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第13章 新たな「旅立ち」に向けて
第368話 「特別」な存在
しおりを挟むエルードが話した敵の「目的」、そして、その敵がいかに強大な存在であるかを聞かされて、春風達が戦慄していると、
「……あのさ、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
と、水音が恐る恐る口を開いた。
「何かな水音君?」
「どうして僕達なの? この世界に住んでいるリアナさんはわかるけど、僕と春風は異世界の人間なんだよ?」
水音のその質問を聞いて春風は、
「あ、そういえば!」
と、驚きの声をあげた。
質問されたエルードは「それは……」と表情を暗くすると、
「……ごめんなさい、そこまでは私にもわからなかったわ。連中が何か知ってるのかもしれないし、酷い言い方になるけど、もしかしたら、そういう『運命』なのかもしれないとしか言えないの」
と言うと、再び「ごめんなさい」と謝罪したので、水音は「そっか」と残念そうな表情になった。
しかし、
「でもね」
と、エルードが口を開いたので、春風達は頭上に「?」を浮かべると、
「私はもしかしたら、貴方達ならアイツらを倒せるかもしれないって思ってるわ」
と、エルードは真っ直ぐ春風達を見てそう言ったので、
「どうして?」
と、春風が尋ねると、エルードは真っ直ぐ春風達を見つめたまま、
「それは貴方達が、特別な固有職保持者だからだよ」
と、答えた。
するとここで、
「私からも聞いていいかな?」
と、リアナが「質問があります」と言わんばかりに手を上げた。
「? どうかしたの?」
と、エルードが尋ねると、
「特別もなにも、そもそも固有職とか固有職保持者って、一体何なの?」
と、リアナは尋ね返した。
それを聞いて、春風だけでなく水音までも、
『あ、そういえば!』
と、2人して驚きの声をあげた。
しかし、そんな2人をよそに、エルードは答える。
「その説明をする為に、まずは『職能』というものについて説明するね」
ーーコクリ。
「さっきも言ったように、連中の目的は『次元の壁』を破壊することなの。その為にも、自分達の力をつけて強くなるのは勿論だけど、その他にも自分達の意のままに動く『兵士』と、武器である『兵器』を手に入れなければいけないの」
「兵士と兵器?」
「そう、それもあらゆる状況に対応出来る優れた『兵士』と『兵器』をね。その為に、連中はあらゆる世界を侵略して、そこから必要な情報なんかを入手して、それをもとに最強の『兵士』と『兵器』を作り上げることも、連中の目的に含まれているの。で、その情報を集める『収集役』として作られたのが、今のこの世界でいう『人間』って種族で、情報を集める為の『道具』が『職能』っていうわけ」
「情報を、集める?」
「ええ。戦闘系の職能でその人が身につけてきた『戦闘技術』を集めて、それをもとに『最強の兵士』を生み出し、生産系の職能でその人が磨き上げた『生産技術』を集めて、それをもとに『最強の兵器』を作り上げる。これがアイツらの考えよ」
「それって、つまり今この世界で暮らしてる人間は……」
「そう、最初からアイツらの『道具』ってわけ」
そう答えたエルードを前に、春風達は拳をグッと強く握った。特にエルードの住人であるリアナは、
「許せない」
と、怒りで体を震わせていた。
そんな春風達を前に、エルードは更に話を続ける。
「だけど、ここで連中にとって、思わぬアクシデントが起きたの」
『アクシデント?』
「ええ。本来は連中の『道具』の1つに過ぎない職能なんだけど、その中から自分達の手から離れたものが現れたの」
「もしかして、それが……?」
「そう、『賢者』の固有職能よ。本来、職能っていうのは自分達の目的の為に作った道具の1つで、当然それら全ては連中の管理下に置かれていたものなの。でも、その内の1つが、どういうわけか自分達の手のもとから転げ落ちて、1人の赤ん坊に宿ってしまったの」
「それが、『最初の固有職保持者』の誕生日になったわけだね?」
春風にそう問われて、エルードはコクリと頷いた。
「そう。そして、その人の力が暴走した際に、その人が持つ固有職保持者としての『因子』のようなものが、空気を通して世界中に広まってしまって、それをきっかけに世界中で、ごく稀にだけど固有職保持者が誕生するようになったの」
と、エルードがそう説明したその時、春風の脳裏に1つの「疑問」が浮かんだ。
「ちょっと待って。それなら、どうして俺達、固有職保持者になれたんだ? 特に俺が固有職保持者になったのは、オーディン様と契約した時なんだけど」
その質問を聞いて、エルードは「うーん」と唸りながら答える。
「多分だけど春風君の場合は、空気中に漂ってた『因子』が、ルールを無視した『勇者召喚』の儀式に紛れ込んで、それがたまたま儀式に抵抗してた春風君に宿ってしまって、それが神との契約をきっかけに固有職に変化した……みたいな?」
「えぇ?」
「で、リアナちゃんの場合は、リアナちゃんに宿っている獣人と妖精の力が、『因子』と混ざり合って出来上がったもので、水音君の場合は、元々持っていた『力』に『因子』が加わって、それが自称・女神のマールに逆らったことをきっかけに覚醒した……みたいな感じ、かな?」
「「え、えぇ?」」
「で、ここからが重要なんだけど、春風君は今言ったように、神様と契約を交わした。つまり、冗談抜きで神様の『加護』を持っていて、リアナちゃんの場合は、力を奪われていたとはいえ本物の神様に愛情たっぷり与えられて育てられたから、こっちも冗談抜きで神様の『加護』を持っていて、水音君の場合は、偽物とはいえ神様に逆らったわけだから、この場合は『加護』というよりも、職能に宿っていた『神の力』を、強引に自分のものにしちゃった……感じって言えばいいのかも」
「……つまり、俺達が特別なのって、『思いっきり神様と深ーく繋がっているから』的な理由ってことでいいのかな?」
ジト目でそう尋ねた春風にエルードは、
「あー、うん。まぁ、そんなところ」
と、なんとも情けなく「アハハ」と笑いながら答えた。
それを聞いて、春風、リアナ、水音は「フ……」と笑うと、
「「「駄目だ! なんか勝てる気がしなぁい!」」」
と、3人同時に膝から崩れ落ちるのだった。
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