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第13章 新たな「旅立ち」に向けて
第363話 「巫女」になった少年の話
しおりを挟むそれは、とある国に存在する小さな村でのことだった。
その村では代々年に1度、村人達が崇める土地の神への捧げ物として、その神に仕える「巫女」による『舞』を踊ることになっていた。
ある時、その「舞」の美しさに目を奪われた1人の村人が、
「こんな素晴らしい『舞』を、村の中だけのものにするとは勿体無い。もっと大勢の人にも見てもらおう!」
と、言い出し、一部の人達の反対を押し切って、その「舞」を村の外の人達にも見せることになった。
そして、これが大成功となり、村の外の人達が見た「舞」はSNSによって世界中に拡散され、やがて国外からも大勢の人達がその「舞」を見に来るようになった。
そして今から4年前、13歳になった春風は、中学に上がったお祝いとして、師匠である凛依冴に連れられて、養父の涼司と共にその村を訪れた。目的は、その村に伝わる「舞」を見る為だった。
ところが、いざその村に辿り着くと、何やら様子がおかしいことに気づいて、春風達は何が起きているのか聞くことにした。
村人達の話によると、「舞」を踊る巫女役の少女が病気なってしまい、「舞」を踊ることが出来なくなってしまったのだという。
これだけ聞くと、
「それなら、誰か代役をたてればいいのでは?」
という結論に至るのだろうが、どういうわけか少女が病気になったのをきっかけに、彼女と同じ年頃の少女達だけでなく、なんとその少女達よりも年下の少女達、更には年上の女性までもが、皆次々と病気で倒れてしまい、残ったのは年頃の少年と男性、そして歳をとって最早まともに体を動かすことが出来ない老婆だけになってしまったのだ。
この奇妙な事態を聞いて、春風達はどうしたものかと悩んだが、帰ろうにも日が暮れてしまい、仕方なくその日は村に泊まることになった。
そんな中、春風は1人、村近くの森の中を散歩していると、ふと例の「舞」を踊っている動画があるのを思い出して、その動画を見ることにした。
(……なんか、誰かと踊ってるみたいだな)
と、動画を見てそう思った春風は、自分以外の誰もいないことを確認すると、その「誰か」になっているかのように、動画の「舞」を踊ってみることにした。
(あ、ちょっと難しいところもあるけど、結構楽しいかも)
と、その「舞」を踊りながらそんなことを考えていると、
「ーーーっ!」
「?」
と、何やら怒鳴り声のようなものが聞こえたので、踊るのをストップして声がした方へと振り向くと、そこには1人の老婆と複数の男性が、何やら鬼気迫る様子で春風を見ていた。
「あ、あの……」
と、春風が老婆達に話しかけようとしたその時、
「ーーーっ!」
「え、ちょ、何!?」
と、春風は複数の男達に押さえられ、何処かに連れ込まれた。
そこは、村の中にある土地神を祀る建物の中のようだった。
中に連れ込まれた春風を、老婆達を含めた周囲の人達はジィッと観察するように見回した。
そして、一通り見終わると、老婆達は何かを話し合い、再び春風を見て、
「ーー」
と、謝罪するかのような仕草をした後、突然一斉に春風の服を脱がし始めた。
「わ、な、何!? 何何何ぃ!?」
あっという間に服を脱がされてしまい、訳もわからずオロオロする春風を前に、老婆が見せたもの。
それは、何処か神聖な雰囲気をした女性ものの服だった。
老婆は仲間と思われる別の老婆達と共に、その服を春風に着せると、次に春風の顔に化粧をした。
そして化粧が終わって、老婆達と男性達が春風の前に立ち、今の春風の姿をじっくり見ると……。
「(にっこり)!」
と、皆、満面の笑みを浮かべて親指を立てた。
「あ、あのぉ……」
と、戸惑う春風を無視して、老婆達は春風を「とある場所」へと案内した。
そして、案内されたその場所は、
(こ、ここって、祭壇!?)
そこは、「巫女」が「舞」を踊る為の祭壇だった。
よく見ると、さいだんの周りには大勢の人達がいて、その中には凛依冴と涼司の姿もあって、2人とも口をあんぐりしていた。
(こ、これって、まさか……)
ここへきて、春風は漸く理解した。
(俺が踊るのぉーっ!?)
自分が、「舞」を踊る「巫女」役だということに。
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