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第7章 襲来、「邪神の眷属」
第113話 水音編3 水音の気持ち
しおりを挟む「とまぁ、こんな感じです」
水音が語る春風についての話を、セレスティアと2人の騎士は静かに聞いていた。3人から少し離れた位置では、小夜子と他のクラスメイト達、そしてセイクリアの王族達も聞いていた。
「うーん。聞けば聞くほど、確かにぶっ飛んでいるなそいつは」
「はい、『目立つのは嫌だ』とか『平穏が好き』とか言ってたくせに、可愛い女の子の様な顔で恐ろしいことを平気で言ったりやったりする様な奴で、見てるこっちは何度もハラハラしました」
「ハハ、父上が聞いたら絶対に『欲しい!』と言うな」
話を聞き終えて素直な感想を言うセレスティアと、そんな彼女に続く様にうんうんと頷く騎士達を見て、水音も春風に対する愚痴をこぼした。
それを聞いてセレスティアと騎士達だけでなく、周囲の人達も「えぇ?」と引いていると、水音はさらに愚痴を言い続けた。
「しかも彼、昼間僕があなたに見せた『力』を使った攻撃を受けてもちょっと痛がるだけであとは平然としてるし、それだけ強いくせに『まだ足りない』なんて言いますし、特に2年前の出来事以来その思いがますます強くなって、いくらこっちが強くなったと思っても彼はどんどん先へ進んで……」
と、少々感情的になっていたのだが、急にシュンとなって、
「ずっと僕は、彼の背中を追いかけてばかりでした」
その瞬間、食堂内がシーンと沈黙に包まれた。
それから少しして、セレスティアがその沈黙を破って口を開けた。
「2年前の出来事とは、そいつが1人で敵の本拠地に向かったという話だったな?」
「ええ。先程話した様に、さらわれた子供達は全員無事に救出されましたが、その時の春風の表情は、何処か悲しげでした」
「何があったのか聞こうと思わなかったのか?」
「思わなかったわけではありませんが、とても話してもらえそうにない雰囲気でしたので、何も聞けませんでした」
「……そうか。それで、今回奴がこの国を出ていって、お前はどう思った?」
セレスティアのその質問に対し、水音は「それは……」と考え込むと、うんと頷いて答える。
「怒ってますし、『どうして?』って思いもありますけど、一番は、『悔しい』ですね」
「ほう」
「『また置いてかれた』という悔しさと、『また、止められなかった』『行くと言えなかった』っていう悔しさです。前者は『春風に対する怒り』から来る悔しさで、後者は『自分の弱さ』から来る悔しさです」
「ふむ、なるほどな。だがそれなら、何故他の勇者と共に訓練を受けないんだ? 強くなりたいなら、共に訓練を受ければいいだけだろう?」
「……そう思っていたのですが、ある時からこの国のことを信じていいのか迷っているんです」
水音が答えたその瞬間、王族達は皆「え!?」となった。
「どういうことだ?」
「僕が見せたあの『力』。あれはこの世界に召喚される前から持っていたものなんです。とても大きな『力』で、今でも制御しようと訓練しいてるのですが、この世界に来てから、何故か『力』を上手く引き出せなくなっているんです」
「引き出せない、だと?」
「はい、なんていうか、別の大きな『力』に押さえつけられていて、それが僕自身の『力』を引き出すのを邪魔してるって言う感じなんです」
「なんと!」
「相談しようにもこんな話、誰にすればいいのかわからなくて、春風の一件があってから、この国のこと信じていいのかもわからなくて、それでみんなとの訓練に参加しないで、昼間はここの資料室でこの国のことを調べて、夜は1人で訓練する様になってました」
「そうだったのか」
その後、また食堂内が沈黙に包まれたが、今度は周囲の視線が水音に集まった。
そんな状態から暫くすると、水音はスッと立ち上がって、
「すみません、部屋に戻ります」
と申し訳なさそうに言うと、自分の食器を片付けてそそくさとその場を立ち去った。その際、
「さ、桜庭!」
と、小夜子が呼んでいたが、水音はそれを無視して食堂から出ていった。その姿を、小夜子とクラスメイト達、セイクリアの王族達と、セレスティアと女性騎士が心配そうに見送っていた。
だがただ1人、男性騎士だけは、周囲に気づかれない様に、
「欲しいな」
と小さく呟くと、ニヤリと口を歪ませた。
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