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第2章 冒険の始まり
第21話 「お守り」の正体
しおりを挟むそれは1年前、春風が高校生になったばかりの時だった。
「春風、それに水音。2人とも高校入学おめでとう」
「「ありがとうございます、師匠」」
「師匠」と呼ぶ女性にお祝いの言葉を貰ったので、春風と、水音と呼ばれた少年はお礼を言った。
「はい、これは私からの入学祝いよ」
そう言って、「師匠」は2人に1つずつ、小さな箱を渡した。
蓋を開けると、中にはネックレスを通した銀の指輪が入っていた。
「師匠、これは?」
と、春風が尋ねると、「師匠」は笑顔で答えた。
「私が作った特製の『お守り』よ。本当に必要になったと感じたら、それをはめて『力』を流してね。凄い『奇跡』が起きるから」
「「師匠……」」
そして1年後、春風は今、異世界「エルード」のセイクリア王国王城内にある謁見の間で、ちょっとピンチを迎えていた。
「き、貴様ぁあああああああっ!」
怒りのままにそう叫んで、鎧姿の男女の1人である男性が、腰にさげた剣を抜いて、春風に向かって突進してきた。
思わねピンチを迎えたその時、春風の頭の中で、1つの言葉が浮かんだ。
(今こそ、使う時だ)
そう思った春風は、ポケットからあらかじめネックレスを外しておいた指輪を取り出し、左手の人差し指にはめた。
(師匠、俺に力をください!)
春風はすぐに指輪に意識を集中して、「師匠」に言われた通りに「力」を、「お守り」の説明に書いてあった、自身の「魔力」を流した。
そして、鎧姿の男性が剣を振り下ろそうとした次の瞬間、指輪にはめ込まれた赤い宝石が強く輝いた。
「ぐ! な、なんだこの光は!?」
あまりの眩しさに男性は顔を覆って一歩後ろに下がった。
男性だけではない。ウィルフレッド達王族や、小夜子とクラスメイト達も、眩しさに顔を覆っていた。
それから少しして、指輪から出た光りが弱くなっていくと、パキンと音を立てて指輪が壊れて、春風の指から離れた。
すると、今度は壊れた指輪が大きくなって、細長い棒の様な光に形を変えた。
春風は「何だろう」と思ってその棒の様な光を掴むと、光がスーッと消えて、その正体を露わにした。
「これ……刀?」
それは、黒塗りの鞘に収まった、一振りの刀だった。
(あれ? この感覚は……)
初めて見たその刀に、何やら妙なものを感じた春風は、スキル[英知]を使ってそれを調べようとしたが、
「な、何だその剣はぁあ!?」
と、男性がまた怒って春風に斬りかかろうとした。
「!?」
それに気付いた春風は、咄嗟に刀の柄を握り、鞘から引き抜いた。その際、刀と一体化した様な感覚に襲われて、右目の視界が真っ赤に染まったが、それに構わずに振り下ろされた男性の剣に刀をに当てた。
次の瞬間、バチンと放電したかの様な音と共に、男性の剣を弾き返した。
春風がふとその刀をチラリと見ると、その刀身は刃だけじゃなく峰までもが血の様に真っ赤だった。
突然のことに男性が呆然とした表情でよろけていると、春風は「今だ!」と思い、男性の顔面に飛び蹴りをかました。スキル[体術]のおかげで、その蹴りは鋭いものになっていた。
といっても、春風のレベルは1なので、大したダメージにはならないだろう。
しかし、呆然としていた所に顔面にキックを喰らったのだから、男性は受け身を取ることが出来ずに、床にガシャンと音を立てて倒れた。
あまりの出来事に、謁見の間にいる者達は、口をあんぐりして固まっていた。
(うん。『呪い』による拒絶反応はない。そして、柄を持った時に感じた一体感。もしかして……)
そう考えた春風は、再び[英知]を使ってその真っ赤な刀身を持つ刀を調べた。
その結果……。
赤刀・彼岸花……「妖刀・彼岸花」の魔力をほんの少しだけ宿した刀で、分身の様なもの。装備者と共に成長し、魔力を流すことによって斬撃を飛ばす事ができる。攻撃力:200~。
(ああ、やっぱり……)
春風がその刀の説明を見た瞬間、2年前の「あの日」の記憶を思い出した。
「師匠」が貸してくれて、一度だけ抜き放って、消せない記憶を刻んで、また「師匠」に返した、あの「刀」の事を……。
(師匠、ありがとうございます)
と、春風が心の中でお礼の言葉を呟いていると、
「貴様ぁ! 何をしたぁあああっ!」
と、男性の仲間達が、一斉に剣を抜いた。
それを見て、春風はニヤリと邪悪な笑みを見せると、鞘を腰のズボンとベルトの間に挿し、その刀ーー「赤刀・彼岸花」を構えて、目の前の鎧姿の男女に向かって言い放った。
「さぁ行くぞ、彼岸花!」
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