ユニーク賢者の異世界大冒険

ハヤテ

文字の大きさ
上 下
40 / 608
間章

間話4 もう1つの「大国」

しおりを挟む

 それは、セイクリア王国で「勇者召喚」が行われた、その日の夜のことだった。

 現在、「エルード」という世界には2つの大国が存在している。

 1つは、小夜子達「勇者」を召喚した国にして、この世界の唯一の宗教組織である「五神教会」の総本部がある「セイクリア王国」。

 もう1つは、その「五神教会」の教えをほんの少し伝えつつ、独自の文化を築き上げた「ウォーリス帝国」だ。

 そのウォーリス帝国の中心である「帝都」の「帝城」。そこのとある一室で、1人の男が書類仕事に明け暮れていた。

 彼の名は、ギルバート・アーチボルト・ウォーリス。このウォーリス帝国の現皇帝である。

 そして彼は今、その部屋ーー執務室で、大量の書類を相手に、せっせと仕事をしていのだが、

 「ダーッ! 全然、終わらねぇっ! 終わる気配が全くねぇっ!」

 皇帝らしからぬ口調で、仕事が終わらないと嘆くギルバート。そんな彼を見て、執務室に備えられたソファに座る1人の女性が、

 「自業自得ですよ、陛下?」

 と、まったりとした口調でそう言った。

 女性の名は、エリノーラ・アドリアナ・ウォーリス。ウォーリス帝国の皇妃、即ちギルバートの妻である。

 エリノーラは優雅に紅茶を啜りながら、

 「大体、陛下は皇帝でありながら、普段から仕事をサボってばかりいるからではありませんか?」

 と、やはりまったりとした口調でそう言った。

 「うぐぐ……」

 ギルバートは何も言い返す事が出来ずに唸るだけだった。どうやらこの皇帝、仕事をサボる癖がある様だった。

 「ほらほら、弱音を吐いてないで、仕事を続けてくださいな」

 「へーい……」

 ギルバートがブーたれながらも仕事を再開しようとしたその時、トントンと執務室のドアをノックする音が聞こえた。

 「はーい、どちらさーん?」

 ギルバートがそう返事すると、

 「メルヴィンです。ご報告があります」

 と、ドアの向こうから男性の声が聞こえた。

 「おう、入っていいぞ」

 ギルバートはそう言うと、声の主を執務室に招き入れた。

 「失礼します」

 ドアを開けて入ってきたのは、長い銀髪にを持つ、眼礼儀正しい服装に眼鏡をかけた、20代くらいの若い男性だった。

 ドアを閉めた後、男性ーーメルヴィンは、ソファに座るエリノーラにペコリと頭を下げて、ギルバートの方を見た。

 「おう、どした? メルヴィン」
 
 「お仕事中に失礼します。セイクリアに送った部下から、報告があがりました」

 「ほう、言ってみろ」

 「はい、本日、セイクリアの王城で、『勇者召喚』の儀式が行われました」

 「まぁ!」

 「何、本当か!? の奴、やりやがったか! チクショー、俺も見たかったぜぇ」

 ウィルフレッド王をニックネームで呼んだギルバートは、悔しそうに天井を見上げたが、すぐにメルヴィンに向き直って質問した。

 「で、『勇者』ってどんな奴が来たんだ?」

 「はい、部下からの報告には、20代くらいの女性が1人と、10代後半の少年少女が20数人とあります」

 「ほほう、随分と多勢だなぁ」

 「はい。ですが……」

 「? どうした?」

 「その中の1人が、謁見の間で大暴れした挙句、王都の外へ飛び出してしまった様です」

 「え、マジで!? ウィルフの奴、何やってんだよぉ」

 驚くギルバートに、メルヴィンは報告を続ける。

 「報告によると、どうもその者は自身を『勇者じゃなくて巻き込まれた者だ』と言ってウィルフレッド王からの申し出を断った後、騎士達を数人薙ぎ倒し、その場に居合わせたハンターの少女と共に王城の外へ出たとあります」

 「ふーん、なるほどねぇ」

 ギルバートは暫く考え込むと、

 「ソイツ、名前とかわかるか?」

 と、メルヴィンに尋ねた。

 「はい。名前は、幸村春風。少女の様な顔立ちの少年で、『幸村』が性で、『春風』が名前だそうです」

 「あら、名前と性が逆なのねぇ」

 メルヴィンの報告に、エリノーラはまったりと驚きながらそう言った。

 「詳しい状況は、こちらの『魔導具』に全て記録してあります」

 そう言って、メルヴィンが懐から何かを取り出した。それは、中央に水晶の様なものが嵌め込まれた、掌サイズの小さな箱だった。

 「お、じゃあ早速見てみるか!」

 ギルバートはそう言うと、書類でいっぱいになった机からメルヴィンの側まで移動した。

 「陛下、お仕事は?」

 エリノーラはまったりと問うが、ギルバートは、

 「そんなもん後だ後……っと、メルヴィン、折角だから、お前も一緒に見ようぜ!」

 と言って、エリノーラと向かい側のソファにどかっと座った。

 メルヴィンは「ハァ」と溜め息を吐くと、

 「わかりました。では、再生します」

 と、手に持った「魔導具」をテーブルに置いて、起動した。

 その結果、ギルバートとメルヴィンは、

 『ブオアッファアアアアアアアッ!』

 吐血した。実際には血は吐いていないが。

 映像を見終わった後、苦しそうになっているギルバートは、同じく苦しそうになっているメルヴィンに話しかける。

 「……ハァ、ハァ。な、なぁ、メルヴィン」

 「はい、何でしょうか陛下」

 「なんかこいつ、可愛い顔して随分と強烈な奴だなぁ」

 「そ、そのようですね」

 そうやりとりすると、ギルバートは今度はエリノーラに話しかける。

 「な、なぁエリー、お前はどう思ってるんだ?」

 「……」

 「エリー?」

 返事がないことに気になったギルバートが、ソーッとエリノーラの顔を覗き見ると、

 「え、エリィイイイイイイイッ!」

 真っ白になっているうえに、口から魂の様なものが出ていたので、ギルバートは驚いて悲鳴をあげた。

 その後、他の皇族達や臣下、兵士達などが、一斉に執務室に雪崩れ込んできたのは、言うまでもない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 どうも、ハヤテです。

 というわけで、今回で間の話はひとまず終了し、次回からは本編新章に入ります。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:19,347pt お気に入り:11,950

神に捧げる贄の祝詞

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:133

異世界じゃスローライフはままならない~聖獣の主人は島育ち~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:10,799pt お気に入り:9,024

奇跡の街と青いペンダント

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:1

ただ、好きなことをしたいだけ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:42

プラトニックな事実婚から始めませんか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,520pt お気に入り:24

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:831pt お気に入り:3,917

特別な人

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:73

処理中です...