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間章2
間話5 とある夜のひと時
しおりを挟むそれは、春風達のレギオン「七色の綺羅星」が誕生したその日のことだった。
「ふぅ……」
その日の夜、春風は新たな自室となった部屋のベッドに寝転んでいた。その部屋の中はベッド以外にも、木製の机や椅子、さらには洋服箪笥などが備わっていた。一応本棚もあったが、肝心の本は一冊もなかった。
「こればっかりは自分で集めないといけないってわけか……」
と、ボソリとそんな事を呟いていると、
「春風様」
と、部屋のドアの向こうから聞き慣れた声がした。
「どうぞ」
と春風が答えると、スゥっとドアをすり抜けてジゼルが部屋の中に入ってきた。
春風は上半身だけ起こしてジゼルに話しかける。
「ジゼルさん、みんなの様子はどうですか?」
「はい、リアナ様と皆さん、とてもぐっすり眠っております」
「そうですか」
春風はそう答えると、ベッドから降りて部屋に1つしかない窓に近づき、外の様子を見た。
「……何か、今でも信じられないんですよね」
「何がですか?」
「俺、故郷を守る為にこの世界に来て、その為に先生やクラスのみんなを置いてきたのに、その俺は今、こうしてレギオンのリーダーをやることになってるんですよ? これってどうなのよって思いますよね?」
「それは……春風様が頑張った結果です」
「『頑張った』、ねぇ。何だか、上手い具合にフレデリック総本部長にのせられた気がしないんでもないんですけど……」
「まぁ、春風様ったら……」
2人はお互い苦笑いしながらそんなやり取りをしていたが、次の瞬間、春風は表情をシュンとさせると、
「あの、ジゼルさん」
「はい、何ですか?」
「ウォーレン大隊長さんのことなんですけど、アレで良かったんですよね?」
「!」
春風にそう質問された時、ジゼルは春風がウォーレンを殺さなかった時の事を思い出した。その後、その質問に対してジゼルは、
「はい」
と、穏やかな笑みを浮かべて答えた。
春風はそんなジゼルに、恐る恐る再び質問した。
「……怒ってませんか?」
「いいえ、あなたはあの時、私とリアナ様の願いを聞いてくれた。それは嬉しかったです。怒っていることがあるとすれば、それは……」
「それは、何ですか?」
ジゼルは真面目な表情になって春風に答える。
「あの時、大技を放とうとしたあの男に対して、「居合い切り」という危険な賭けに出たところですね」
「うっ! あ、いえ、あの時は、その……」
春風はどう返したら良いのかわからなかった。ジゼルの言うように、確かに危険な賭けではあったが、あの時は他に方法が無かったという思いもあったのだ。それを言葉にしたかったのだが、思うように言葉にする事が出来なかったのだ。
「春風様」
「は、はい!」
「もう、あの様な無茶はおやめください。あなたにもしもの事があれば、私やリアナ様、アリシア様達や地球の方々が悲しみます」
「……はい」
春風は反省の意思を込めてそう返事すると、ジゼルは満足して「うんうん」と頷いた。
「さあ春風様、明日からレギオンとしての初仕事ですので、今夜はもう寝ましょう」
「そ、そうですね。うぅ、何だか緊張しました」
「大丈夫ですよ。これからはリアナ様だけでなくアリシア様達もいるんですから、その人達もたくさん頼ってください。勿論、私にもですよ?」
「え、ジゼルさん、大丈夫なんですか?」
「まぁ失礼な! 私だって生前は世界中を旅しているんですよ。当然、魔物との戦闘も経験してます。今はご覧の通り幽霊ですが、それでも私にだって出来ることはあります」
そうプンスカと怒りながら話すジゼルを見て、春風はクスリと笑うと、
「わかりました、頼りにしてます」
と返事した。それを聞いて、ジゼルは再び満足して「うんうん」と頷いた。
「それじゃあ、ジゼルの言う様に、今日はもう寝ます」
そう言って、春風は再びベッドに寝転ぶと、
「おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
その後、ジゼルが零号に入ったのを確認すると、春風はぐっすりと眠りにつくのだった。
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どうも、ハヤテです。
というわけで、今日から本編をお休みして、「本編と本編の間的な話」の第2弾になります。
こちらも本編に負けないくらい面白い話を投稿していきますので、どうぞよろしくお願いします。
応援ありがとうございます!
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