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第9章 出会い、波乱、そして……
第203話 訪れた者
しおりを挟むアデレードとの勝負が終わり、メイベルから届け物と伝言を受け取った春風。
その日の夜、春風は帝城の自室の窓から、夜空を眺めていた。
「……」
空に輝く月と星々を見ながら考え事をしていると、トントンと部屋の扉をノックする音がして、「誰だろう?」と扉を開けると、
「ヤッホー、ハルッちー」
そこにいたのは、恵樹だった。
「こんな時間に、どうしたのケータ?」
と、春風が尋ねると、
「いやぁ、今日はお疲れ様ってことで、どうかなって思ってね」
そう答えた恵樹が取り出したのは、中身が入った大きなボトルが1瓶に2つのグラスだった。それを見て春風は、
「……俺達、未成年だぞ?」
と、恵樹に警戒心剥き出しの視線を向けると、
「ああ、大丈夫大丈夫! これジュースだから!」
と、恵樹はわざとらしく手を振りながら慌てた様子で言うので、春風は少しだけ警戒心を緩めると、
(うん。嘘は言ってないな)
と、予め入手しておいた[嘘発見]のスキルを発動させて、恵樹の言っている事が嘘ではないことを理解し、彼を部屋に招き入れた。
その後、2人はそれぞれのグラスに注がれたジュースを飲むと、
「で、ケータ」
「ん?」
「ここに来た本当の目的は何?」
「ブホっ!」
いきなり春風にそう尋ねられて、恵樹は飲んでいたジュースを吹き出しそうになった。
「え、えっと、何を言ってるのかな?」
恵樹はそう質問したのだが、春風は真面目な表情を崩さずに、
「悪いけど俺には嘘は通じないよ」
と言って、ジィッと恵樹を見つめた。
その視線を受けて、恵樹は冷や汗を流すと、観念したかの様な表情になって口を開いた。
「……俺はね、ずっとハルッちに『聞きたいこと』があるんだ」
「俺に?」
「うん。ただその話をする前に、君に謝りたいことがあるんだよね」
そう言われて、春風が「何?」と首を傾げると、
「ごめん! 実は俺、君と桜庭君との決闘前、君とユメッちちゃんの関係っていうか過去、聞いちゃったんだよね」
と言って、勢いよく頭を下げた。
それを聞いて春風は、
(ああ、あの時か)
と理解すると、
「あー、まぁ、うん、いつかは話をしなきゃなって思ってたから、別に良いよ」
と、恵樹の謝罪を受け入れた。
その後、春風に促されて恵樹が顔を上げると、
「で、聞きたい事って何かな?」
と、春風は改めて恵樹に尋ねた。
尋ねられた恵樹は一旦深呼吸すると、それまでのお調子者っぽい雰囲気とは違って、真剣な眼差しを春風に向けた。
「ねぇハルッち……」
「……何?」
「君は、『科学者大虐殺事件』って知ってるかな?」
「……うん、7年前に起きた事件だよね?」
「そう。7年前、とある小さな国で、世界中から集められた科学者達が、突如襲撃してきたテロリスト達によって皆殺しにされたっていう事件があって、ジャーナリストの俺の父ちゃんが、その事件の謎を追っていたんだ」
「追っていた?」
「うん。世間では科学者達は全員死んだってことになってるけど、『まだ誰も知らない真実があるかもしれない』って、父ちゃんだけは納得していなかったんだ」
「……」
「それから父ちゃんは、あちこち回って色々と調べていくうちに、ある『事実』に行き着いたんだ」
「……ある事実?」
「うん。殺された科学者達の中には、ある日本人の夫婦がいて、事件があった日、その夫婦は当時10歳の1人息子と一緒に、その国を訪れていたんだ」
「……」
「そして事件が起きて、その日本人夫婦はテロリストに殺されたけど、何故か1人息子だけは行方不明のままだったんだ」
「……」
「もっとも、その後政府によって息子も死んだってことになったんだけどね。でも父ちゃんは、それでも納得する事が出来ずに、ずっとその息子の行方を追ってたんだ」
「……そうだったんだ」
恵樹の話を聞いて、春風はギュッと自分の胸を押さえたが、恵樹はそれに構わず話を続ける。
「その日本人夫婦の名前は、光国冬夜と、光国雪花。そして、行方不明になった息子の名前は、光国春風」
恵樹がその名前を言った瞬間、2人の周りの空気が重くなった。
「教えてよ、ハルッち……」
そんな状況の中、恵樹は春風に質問する。
「君は、科学者・光国冬夜博士と、その助手・光国雪花博士の息子だね?」
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