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第7章 襲来、「邪神の眷属」
第123話 謎の「声」
しおりを挟むシャーサルの外で激しい戦いが繰り広げられている中、都市内部でも慌ただしい雰囲気に包まれていた。
次々と来る負傷者の手当てに、ギルド職員だけでなく銀級以下のハンター達も大忙しだからだ。
ただ、中には金級のハンターもいるのだが、彼らは皆魔術師の職能保持者で、最近起きている魔術師達の異変の所為で魔術を使うことが出来ず、正に「戦力外」になっている為、こうして銀級のハンターと一緒に負傷者の手当てをしているのだ。
(魔術師の皆さん、本当にごめんなさい)
そんな彼らの様子を見て、春風は心の中でそう謝罪した。
春風達「七色の綺羅星」(鉄雄達を除く)は今、負傷者達の手当ての為に回復薬を運んでいた。
魔術による回復が期待出来ない今、頼りになっているのは、もう1つの巨大レギオン「黄金の両手」メンバーが作る回復薬だけである。生産職能の職能保持者を多く抱える彼らが作るこの回復薬は、シャーサルの経済を支えている重要なアイテムだ。
しかし、メンバーだけでこの回復薬を作り続けるのは大変なので、「決してレシピを外に漏らしてはならない」という条件で、レギオンメンバー以外の生産職能保持者達にも手伝ってもらっていた。
当然、その中には七色に綺羅星メンバーにして唯一の生産職能保持者、フィナの姿もあり、彼女も今、黄金の両手の拠点内にある工房で回復薬作りをしていた。そしてそんな彼女をサポートするのが、現在の春風達の役割だ。
そんなわけで、今も春風がフィナの作業を手伝っていた、正にその時だった。
ーー来イ。
「ん?」
何処からかそう声が聞こえたので、春風は作業する手を止めた。
「ど、どうしたの、ハル兄さん?」
ルーシーが心配そうに春風に尋ねると、
「今、何か聞こえなかった?」
春風はルーシーにそう尋ね返したが、
「う、ううん、何も聞こえないよ」
と、ルーシーは首を横に振るってそう答えた。
春風は「そっか」と言って再び作業に入ろうとすると、
ーー来イ。
「っ!?」
また声が聞こえた。しかも頭の中に響いてきたようで、少し頭が痛くなった春風は、作業を止めて額に手を当てた。
「アニキ、大丈夫か!?」
春風のその様子を見て、アデルが声をかけてきたが、春風は心配させないように、
「だ、大丈夫、大丈夫だから。さぁ、運ぼう」
と笑顔で答えると、急いで作業を終わらせて、出来上がった大量の回復薬を持って工房を出た。
シャーサルの門の側に設置された負傷者用のテントの前に着いた春風達は、出来上がった回復薬を職員に渡すと、周りをぐるっとを見回した。そこは、魔物にやられて負傷した者達でいっぱいだった。ただ、何故か死者が1人もいなかったのが不思議に思ったのだが、今はそんな事を考えている場合では無いと考え、春風達は工房に戻ろうとした。
ところが、
ーー来イ。
「ぐっ!」
またしても頭の中で声が聞こえたので、春風は頭を抱えてその場に倒れそうになった。
「アニキ!?」
「ハル兄さん!?」
と、アデル達が慌てて春風に駆け寄ろうとすると、
「大丈夫か?」
と、1人の人物が春風を抱き止めた。
「あ、レイモンド様」
それは、ウォーリス帝国第1皇子のレイモンドだった。
「どうしたんだい春風? すごく辛そうだけど」
レイモンドが小声でそう尋ねてきたので、春風は「それは……」と答えようとしたが、
ーー我ノ声ガ聞コエルノナラ、来イ。
「うぐっ!」
ーー仲間ガドウナッテモ良イノカ?
「や、やめろ!」
とまたしても声が聞こえて、春風は頭を抱えながらそう叫んだ。
「春風、しっかりするんだ!」
辛そうな表情の春風に、レイモンドは必死になって呼びかけた。
最早「大丈夫」と言える余裕の無くなった春風は、
「こ、声が聞こえるんです」
と、苦しそうな表情で答えた。
「声?」
「はい。さっきから、頭の中で、誰かが俺を呼ぶ声が、聞こえてくるんです」
「それって……」
レイモンドが最後まで言おうとした、次の瞬間、
「オイ、何だあれは!?」
と、誰か上を向いて叫んだので、春風達もその方向を向くと、上空から黒いオーラを纏った大きな鳥の様なものが、猛スピードでこちらに向かって飛んできたのだ。
「ま、魔物だ!」
「何でここに!?」
突然の事に周囲が慌てふためいていると、飛んできた鳥の様な魔物は、その脚を伸ばして春風をガッチリと掴んだ。
「うわっ!」
突然の事に驚く春風。そんな春風を無視して、鳥の様な魔物はその場を飛び立とうとしたが、
「行かせるか!」
そう叫んだレイモンドが、春風を助ける為に鳥の様な魔物の脚にしがみ付いた。
鳥の様な魔物は最初はレイモンドを振り落とそうとしたが、そのままシャーサルの外へと飛び立った。
「あ、アニキィーッ!」
「ハル兄さーん!」
と、その後都市の内部で、残されたアデルとルーシーの悲鳴が響き渡った。
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