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間章5
間話33 その後のモーゼス
しおりを挟むそれは、モーゼスとその他数名が、ウォーリス帝国から戻ってきた後のことだった。
モーゼス達が戻ってきてからも、相変わらずセイクリア王国王都では……というより、五神教会からは多くの信者が去っていた。一部の幹部達と残った者達でどうにか彼らを思いとどまらせようとしたが、女神マールが潰された「あの日」以来、教会……というより、皆「神」に対して不信感のようなものが芽生え始めていたので、幹部達がどれだけ言葉で説得しても、教会を出て行く者達は一向に減らなかった。
教会内がそんな大変な状況に陥ってる中、肝心の教主であるモーゼスはというと、
「おい、教主様の様子はどうだ?」
「駄目です、一向に部屋から出る気配がありません。こちらが何度声をかけても、全く返事がないのです。おまけに部屋の扉には鍵もかかっていました」
「そうか……」
と、モーゼスは戻ってきてから自室に閉じこもってしまい、以来そこから出てこないどころか、部屋の外から話しかけても返事が全くない状態だという。
さて、そんなモーゼスは今、
「……」
自室のベッドの上でシーツにくるまっていた。
ウォーリスでの一件以来、食事も一切喉を通らず、その体はガリガリに痩せ細っていて、両目は大きく見開かれていた。
そんな状態の中、モーゼスは何を考えているのかというと、
(何故だ? 何故、こんなことになった? 私が一体、何をしたというのだ?)
と、自分が何故こんな状態になっているのか、全く理解出来ていなかった。
否、理解はしているのだが、本人はその「理由」を認めようとしなかったというのが正しいのだろう。
自身がこんな状態になった「理由」、それは、ウォーリスでの一連の出来事だった。
モーゼスがウォーリスに向かった目的は、春風の勧誘、もしくは暗殺だった。
しかし、そのどちらも失敗しただけじゃなく、目の前で彼と同郷である「勇者」達が敗北したという事実を見せつけられ、更に彼らの故郷である「地球」の神々を怒らせたという事態まで引き起こしてしまったのだから、その時受けたショックは相当なものなのだろう。
だが、
(う、嘘だ。こんなの、嘘だ)
と、モーゼスはそれを一切認めないどころか、しまいには、
(わ、私は悪くない。私は、悪くないんだ!)
と、自身の非さえも認めようとしなかった為、本部に戻ってすぐに自室に鍵をかけて閉じこもってしまい、それ以来部屋から一歩も出ず、誰とも話そうとしなくなったのだ。
(私は……悪くない。私は……間違ってなど……いない……)
と、そんなことばかりを考えていたモーゼスだが、段々と意識がなくなってきているのか、次第に何も考えられなくなっていた。
そして、今にも生き絶えそうになった、まさにその時、眩い光と共に、1人の人物が部屋の中に現れたのだ。
それは、長い金髪を持つ青年だった。
青年はベッドの上のモーゼスに近づくと、シーツを剥ぎ取り、ニヤリと笑って、モーゼスの額に手を置いた。
すると、モーゼスの体が青年と同じように、眩い光に包まれた。
それから少しして、
「モーゼス教主様、大丈夫ですか!?」
と、異変が起きたのを感じた幹部達が、閉ざされた部屋の扉をバァンと乱暴に開けて一斉に中に入ったのだが、
「きょ、教主様?」
「教主様は何処に?」
そこにモーゼスと金髪の青年の姿はなかった。
「さ、探せ! すぐに教主様を探すんだ!」
『ハッ!』
その後、すぐに幹部達はあちこちでモーゼスを探したのだが、何処を探しても結局、モーゼスが見つかることはなかったという。
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