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第5章 対決、断罪官
第65話 調査開始
しおりを挟む春風の狂気に満ちた迫力に負けたのか、ディランはすぐにギルド総本部に依頼を出し、その後、その依頼を春風が引き受けた。その時の春風の雰囲気に、シャーサルの住民達や他のハンター達、そしてギルド職員が本気でビビったのは、言うまでもない。
「よっしゃあ! 早速調査開始だぁ!」
(だ、大丈夫でしょうかぁ?)
若干変なテンションでそう叫ぶ春風。そんな春風を零号の中から心配するジゼル。
ともあれ、調査中の春風の様子は至って普通だった。ディランをはじめ、シャーサルの住人に聞き込みをして、犯人の情報を集めた。その結果、
「まさかこんなに被害者がいたなんてなぁ」
と、シャーサルの広場にあるベンチに座って、春風はそう呟いた。
そう、泥棒の被害に遭ったのは、白い風見鶏だけじゃなかったのだ。
(話を聞いただけで数件、どれもが一晩の内に行われていて、目撃情報はないときた)
事の大きさに、春風は盛大に溜め息を吐いた。もしかしたら、これは自分1人の手には負えないかもしれないと、そんな風に考えていた。しかし、
「駄目だ! ここで弱気になっちゃいけない!」
ベンチから立ち上がってそう叫ぶ春風。
実は彼には、食い物の恨み以外にも、もう一つの「理由」があったのだが今はここでは伏せておこう。
春風が向かった先、それは、白い風見鶏の、厨房だった。
オーナーであるレジーナに許可を貰うと、春風は早速厨房に入った。幸いにも現場はそのままだったので、春風は何か手掛かりになるものがないか隅々まで調べた。
すると、
(ん? これは……)
厨房の床をよく見ると、そこには複数の「足跡」が見つかったのだ。見たところ、大きさからして若者の足跡の様で、厨房にある裏口まで続いていた。春風は足跡を辿って裏口を出たが、残念な事に足跡はそこで途絶えていた。
(く。俺がエスパーだったら、超能力でこの足跡の主を特定出来るかもしれないのになぁ)
足跡を見て悔しそうに心の中で呟く春風。すると、
「あ、そうだ!」
と、何かを閃いた春風は、すぐに自室に戻った。
そして、自室のドアを閉めると、鍵をかけて窓のカーテンを閉めて、
「スキル[魔術作成]、発動」
それから暫くすると、春風は自室を出て再び厨房に向かい、先程の足跡に触れると、
「求めるは“土”、読み取る力、『リーディング』」
と、誰にも聞こえない様に小声で作成した魔術を唱えた。
リーディング……土属性の支援系魔術。物や人に触れる事によって、そこに刻まれた過去の出来事などの様々な情報を読み取ることが出来る。消費魔力:4。詠唱:「求めるは“土”、読み取る力、『リーディング』」。
春風はこの魔術を使って、足跡に刻まれた情報を読み取った。その結果、足跡の主とその仲間達は、厨房を出た後、他の所でも盗みを働いた後、シャーサルを囲う壁を抜けて、外に出たという事がわかった。どうやら、仲間の1人が、何かスキルの様なもの使ったみたいだった。
(うーん。外に出たのかぁ、となるとこっちも準備をしないとな)
その後、春風は必要な準備を済ませると、門を通ってシャーサルの外に出た。
(えっと、リーディングの情報だと、この辺かな?)
そして、犯人達が出た所と思われる部分に着くと、再びリーディングを発動して、彼らの行く先の情報を得ると、すぐにその場所へと向かった。
すると、辿り着いた先は……、
「え、ここって……」
そこは一昨日、春風が子供達に出会い、思わぬ襲撃を受けた、あの森だった。
「まさか、またここに来る事になるとはなぁ」
森の中を見ると、まだ昼間だというのにそこはとても暗かった。
(ここで立ち止まってもしょうがない)
そう考えて、春風はスゥっと息を吸うと、
「オラァッ! 食い物泥棒、出て来いやぁっ! 出て来ないと、ハンターの俺がヒデェめにあわせっぞぉっ!」
と、森に向かって大声でそう叫んだ。
「春風様、反応は、ありませんね」
零号内のジゼルの言う通り、森からの反応は、無かった。
春風は「まぁ、そうなるわな」と考えると、
「よし、警告はした。じゃあ、行きますか!」
と言って、そのまま森の中へと入っていった。
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