【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね？

第二章・小説の中の僕

24・疑惑のレオ殿下

　もしかしてだけど、日本語読める訳じゃないですよね？あれって、偶然なんだろうか…？

　確かにリンダさんには「カイト」って言っても大丈夫だと言ってある。だから知ってるの？
　日本語の文字をなぞりながら言ったのは、たまたまなのかな…

　僕のそんな動揺をこの場に居る人達が知る由もなく、それからレオ殿下は僕の作品を一つ一つ手に取りながら見ていきながら、あれも良いね！これも良いね！と褒めっぱなしだった。

　結局、持ってきたもの全てをお買い上げに。
　最初、やっぱりお金をいただくのは気が引けて今日は差し上げようとしたんだけど、「いいの、いいの！お金いっぱいあるから！」って言われて。そりゃいっぱいあるんだろうけどさ…

　作品についての話しが終わってからは、お茶とお菓子を美味しくいただいて、一息ついてからレオ殿下はそう言えばって話し出す。

　「君達は婚約者同士だよね？一緒に暮らし始めて一年くらいなのかな？噂では仲が良くないって聞いてたんだけど…。こうやって心配して共に来るくらいだからね？噂って当てにならないな～。それで来年ミシェルが20歳になったら結婚する感じ？」

　──初対面の僕に、そんなプライベートなことを聞いちゃうの？困ったな…

　「はい！そのつもりです。まだ一年ありますが、そうなり次第式を挙げるつもりですが。」

　──ドッキーーン！えっ、本気？ミシェル。

　僕に向かって微笑みながら、そう殿下に答えているミシェルは、どう考えても本気で。本当にいいの？
　そうハッキリと言い切るミシェルに僕はドキドキしっぱなしだ。

　「それは仲良くていいね！私にもね、いるんだよ婚約者。でもね…結婚する気持ちは湧かないね。」

　──そ、そんなぶっちゃけた事を言っていいのかな？それに気持ちが湧かない…って。
　僕ならそんな事を言われたら、泣いちゃう…
　少し前ならともかく、ミシェルと仲良くなった今なら…

　ミシェルも、それにどう返していいのか分からず押し黙ったままだ。

　そんな僕達の表情に気付いたレオ殿下は、ごめん！何でもないよ…と言いながら失言したことを詫びた。でも、どうも本音なんだね？

　「話しは変わるけど、プレゼントしたいと思ってるものを作って欲しいんだけど、頼まれてくれるかな？マリン。女性用のブローチに花の刺繍を入れて欲しいんだが。」

　僕はそういう事なら任せて下さい！と返事をする。

　「それで、どういった花を入れたらいいでしょうか？お好きな花とかあるのでしたら、その花の刺繍を入れますけれど？」

　僕の問いかけに殿下は少しだけ考えて、思い付いたように答えた。
　「そうだね…冬だからヘレボルスにしてもらおうかな。色は白いがいい。」

　ヘレボルスと言えば、前世ではクリスマスローズと言われていた花だ。
　育てるのが少し難しいようで、愛好家が沢山いるような人気の花だったと思う。
　でも…どんなだったかな？ぼんやりと浮かぶ程度で、きちんとした特徴までは分からない。

　「ヘレボルス、あまり知らないかい？それなら今ちょうど庭園に咲いてると思うよ！見に行くといい。スケッチして帰ってもいいし。上着を着て温かくして今から一緒に行こう！」

　レオ殿下の提案で、早速見に行く事になった。
　じっくりと眺めて形や色合いを確認出来ればスケッチするまでもなく、刺繍する事が出来る。

　庭園に出て、少し寒いけれど今日はまだ晴れているから我慢できないほどではないなって安心する。

　「マリンおいで。この白い花だよ！」

　手招きしている殿下に近づくと、少し俯きかげんの清楚な花が咲いていた。
　白い花弁が折り重なって、黄色い雌しべがフサフサと飛び出ている。

　「わぁ～綺麗な花ですね！」

　僕はそう言って、頭の中に特徴を記録しなきゃ！とじっくりと眺める。
　レオ殿下も僕と同じようにしゃがんで、二人で特徴を言い合いながら確認していった。

　すると…突然、殿下が周りに聞こえないような小声で話し掛けてきた。

　「…このまま花を見てるフリをしてて。他の人達に気付かれないように。」

　──えっ！何！どうしたの…

　内心、動揺しまくっているが殿下の言う事は聞かなければならないし。
　少し離れたところにミシェルやギルバートさん。それに殿下の護衛の近衛騎士の方も何人か待機している。
　僕と殿下以外は花に興味もないようで、こちらをチラッと見つつも他の景色を見ていた。そして…

　「俺だ！海人。お前の親友の乃恵留のえるだ！獅子頭ししがしら乃恵留のえるだよ。」

　の、の、の、乃恵留だってー！？