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第5章 対決、断罪官
第63話 草原にて
しおりを挟む「あーもう! やっちまったよこんちくしょう!」
喫茶店を出た春風は、現在、シャーサルの外の草原で、1人寝転がっていた。
あの後、結局仕事をする気になれなかった春風は、喫茶店を出るとそのままシャーサルの外に飛び出した。そして勢いのまま草原を駆け抜けると、疲れ果ててその場に腰のポーチから取り出したシートを敷いて、その上にゴロンと寝転んだのだ。
「ハァ。昨日からこんなんばっかだ」
春風は溜め息を吐きながらそう愚痴をこぼした後、ゆっくりと目を瞑った。
暫くして、漸く気分が落ち着いた春風は、「よっこいしょ」と言って上半身だけを起こした。
「ふぅ。折角ここまで来たんだ。その辺をブラブラしながら、魔物でも狩るかな」
と、取り敢えずそんな予定を考えていたその時、
「春風様」
「ん?」
ポケットの中の零号からジゼルが話しかけてきたのだ。
春風はすぐにポケットから零号を取り出し、
「何ですかジゼルさん?」
と返事をすると、零号からスゥッと、どこか青褪めた表情のジゼルが出てきた。
「ど、どうしたんですかジゼルさん!?」
驚いた春風は慌ててジゼルに問い詰めると、ジゼルは震えた声で答えた。
「春風様、今日会ったあの男ですが……」
「『あの男』って、断罪官2人を担いだ男ですか?」
「はい」
そう答えたジゼルの体は、とても震えていた。それを見て、何かを察した春風はジゼルに質問した。
「ひょっとして、あの男の事を知っているんですか?」
「……はい」
春風はその答えを聞いて「やっぱりか」と言わんばかりの表情をすると、ジゼルはさらに答えた。
「あの男は、私と私の家族を殺した男です」
「……本当ですか?」
「はい。あれから顔付きも体格も変わっていましたが、間違いありません」
「……そうですか」
それから少しの間、2人のいる場が沈黙に包まれたが、先にジゼルが口を開いた。
「春風様」
「……何ですか?」
「私の事は気にしないでください」
「……ジゼルさんは、それで良いんですか?」
そう答えた春風の体は、ジゼル以上に震えていた。そんな春風に、ジゼルはさらに話しかける。
「春風様、総本部でも言いましたが、今はあの連中に関わるよりも、ご自身を鍛える方を優先してください。喫茶店であの男を見た時わかりました。あの男は、私を殺したあの時よりも強くなっています。今の貴方が挑んでも、決して勝てないでしょう」
「……」
「ですから、私の事は気にせず、このままハンターとしての活動を続けてください。貴方と、貴方の目的の為にも、そして、リアナ様の為にも」
「!」
その瞬間、春風の脳裏にリアナの姿が浮かび上がった。
「……わかりました」
春風はそう答えると、ジゼルは「よしよし」と春風の頭を摩った。最も、幽霊なので実際触れる事は出来ないのだが。
その後、春風はシートをポーチにしまうと、予定通り魔物を狩りながら、シャーサルへと戻った。そして総本部でメイベルに昼間の事で謝罪された後、倒した魔物の素材を換金して、白い風見鶏に戻り、夕食を済ませると、自室のベッドに寝転んだ。
ベッドの上で、春風は考えていた。
(リアナ、今頃どうしてるかな?)
その瞬間、再び春風の脳裏にリアナの姿が浮かんだが、
(いやいや、ちょっと待て! 違うぞ、違うからな! リアナも心配だけど、1番は先生達と地球だからな! 決してそんなんじゃないからな!)
と、首をぶんぶんと横に振りながら否定した。
しかし、その後すぐにまたリアナの姿が浮かんだので、
「……会いたいな」
と、ボソリと呟いた。
すると、顔が熱くなるのを感じて、
(だあああ! 違うだろ、そんなんじゃないからなぁ!)
その夜、春風は一晩中悶絶することになるのだった。
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