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第7章 襲来、「邪神の眷属」
第98話 不穏な噂
しおりを挟む「『邪神の眷属』の動きが活発化している」
と、現在エルードの各地では、その不吉な噂が広まっていた。
それは、瞬く間に人から人へと伝わっていき、今や世界中の人々に不安と恐怖の種を植え付けていった。
そして今、セイクリア王国の五神教会本部の執務室では、現教主であるモーゼスが、配下の神官から報告を受けていた。
「そうですか、『邪神の眷属』はそこまで力をつけてきているのですね?」
「はい、教主様。いかが致しましょうか?」
神官からの報告を聞いて、モーゼスは「ふむ」と言いながらわざとらしく考える仕草をすると、
「ついに『勇者』の出番が来たというわけですね」
と、ニヤリとしながら言った。
その後、神官の方に向き直ると、
「王宮へ行きますので、準備をお願いします」
と指示を出した。
神官は「ハッ!」と返事すると、そそくさと執務室を後にした。
執務室に1人残されたモーゼスは、自分以外の誰もいないのを確認すると、
「ククク、丁度良い機会だ。これを利用して『役立たず』を処分するとしよう」
と、教主とは思えない程、醜く歪んだ笑みを浮かべてそう言った。
同じ頃、ウォーリス帝国の帝城では、現皇帝であるギルバート・アーチボルト・ウォーリスが、屋上で1人寝転んでいた。ただし寝転んでいるだけで、本当に寝ているわけではない。
「邪神の眷属ねぇ……」
現在、ギルバートが考えているのは、数時間前に臣下から受けた報告に出ていた、「邪神の眷属」についてだった。
「確か、新しく現れた場所は、シャーサルの付近だったな……」
その後、暫く考え込むと、「よし!」と言いながらむくっと起き上がって、
「行ってみますか……」
と言ったまさにその時、
「陛下」
背後からの突然の声にビクッとなり、ギルバートは壊れた機械の様にギギギと音をたてながら(実際には音は出てないが)振り向いた。
そこにいたのは、妻であるエリノーラだった。
「やぁ、何の用だいエリノーラ?」
ギルバートは恐る恐る尋ねると、
「楽しいお仕事の、時間ですよ?」
とエリノーラはまったりとした笑顔で答えた。気のせいか、何やら黒いオーラ纏っている様にも見えたが、
「突っ込んではいけない!」
と、ギルバート自身の本能がそう叫んでいたので、観念したギルバートは、
「……はい」
と、弱々しく返事をすると、トボトボとエリノーラと共に屋上を後にした。
そして、中立都市シャーサルのハンターギルド総本部の総本部長室では、総本部長のフレデリックが、職員からの報告を受けていた。
「そうですか、ハンター達は全員命に別状はないのですね?」
「はい。重傷を受けたハンターにつきましては、現在病院のベッドで治療を受けているとの事です」
「わかりました。報告は以上ですか?」
「はい、これで全てです」
「そうですか。それでは仕事に戻ってください」
「わかりました。失礼します」
職員はそう言うと、フレデリックに一礼して総本部長室を後にした。
「ふぅ……」
報告を聞き終えたフレデリックは、総本部長用の椅子から立ち上がると、背後にある大きな窓を開けると、外の景色を眺めた。
「邪神の眷属。あんな話を聞いた後では、ねぇ」
ぼそりとそう呟いたフレデリックの脳裏に浮かんだのは、新たに誕生したレギオン「七色の綺羅星」のリーダー、春風から聞いた「真実」だった。
「全てを知っているのに言う事が出来ないというのは、なんとももどかしいですねぇ」
フレデリックは窓の外に向かってまたぼそりとそう呟くと、「ハァ」と大きな溜め息を吐くのだった。
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