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第12章 集結、3人の「悪魔」
第326話 春風とイブリーヌ・4
しおりを挟むそれは、裁判(?)が終わってから少し経った時のことだった。
ウィルフレッドからわけのわからない判決を受けた春風は、1人帝国陣地のテント近くの森を歩いていた。
(……うん、この辺かな)
そして、少し開けた場所に着くと、
「……いるのはわかってますので、出てきたらどうですか?」
と、周りに向かってそう言うと、森の中から数人の男女が出てきて、春風を取り囲んだ。
その正体は、セイクリア王国に所属する騎士達だった。
「……いつから気づいた?」
と、騎士の1人が春風にそう尋ねると、
「裁判が終わった後ですかね。なんとなく嫌ぁな視線を感じちゃいましてね、ちょいと誘わせてもらいました」
と、口調は丁寧だが、何処か太々しい態度で春風はそう答えた。
騎士達はそれを聞いて、皆一斉に春風をキッと睨みつけたが、春風はそれに構わず、
「で、俺に何の用ですか……って、まぁ、恐らくイブリーヌ様関連でしょうけど」
と、半ば質問するかのような感じで騎士達に話しかけると、
「わかっているなら話は早い。大人しくイブリーヌ様から手を引け」
と、騎士の1人が春風に命令するようにそう言った。
「……『嫌だ』と言ったら?」
と、春風が真剣な表情で騎士達を見ながらそう尋ねると、騎士達は無言で腰の剣を鞘から引き抜き、それぞれ構えた。
「……良いのかな? バレたらイブリーヌ様を悲しませ、ウィルフレッド陛下の立場を悪くし、ギルバート皇帝陛下や、邪神ループスの怒りを買うと思いますけど」
春風は真剣な表情を変えずに騎士達にそう尋ねたが、騎士達は答えることもなく、それぞれ自分達の剣に魔力を込めた。
技を放つつもりだろうと思った春風は、
「……ほんと、やれやれだよ」
と小さく呟くと、腰の彼岸花を抜こうとした。
その時、
「おやめなさい」
という声に反応して、春風と騎士達は一斉にその声がした方へと振り向くと、
「イブリーヌ様!」
そこにいたのは、イブリーヌだった。
イブリーヌは足早に春風に近づくと、
「セイクリアの騎士達よ、彼に手を出すことは許しません」
と、真っ直ぐ騎士達を見てそう言った。
それを聞いた騎士の1人が、
「し、しかし……!」
と、何か言おうとしたが、
「彼はこのわたくし、イブリーヌ・ニア・セイクリアが、心の底から惚れ、わたくし自ら唇を捧げた殿方です。その彼に手を出すことは、たとえ『神』が、『世界』が許しても、このわたくしが絶対に許しません。どうか武器を納めて、このままセイクリアの陣地に帰ってください」
と、イブリーヌはそれを遮るように騎士達に命令した。
騎士達は納得が出来ないといった様子だったが、その内の1人が、
「……わかりました」
と言うと、持っている剣を鞘に納めた。それに続くように、他の騎士達も、自分の剣を鞘に納めた。そして、全員無言でその場を後にした。
春風はその後、周りに誰もいないのを確認すると、
「あの、ありがとうございます、イブリーヌさ……」
と、イブリーヌにお礼を言おうとしたが……。
ーーガバッ!
最後まで言おうとしたまさにその時、いきなりイブリーヌに抱きつかれた。
「ご無事でよかったです、ハル様」
春風を抱きしめた状態でイブリーヌがそう話しかけると、春風は困っているかのような笑みを浮かべて、
「……ご心配をおかけして申し訳ありません、イブリーヌ様」
と、イブリーヌを抱きしめながら謝罪した。
それから少しすると、
「……あの、ハル様」
「何ですか?」
「……今日の、お父様が出した判決を、どう思ってますか?」
と、イブリーヌは春風に恐る恐るそう尋ねた。
春風はその質問を聞いて、少し考え込むと、
「……大変申し訳ありませんが、情けない話、いきなり『結婚せよ』とか言われましても、こちらとしましては正直かなり困ります。まだ解決しなきゃいけない問題がありますし」
と、申し訳なさそうな表情でそう答えた。
「そ、それは……そうですね」
と、春風の言葉を受け入れたイブリーヌはシュンと悲しそうな表情を浮かべた。
そんなイブリーヌに、
「俺からも、聞いていいですか?」
「? 何でしょう?」
「本当に、俺なんかで良いのですか?」
と、今度は春風がイブリーヌにそう尋ねた。
「それは、どういう意味ですか?」
「いや、こう言っちゃなんですけど……俺、イブリーヌ様の他に複数の女性の影がありますから……」
と、思いっきり申し訳ないといった表情で春風がそう言うと、イブリーヌはクスクスと笑って、
「大丈夫です。わたくし、ハル様と一緒にその人達も愛する自信がありますから」
と、春風を真っ直ぐ見てそう言った。
その言葉を聞いた春風は、
「……ハハ、こりゃ参りましたなぁ」
と、再び困っているかのような笑みを浮かべた。
その後、2人はしばらく笑い合うと、
「帰りますか、みんなのところへ」
「はい、ハル様」
と言って、その場を後にするのだった。
しかし、その時の様子を、憎しみに満ちた目で見ていた者がいたことを、2人は知らなかった。
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