ユニーク賢者の異世界大冒険

ハヤテ

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間章3

間話13 春風と歩夢と「マリーさん」

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 それは、春風と水音の決闘日が決まった後のことだった。

 「ね、眠れない」

 外はもうすっかり夜中なのに、春風は中々眠れないでいた。

 原因はわかっている。水音との決闘が3日後に決まったからだ。

 いや、正確にはそれだけが理由ではないのだが。

 「あーもう! こんなんで眠れるか!」

 と、ガバッと上半身を起こした春風はそう叫び、そこら辺を散歩しようと考えて客室を出た。

 帝城の中を少し歩いていると、何やら広い場所に出た。そこは、帝城の中庭の様だった。

 中庭に出た春風がふと空を見上げると、

 (綺麗だなぁ……)

 大きな月がはっきりと見えて、無数の星々がキラキラと輝いていた。

 (シャーサルのみんなは、今頃どうしているかな?)

 と、そんなことを考えていると、

 「フーちゃん?」

 「え?」

 突然の声に驚いた春風は、すぐに声がした方へ振り向くと、そこには歩夢がいた。

 「ユメちゃん、どうしたの?」

 「えっと、眠れなくなっちゃって……。フーちゃんは、どうしてここに?」

 「あー、実は俺も眠れなくなっちゃって……」

 「そっか。ねぇ、フーちゃん」

 「何?」

 「隣、良いかな?」

 「……うん」

 その後、2人は並んで中庭に立つと、一緒に夜空を見上げた。

 暫くの間星々を眺めていると、歩夢が口を開いた。

 「フーちゃん」

 「ん?」

 「桜庭君との決闘、決まったね」

 「うん」

 「緊張してる」

 「……うん」

 「そっか。じゃあさ……」

 「?」

 「リアナさんとイブリーヌ様の事、どう思ってる?」

 「……」

 歩夢にそう質問されて、春風は少しの間沈黙していたが、意を決して答える。

 「正直に言うと、まだ頭の中がこんがらがってるよ。まさか、あの場で告白だけじゃなくキスまでされるなんて思わなかったし」

 「うん、そうだね」
 
 「ユメちゃんも、思いっきりリアナにキスされてたね」

 「うう。あれは私も驚いた」

 「ていうか、ユメちゃんの目の前で俺、告白されちゃったけど、ユメちゃんはどう思ってるの?」

 「私は……うん、私も、ちょっと複雑かな。だけど……」

 「だけど?」

 「フーちゃんならきっと、私とリアナさんとイブリーヌ様、全員幸せにできると思う」

 「……そっかな」

 「うん。それにフーちゃん、地球でもそんなに変わってないと思うよ?」

 「え?」

 「だって、私だけじゃなく、『あの人』もいるし」

 歩夢の言葉を聞いて、春風が「うっ!」と呻くと、

 「あら、それって私のことかしら?」

 「「!?」」

 突然のその声に、2人はビクッとなって後ろを振り向くと、そこには、

 「ヤッホー」

 凛依冴がいた。

 「師匠……」

 「凛依冴……さん」

 「もう、2人共酷いなぁ」

 そう言って、凛依冴は2人に近づくと、ソッと2人を抱き寄せて、

 「「っ!」」

 春風、歩夢の順に、その唇にをした。

 ボーッとなった2人に、凛依冴は優しく話しかける。

 「みたいに、また呼んでほしいな」

 その言葉にハッとなった2人は、ニコリと笑って、

 「「はい、」」

 と、2人同時に凛依冴をそう呼んだ。

 凛依冴はそれを聞いて、

 「うん、よろしい」

 と笑顔でそう言うと、また2人を抱き寄せて、

 「大丈夫よ春風」

 「?」

 「歩夢ちゃんの言う通り、春風ならきっと、私達だけじゃなく、あの2人の事も幸せに出来る。それも、もの凄い奇跡を起こして、ね」

 「……マリーさんは、それで良いんですか?」

 「あら、舐めないでよね。私、歩夢ちゃんだけじゃなく、あの2人の事も全力で愛する自信、あるから」

 凛依冴の自信満々なその言葉を聞いて、春風は「ハハ」と笑いながら、

 「そうですか」

 と言うと、「うん」と頷いて、

 「正直に言うと、リアナとイブリーヌ様の事は、まだ迷っている所はあるよ。情けない話だけど」

 「「……」」

 「でも……」

 「「?」」

 「ユメちゃんも、マリーさんも、大好きだっていう気持ちは、今も全然変わっていません」

 「「! うん!」」

 春風のその告白に、歩夢と凛依冴は力強く頷いた。

 そして、3人はそのまま抱き合った。

 しかし、1つの「人影」が、その様子をずっと見ていた事を、3人は知らなかった。
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