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第8章 友との決闘
第186話 春風vs水音16 春風、必殺の一撃
しおりを挟む「ひ、必殺技?」
春風が言ったセリフの意味を、水音は理解出来ないでいた。
しかし、そんな水音を前に、春風は淡々と言う。
「うん、必殺技」
「……それ、本気で言ってる?」
「本気で言ってる」
「……ど、どうする気なの?」
「まぁ、見ててよ」
水音とそうやり取りした後、春風は彼岸花を鞘から抜くと、真紅の刃に魔力を込めて、
「いくぜ、彼岸花!」
と叫び、彼岸花を地面(闘技台)に突き立てた。
すると、地面から彼岸花の刃の色と同じ真紅の鎖が何本も現れて、空中にいるマールを縛り付けた。
「な、なんだこれは!?」
マールは鎖から脱出しようと必死にもがいたが、もがけばもがく程、鎖はマールを離さなかった。
春風はその間に、目を閉じてボソリと呟く。
「集え、万物を構成する6つの力よ……」
春風がそう呟くと、右腕の周りに、赤、青、オレンジ、緑、黄色、紫色をした小さな光の塊が集まった。
そして、春風は勢いよくその状態の右腕を、空に向かって突き出すと、6つの光の塊は空へ上がり、マールの頭上でそれらは大きな魔法陣を描いた。
その後、描かれた魔法陣から出てきたのは、
「……でっかい、拳?」
巨大な握り拳だった。
『ま、まさか!』
それを見た人々はその瞬間、春風が何をしようとしてるのか理解してしまった。理解して、顔を真っ青にした。そしてそれは、マールも同様だった。理解したマールは、先程よりも必死になって鎖から逃れようとした。
そんな状態のマールを見て、春風は口を開く。
「お前はやり過ぎた」
春風はそう言ったが、マールは必死になるあまり、その声は聞こえていない様子だ。
春風は更に続けて言う。
「これは、そんなお前に対する、俺の『怒り』が込められた、全力の一撃だ!」
そして春風は、マールに向かってその「技」の名を叫ぶ。
「マキシマム・パニッシャーっ!」
春風がそう叫んだ次の瞬間、魔法陣から出てきた巨大な握り拳は、勢いよくマールめがけて落ちていき、
「イヤァアアアアアアアッ!」
ズドォンっと大きな音を立てて、マールに命中した。
水音をはじめとする多くの人々は、そのとんでもない事態を見て開いている口が塞がらなかった。ただ、アレスだけはというと、まるで子供の様に目をキラキラ輝かせていた。
その後、巨大な握り拳は消滅したが、それがあたってた地面には何もなかった。
「ふむふむ。まぁ、さっきも言ったけど、あいつは『思念体』の様なものだから、きっと本体に戻ったんですね」
と、状況を冷静に分析したアレスがそう話すと、春風は「ハァ」と溜め息を吐いて、
「こりゃあ、成功したかどうかわかんないわ」
と呟いた。
その時、
「ちょっと待てぇえええええええ!」
「はい!?」
ハッと我に返った水音が、春風に向かって「待った」をかけた。
「ど、どしたの水音?」
「『どしたの』じゃないよ! 敵とはいえ女神に拳骨落としておいて、なんだよ『成功したかわかんない』って!? どう見ても成功したでしょ!?」
「いや、俺的には、『喰らったら大ダメージと一緒に頭に大きなこぶができる』ってイメージでぶちかましたんだ。こぶが出来たら大成功ってね」
「こぶ!? あんな大きな拳骨落としておいてこぶ!? 冗談やめてよ!」
「本気だけど」
「そんな曇りなき眼で即答しないでよ! ほんっと相変わらずぶっ飛んでるな君は!」
春風の言葉に、水音は怒りと呆れが入り混じったセリフを吐いた。
因みに、アレスはそのやり取りを見て爆笑していた。
やがて、春風は考えた末、水音に向かって言う。
「ま、良いか。じゃあ水音、邪魔者は消えたし、決闘の続きをしよう」
「コラ! 誤魔化すな! ていうかこの状況で……て、え?」
水音がそう言って首を傾げた瞬間、春風は足がおぼつかなくなった。
「あ、あれ?」
春風自身も、何が起こっているのかわかってないようだった。
そして、春風はバランスを崩して、その場に倒れた。
「は、春風!?」
「春風君!?」
驚いた水音はすぐに春風に駆け寄った。
「春風!?」
「ハルッち!?」
「おい、どうした春風!?」
その様子を見て、凛依冴、恵樹、ギルバートも驚きの声をあげた。
その一方で、春風はというと、
(あれ? なんだ? 全然、力が、入らない……?)
そのまま意識を失った。
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