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第10章 動き出した五神教会
第232話 ありえない要求、からの……
しおりを挟む(この男、一体何を言ってるんだ?)
モーゼスがウォーリス帝国に来た理由を聞いた瞬間、謁見の間にいる者達全員(ただし、モーゼスと他3名は除いて)は、心の中でそう呟いた。
それは、彼らだけでなく、別室でこの話を聞いていた者達も同様だった。
当然だろう。何せ、帝国に来た理由が、
「勇者達と春風を返せ」
なのだから。
ギルバートは理解が追いつかないのかボーッとしていたが、すぐに真面目な表情になって、
「随分と妙な事を言うなぁ。一体何を考えているんだ?」
と、モーゼスに向かってそう尋ねた。
それに対してモーゼスは、穏やかな笑みを崩さずに答える。
「ああ、そんな警戒しなくても理由は話しますよ。数日前の彼と桜庭水音の『決闘』は私も見ていましてね、いやぁ『勇者』の称号を持ってないにも関わらず、彼の戦いぶりはとても素晴らしかったですよ。であれば、是非ともセイクリア王国の『勇者』達と共に、この世界を救って貰おうと思い、私自ら、こうして出向いてきたわけなのですよ」
「ちょっと待て、あの『決闘』を見ていたってんなら、妻の話を聞いていなかったのか? あいつは『勇者』達と一緒に召喚されたんじゃない、異世界の神々によってこの世界に送り込まれた人間なんだぞ?」
「ですが、彼もまた本来は『勇者』の一員として召喚される筈だったのです。なれば、召喚されし勇者と共に力を尽くして貰うのは当然の事ではありませんか」
「オイオイ、これも忘れたのか? あいつは固有職保持者、お前達にとっては、『悪魔』と言える存在なんだぞ? 神々を崇拝する教会が、『悪魔』に助けを求めるのか?」
「彼の職能につきましては、今は世界の危機ですので、この際目を瞑りましょう。なにせ、異世界の神ではありますが、彼もまた神の加護を受けし者なのですから」
「じゃあ、こいつも忘れたってのか? 決闘があったあの日、女神マールと異世界の神アレスの戦いを、その後女神マールを春風が必殺技で潰した事も。というか、イブりんその女神に殺されかけたんだぞ? この辺はどう言い訳するつもりだ?」
「それでしたら、おそらく双方の神々との間に、何か『誤解』のようなものがあったのでしょう。なぁに、時間をかけて説明すれば、きっと神々も最後は分かり合って、世界を救う為に手を取り合ってくださるでしょう。それに、女神マール様が潰された事につきましては、春風殿の方にも何か『誤解』があったに違いありません。こちらにつきましては、私達五神教会が誠心誠意説明すれば、きっとマール様だけでなく、他の神々への『誤解』もなくなるでしょう」
「ていうかこれ、どう考えてもウィルフの許可が必要な案件だろ。その辺りは良いのかよ?」
「勿論、ウィルフレッド陛下でしたら、後で話をつければ問題はないでしょう」
(うわぁ、滅茶苦茶な事言ってるよこいつ)
立て続けに質問するギルバートに対し、穏やかな笑顔を崩さずに答えるモーゼス。
そんなやり取りを繰り返した末、ギルバートは「ハァ」と溜め息を吐くと、
「成る程、あんたの言いたい事はよくわかった。取り敢えず、俺からの答えを言おう」
「おお、是非とも聞かせてくだ……」
「だが、その前に」
「……その前に?」
ギルバートの言葉に、モーゼスはキョトンと首を傾げると、ギルバートはスッと玉座から立ち上がって、
「……ギルバート陛下、もう良いでしょうか?」
と、何故かエドマンドを見てそう言った。
すると、エドマンドは「ハハ」と乾いた笑い声を漏らして、
「ああ、良いぜ。聞いてて滅茶苦茶気分が悪くなってきた」
と答えた。
2人のそのやり取りを見て、モーゼス達4人は次々と頭上に「?」を浮かべていると、エドマンドはモーゼスの方を向いて、
「あのさぁ、いい加減気付けよ」
と、モーゼスとやり取りしていた時とは違った雰囲気を出してそう言うと、自身の首に手を当てて、小声で呪文のようなものを唱えた。
すると、エドマンドの全身が眩い光に包まれて、やがてその光が消えると、そこに立っていたのは、
「な! ギルバート皇帝陛下!」
そう、立っていたのはエドマンドではなくギルバート本人だった。
「で、ではこちらにいるのは!?」
驚いたモーゼスが目の前のギルバート(?)に向き直ると、ギルバート(?)も無言で自身の首に手を当てて、小声で呪文のようなものを唱えた。
すると、ギルバート(?)の全身も眩い光に包まれて、やがてその光が消えると、そこに現れたのは、
「ゆ、幸村春風!」
そう、春風だった。
春風は「ハァ」と溜め息を吐くと、それまで驚きのあまり固まっていたモーゼスは、
「こ、これはこれは、幸村春風殿……」
と、すぐに穏やかな表情になって話しかけようとしたが、
「帰れハゲェッ!」
と、モーゼスのセリフを遮ってそう言い放った。
それを聞いたモーゼスと他3名は、
「「「「ハゲェエエエエエエエッ!」」」」
と、全員ショックで悲鳴をあげた。
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