【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO

文字の大きさ
17 / 67
第一章・僕が公爵家に居るワケ

16・秘密(ミシェルSide)

しおりを挟む
 父であるギルフォード公爵が領地に行ってから、すでに二年が経った。全くこちらに帰って来る気配がないのだが、どうなっているのか…
 それで私が父に代わって執務にあたる羽目になっている。当主代理とは言ってもようは雑用のようなもので、やることの多さには辟易する。最近やっと慣れてきてはいるが、ずっと一人でとなると、とても疲れる訳で…

 それで気分転換をと窓から庭園を眺める。母のお気に入りだった庭園は、今色とりどりの薔薇が咲き誇っている。ここから見ていないで、下まで降りて見ようか?なんて思っていると…ええっ?

 暗い色の地味な服を着た二人組が、庭をコソコソと走り抜けるのが見えた。な、何だ!

 ──もしかして、賊か?

 先ほど使用人から、不審な人物が屋敷を覗いていたとの報告を受けた。以外にも若くて金髪の美形だったということだが…ソイツだろうか?
 そう思って警戒し、その二人組が現れた所をじっと見つめる。すると…

 ──えっ…あれ、マリンじゃないか?それと隣は従者のオリヴァーだろ!
 
 あの凸凹デコボココンビは間違いない!遠すぎて顔はよく見えないが、背の低い方は走るのもやっとそうだし、すでに肩で息をしていて限界になっている。もしかしてまた屋敷を抜け出そうと?そう思って二人を注視する。前にも抜け出していると報告を受けていたが、まただと?どういうつもりで…そう思っていると、次に見たものに言葉を失う!

 ──ハァ…何をしようとしてるんだ。木に?あの木は朽ちている部分があって危ないぞ!
 
 私は執務を飛び出して、二人の居るところまで駆け出した。この私がこんなに早く走ったなど、生まれて初めてのことだ。どんどん近付いてくると、オリヴァーはもう塀の上に立っており、次にマリンが木に足を掛けているのが見える。そして順調に登っているかに見えたその瞬間┉枝がバキッと折れる!

 ──危ない!グハッ…

 マリンが落ちる前に何とか間に合った私は、懸命に身体を支える。この手を離してしまったら、マリンは下に打ち付けられ怪我をしてしまうだろう。決して落とすまい!という一心で支え続けて…

 「あ…アン!ちょっと、ンんっ!」

 あろうことか、マリンは何やらモゾモゾしながら甘い声を出している…はぁっ?マリンのそんな不謹慎な行動にたじろいで、だけど困ったことにちょっとだけ反応しまって…

 ──えっ、嘘だろ?相手はマリンだぞ…

 だけど次の瞬間、私は大変なミスを冒していることに気付いた。それに気付いてガタガタと震える。

 ──や、ヤバい!どうしよう…

 私の親指が、あろうことかマリンのお尻に!?おまけにその部分はー!だけどそもそも何をしているんだ?
 
 この騒ぎを聞きつけたギルバートも駆け付けて来て、この有り様を見て驚いている。それからオリヴァーが塀から降りて来たけど、バツの悪い顔をしていて視線を合わそうともしない。どう見たってまた抜け出そうとしていたな?そう思って二人をギロリと睨む。

 するとマリンは、何を思ったのかいきなり私のお尻をむんずと掴む。ど、どうした?
 動揺しまくる私をよそに、マリンは涼しい顔で悪びれた様子もなくて…

 ──それはやめろ!また反応しちゃうだろ?

 全く意味不明な行動と、そんなマリンに反応してしまった小っ恥ずかしさで、だんだん怒りが湧いてくる。そして二人には今直ぐ私の執務室まで来るように言って立ち去る。それにはもう一つ理由があったんだが…
 
 誰も私を見てないだろうな?と、前を隠しながら猛スピードで執務室に戻る。そしてハーッ!と息をついて、何とか落ち着きを取り戻した私は、続けて現れたマリンをソファに座らせ、さあ白状しろ!って詰め寄った。すると…

 「何だ?これは…」

 テーブルの上には、見事に刺繍されたハンカチや花瓶敷、マットなどが並べられる。
 私自身は特に刺繍に興味がある訳でも造詣が深い訳でもないが、一見して素晴らしいものだと分かる。よくある花や動植物の図柄だけでなく何か特別な記号のような模様が施してあって、色も鮮やかで丁寧な作りが目を引いた。
   
 ──一目で惹きつけられるような魅力がある作品の数々だ!
 
 「これは僕が一つ一つ手作りしたものです。もちろんデザインもオリジナルで僕が考えたんですよ?そして何故こういうことを始めたんだって思ってますよね?もちろんお金を稼ぎたいからです。僕には…もうお金がないんです!」

 マリンは遠慮がちにそう言って、私は驚きの余り呆気に取られる。

 ──これをマリンが!?こんな素晴らしい才能がマリンにあるだと?

 だけどマズい…この展開はもしかして、あの一件を言ってくる?って警戒した。案の定ここへ来たばかりの部屋に家具がなかった件を理由に挙げられて…

 「それを言われたら、もう許すしか道はない。ハァ…」

 私は密かにそう呟いて、だけどこれだけは言っておかねば!と一つだけ条件を出した。それは護衛騎士を付けるということ。
  
 ──これだけは、絶対に譲れない!

 何故かといえば、マリンは可愛い!だから絶対に危ない。街で誰かに攫われたり襲われたらって考えると…絶対に護衛は必要ー!

 そう思ってから人知れずこの公爵家に来たばかりのマリンを思い出す。青白い顔に艶のない金髪で、生気のない顔をしていた…

 私は次の日、料理長に秘密の指令を出した。それは…

 「マリンへの食事は、お肌プルプル髪ツヤツヤメニューにするように!」

 だからどうだ?今は見違えるようにプルプルツヤツヤだろ?だから心配なんだよ…
 なんなら私が付いて行きたいくらいだが、なにせ忙しい!だからせめて、我が家門の騎士達の間で一番の手練てだれ、ギルバートに行かせる!

 そう決めてからホッと安堵して、執務に戻ることにした。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

聖女の力を搾取される偽物の侯爵令息は本物でした。隠された王子と僕は幸せになります!もうお父様なんて知りません!

竜鳴躍
BL
密かに匿われていた王子×偽物として迫害され『聖女』の力を搾取されてきた侯爵令息。 侯爵令息リリー=ホワイトは、真っ白な髪と白い肌、赤い目の美しい天使のような少年で、類まれなる癒しの力を持っている。温和な父と厳しくも優しい女侯爵の母、そして母が養子にと引き取ってきた凛々しい少年、チャーリーと4人で幸せに暮らしていた。 母が亡くなるまでは。 母が亡くなると、父は二人を血の繋がらない子として閉じ込め、使用人のように扱い始めた。 すぐに父の愛人が後妻となり娘を連れて現れ、我が物顔に侯爵家で暮らし始め、リリーの力を娘の力と偽って娘は王子の婚約者に登り詰める。 実は隣国の王子だったチャーリーを助けるために侯爵家に忍び込んでいた騎士に助けられ、二人は家から逃げて隣国へ…。 2人の幸せの始まりであり、侯爵家にいた者たちの破滅の始まりだった。

虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。 強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。 「お前は、俺だけのものだ」 これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

処理中です...