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第5章 対決、断罪官
第77話 そして、少年は選択した
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そう感じた春風は、静かに彼岸花を鞘に収めた。
次の瞬間、切り裂かれたウォーレンの傷口から、赤い血が噴き出た。斬られたのは、胸から下の方だった。
(わ、私が……負けた?)
ウォーレンは何が起きたのか、全く理解出来なかった。そしてそれは、周りの人達も一緒だった。
やがて立っていられなくなったのか、ウォーレンはその場で両膝をついた。
その後、チラリと手に持っている聖剣スパークルを見ると、刀身が半分なくなっていた。もう半分ーー切先は、近くの地面に落ちていた。
「う……嘘だ。ウォーレン大隊長が…‥負けた?」
いつの間にか意識を取り戻したルークは、目の前で起きている事態にショックを受けていた。隊員達も、同じくショックを受けていた。
一方、結界内のアリシアは、
「すごい」
と、ただ一言を出すのが精一杯だった。アデル達は、最早声すら出せなかった。
そして、リアナは、
「は、はは、すごいやハル、勝っちゃったよ」
と、乾いた笑い声を出した。
そんな状況の中、ウォーレンが春風に向かって口を開いた。
「……さまは」
「?」
「貴様は、一体何者だ?」
弱々しいその問いに、春風は「うーん」と考え込むと、
「実は俺、ただのハンターじゃないんだ」
「何?」
春風は不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「俺はハル。ちょっとユニークなハンターだ!」
その言葉に、ウォーレンは少し驚いた顔をしたが、すぐに下を向いて、
「……そうか」
と答えた。
周りが「何言ってんだコイツ?」と言わんばかりの表情をしていると、再びウォーレンが口を開いた。
「ならば、ハンターのハルよ」
「?」
「トドメをさせ」
「だ、大隊長! 何を言っているのですか!?」
ウォーレンのその言葉にルークは驚いた。ルークだけではない、他の断罪官の隊員達もだ。
そんな彼らを前に、ウォーレンはさらに話を続ける。
「ご覧の通り、私はもう長くない。急所は外れている様だが、この出血ではどうにもならんだろう。仮に運良く助かったとしても、神より賜った聖剣スパークルもこのザマだ。私は駄目だが、お前達はまだ大丈夫だ。すぐに教会本部へ転移して、この場を離れろ」
「そ、そんな!」
『だ、大隊長!』
叫ぶルークと隊員達を無視して、ウォーレンは春風に向き直ると、
「さあ、ハンターのハルよ。その魔剣で、私にトドメをさせ」
と、頼み込んだ。
春風は「ハァ」と溜め息を吐くと、黙ってウォーレンに近づいた。
その時、
「やめてください春風様!」
と、左腕のガントレットに装着された零号内から、ジゼルがそう叫んだ。
春風はチラリと左腕を見るが、すぐに視線をウォーレンに戻して進み続けた。
ジゼルはなおも叫び続ける。
「こんな男、春風様が手を汚す価値などありません! こんな所で、その手を人を殺した罪で汚さないでください!」
その声を聞いて、リアナも精一杯声を上げた。
「だ、駄目、ハル、駄目!」
しかし、春風の歩みは止まらなかった。そして、とうとう春風はウォーレンのすぐ前に着いた。
「本当にいいのか?」
そう尋ねる春風に、
「くどい、やってくれ」
と、ウォーレンは弱々しく答えた。
「ああ、わかったよ」
そう答えた瞬間、リアナは叫んだ。
「やめてよ、春風ぁ!」
偽名ではなく本名で春風を呼ぶリアナ。
春風はスッと右手を動かし、腰の鞘に収めた彼岸花を……抜かずに、ただグッと握り拳を作ると、
「なぁあんて……」
『?』
「言うと思ったかダアホがぁあああああああっ!」
バゴォーン!
「グホォ!?」
春風はウォーレンに、見事なアッパーカットをお見舞いした。勿論、少しだけ魔力による強化をしてからだ。
モロにくらったウォーレンは思いっきりぶっ飛ばされ、そのまま地面に倒れた。
その状況を見て、リアナ、ジゼル、アリシア達、ルーク、断罪官の隊員達は、
『な、殴ったぁ!?』
と、一斉に叫び声を上げるのだった。
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