そうでしょう! 私も初めて食べた時には、驚きました。この歳になるまで、こんなに美味い物を食べた事がない。そしてこの冷えたビ-ルが、食をいっそうそそるんです」
ドワ-フのドヴェルグ村長は、他の者より大きなジョッキを片手に、カレ-ライスを食べるのであった。
おいおい、会議の途中でなぜビ-ル出す~。
それに、何で俺だけ水なんだ?
それと………ア-リンさんは、何で俺にくっ付いているのかな?
響にビ-ルを出さないのは、元の世界に戻った時の事を考えて、ティスが決めた事であるが、響は知らない。ここの所、慌ただしい日々が続いていたため、話す機会が無かったのだ
そして、元気になったア-リン・リドルが、響に寄り添うのには訳がある。
響が、ガズール帝国のコタン村に向かう日の朝、ア-リンが眠る部屋に行き、ア-リンの左手中指に風属性の精霊シルフ・キャンディーが封印されているリングを、ア-リンの指にハメて旅立ったのだ。
しかし、この異世界での常識を知らない響は、大きな間違いを犯していた。
響は、わざわざ左手の薬指を避けて、中指にリングをハメたのだが、この世界では、未婚の女性が左手中指にリングをハメる事こそ、婚約・結婚の証だったのだ。
そしてその事を、響は知る由もなかった。
「マスタ-、調査完了!」
「それで、どうだった?」
全員、食事の手を止めて琴祢の報告を待っている。
「『生体認証チップ』の確認が取れない者が九名、その内四名が亡くなった夫婦と娘二人の物で、残りの五人が、何度かランゲルンで問題を起こしていたナミゴシの不良グル-プのメンバ-だよ」
「あいつ等か~」
アリス団長は、スプ-ンを持ったまま立ち上がり、何かを後悔しているようだ。
「アリス団長………何か心当たりの者が?」
「あっ。はい、ランゲルンで一度、喧嘩で捕まえた事があります。ですが二日間投獄した後、解放致しました。それがまさか、殺しを行うとは………」
響の問いにアリス団長は、『あのまま投獄していれば』と後悔していた。
「喧嘩だけでは、仕方なかろうて。響様、騎士団が設置している『座標設定アンカー』か、空飛ぶ道具は使えませんかな?」
ウルム公爵は、『ヒビキアイランド』の中でも、古株になって来ただけあり、よく物事を知っていた。
それがあっての公爵様なのである。
「それ無理! だって、『座標設定アンカー』は人や物を転送するのが目的だから、魔物や動物の数は分かっても、映像は取り込めないし~、ドロ-ンを送り込むにしても範囲が広すぎて、見付けるのは何時になるか………分かんない!」
調子狂うなぁ~。
「アリス団長。今、捜索はどの位の規模で行ってる?」
「はい、響様、五分隊六十名で捜索しております」
「ですがアリス団長殿、そ奴らが馬か馬車で逃げているのであれば、後を追うのは容易いのではないですか?」
「はぁ~、奴らが痕跡を消しているのか、見付けるのが難しく………と言いますか、痕跡を見付けて後を追うだけの技量を持つ者が、フェスタ-騎士団にいないのが実情なのです。アクラ族長」
騎士団は、敵と戦うのが使命であり、捜索をする者はそれ専門の部隊か、冒険者に依頼するのが基本であった。
しかし、『ヒビキアイランド』には、捜索専門の部隊も冒険者組合も無いのである。
それに、今回のような事件が起きること自体、誰も考えていなかったのだ。
「それでは、我が部族の中で、捜索に長けた者を派遣致しましょう」
「それはありがたい。アクラ族長、感謝致します」
アリス団長は、秘密機関タンバの事を知っていたのであろう、アクラ族長の申し出を直ぐに受け入れ、礼まで述べていた。
それにしても、『生体認証チップ』は、何故壊れたんだ?
それに、今回の件を考えると………
「静止衛星でもあればなぁ~」
響の独り言に、皆が注目する。
静止衛星が、気になったようだ。
「作れるよ!」
「はぁ~琴祢、静止衛星だぞ? どうやって上げるんだよ!」
「衛星を静止軌道上に、転送すればいいんでしょ!」
「ああ、そうなの………」
琴祢の言う『静止軌道上』が、あまり理解出来ない響であった。
その後、コタン村から派遣されたメンバ-を伴い、捜索が行われる事三日目に、ナミゴシ達は捕まり娘達は解放された。
しかし、娘達の精神は崩壊しており、ナミゴシ達の所業は人々の反感をかい、処罰の行方に注目が集まった。
『アイランド会議』で、ナミゴシ達の事情聴取を行い審議した結果。
後悔の念も見られず、ナミゴシ達の公開処刑が言い渡され、ランゲルンの広場で即日刑が執行された。
残酷なようではあるが、まだ成熟していない時代と言う事も有り、響も納得するしかなかった。
その後、『生体認証チップ』は改良され、『ヒビキアイランド』の空には三つの静止衛星が、『ヒビキアイランド』の住人達を見守るように、静止軌道上に設置された。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる