NineRing~捕らわれし者たち~

吉備津 慶

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43.ダンジョン捜索2 生き物だ

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 ダンジョン内は、響が思う以上にバリエイションにたけていた。

 響が思うダンジョンとは、石のブロックで覆われた、四角い通路が続く先に扉が現れて、魔物が待ち受けている,と言ったシチュエーションを考えていた。
 しかし、実際は洞窟のように暗く、灯りがなければ歩き難く足を取られてしまう。
 ダンジョンを先に進むと分かれ道も多く、先に潜っている冒険者達の案内がなければ、なかなか前には進めなかったはずである。

 三十一階層まで響達が来るまでに十五時間近くかかっていた。
 その間、魔物達と八回戦闘になり、ジュリアン達の持つ武器のストックも、今持っている武器が最後となり、その強度と切れ味も落ちて来ていた。

 「よし、今日はここまでにしよう。ア-リンは、周りに警戒用の鈴を設置してくれ。響とモカは、食事の用意を頼む。俺は他の冒険者三人と周辺の警戒だ」
 ジュリアンの指示で、各自が動き出す。

「モカさん、食事の用意って何をするんだ?」

「預かった皆の器とカップに、干し肉と乾燥豆と水を分けるんだよ」

 ダンジョン内には、持って来たロ-ソクとタイマツ以外、火を熾すものは何もなかった。だから、持って来た物を分けて、食べる事ぐらいしか出来なかったのだ。

 「それなら…………」

 響は、大きめの石を集めて囲炉裏を造り、囲炉裏の中にポ-チから取り出した木炭を重ねて行く。
 次に、固形燃料を散りばめてマッチで火を点ける。
 木炭に火が点いた所で鍋に水を入れて、囲炉裏の上に乗せる。
 後は大人数用の非常食ス-プの粉末と、干し肉と乾燥豆を鍋に放り込む。
 ジュリアンが、戻る頃にはス-プの出来上がりだ。
 ついでに、パンと桃の缶詰めを出しておく。

 「もう驚かないけど、リーダーが君に料理を任せたのは、これが目的だったのかもネ……」

 なるほど…………これからも、このチ-ムにいる限り、食事は俺が用意するって事ね…………
 まあ、いいか……後で料金を請求すればいいんだから。

 響は、簡単に考えているが、ジュリアンはそこまで甘くはない。だてにチ-ム『ファルコン』の、リーダーをしている訳ではないのだ。チ-ムリーダーともなれば、備品の購入からメンバーの生活、お付き合いなどもその肩にかかって来る。金銭にはかなりシビアなのだ。
 響を、チ-ム『ファルコン』に誘ったのも、衣食住が目当てだった事を、響は後に知る事となる。
だが、金銭への執着心をよければ、人情溢れるよいリーダーなのである。

 「モカさん、これ……」

 響は、他の冒険者がいない事を確認して、ロングコートの内側から、モカが持っているブロードソードと、同じ物を二振り取出して渡した。
 ジュリアンのグラディウスや、ア-リンのレイピアも出して置いた。

 「君ってほんとに、驚く事ばかりしてくれるね!」
 モカは、古いブロードソードを響に手渡す。
 響は、あらかじめ、ジュリアン達と武器の交換に付いては、話をしておいた。

 「なんだ、良い匂いがするな~」

 「火をおこしたのか……なんだこれは!」
 見回りから帰って来たジュリアン達冒険者が、木炭を見て驚いている。

 「それは、『木炭』て言う、木を燃やして作る燃料です。もう少しストックが出来たら、店で売るのでよろしく!」

 この食い付き具合なら、当面は売れるな。

 響がこの世界に来て、木炭などの燃料がない事を知り、ウルム村長に作り方を教えて、木炭を作ってもらっていたのだ。
 ただ、木炭が売れると分かれば、頭のいい奴なら作り方など直ぐに気づくものである。
 だから響は、マ-ク・ロックフェルに木炭の作り方を教えて、その売り上げの一部を毎月、受け取る契約を既に、済ませていたのだった。

 こんな所で、温かい食事が出来るとは、思っても見なかった冒険者達は大いに喜び、桃の缶詰めはあっと言う間になくなってしまった。



 「このままではだめだ、お前後退して助けを呼んで来い!」

 ミノタウロスの攻撃をかわしながら、リーダーらしき男は若い女性冒険者に命令する。
 女性冒険者は腕に傷を負いながら、助けを呼びに走り出す。
 しかし、分岐した別の通路から、二十匹のゴブリンの群れに取り囲まれてしまう。
 女性冒険者は、剣と盾で防戦するが、多勢に無勢あっと言う間に引き倒されて、通路の暗闇へと連れ去られてしまった。

 「ここから先は無理だな。いったん四十階層まで後退するぞ」

 ミノタウロスが、最後の冒険者の首を斬り飛ばすのを確認して、王国警備隊の制服を着た男は、ミノタウロスを連れて後退して行く。

 三十四階層から三十六階層の通路は、ミノタウロスが通るには、あまりにも狭すぎたのだ。

 ミノタウロスに倒された冒険者達の遺体が消えて行く、肉体はダンジョンの成長に繋がり、武器、防具、備品、金銭等は、隠し部屋に捨てられて、それを見付けた冒険者は、お宝発見と勘違いしてしまう。
 ダンジョンは『生き物だ』と言われる所以ゆえんが、こう言った所にあるのかもしれない。

 暗殺者専用のダンジョンがあるのも、ダンジョンに遺体を遺棄すれば、人知れずダンジョンが処理してくれるからである。
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