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第六章・僕のいる場所

47・クルーガー侯爵邸へ

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 僕はもう既に、ガイ・クルーガールートは消えた!と思っていた。だって交流戦自体がゲームのシナリオとは似て非なるものだったし、ジュリアスがガイを好きになることも無かった。
 だからきっともう会うこともないんだと思っていたんだけど…

 あれから順調にロウヘンボクへと街道を進む一行。少し行くと噂のクルーガー家の領地、セデナスへと入った。痩せた土地だと有名なこの地は、ジャガイモやトウモロコシなどのその土地でも育つ野菜の生産と、ほんの少しだけ海に面している為にそこで穫れる海産物などのみを収入源にしている。だから侯爵家とはいえ昔から裕福では無かった。その代わりに先代の侯爵様は剣で身を立てて、坊ちゃまのお祖父様と共に戦争で活躍したんだ。だからその孫であるガイ様や御兄弟方も、同様に騎士となるべく騎士学園へと進学されている。

 僕はそのセデナスの風景を馬車の窓から見ながら、隣だというのにこれほどの違いがあるんだなぁ~と複雑な思いがする。だけど、そういう苦労がある家門出身のガイ様だからこそ、お優しいのだと改めて思う。何の苦労も知らず裕福に暮らしていたら、あのような親切は出来ないだろう。それに今回だって…

 公子である坊ちゃまとお近付きになるのは、誰でも損はないと考えるだろう。多岐に渡る事業を展開する裕福な家門で、戦争の英雄の名声まで手にしているエドモア公爵家。仲良く出来ればおこぼれに預かれると思うのは、誰でも考える。だけどガイ様は違うと思う。恩を売ろうとか、それで何かをせしめようなんて考える人ではないから…
 
 坊ちゃまを不便な目に合わせるのは忍びない!と思うのもあったけど、そんなガイ様のお家って?と興味があったのも本音だ。それに前世での僕のイチ押しキャラだったしね~と、なんだか根拠の無い期待を胸に先へ先へと進んで行った。


 +++++


 クルーガー侯爵領へと入って三時間ほど馬車を走らせると、「ガイ様から案内を申しつかりました」と案内の者が迎えに来た。そんな手厚いおもてなしに、否応なしに期待は高まる訳で…
 それから少し走った先に見えてきたのは小高い丘だ。のどかな風景が広がるそこをぐるりと登った先にその侯爵邸はあった。本邸の約半分ほどだと言われているエドモア家の王都邸にさえも遠く及ばないが、それでも歴史を感じさせる大きなお屋敷だ。ここでガイ様は育ったんだなぁ~と思っていると、その侯爵邸からいつのも親しみのある笑顔のガイ様がお出迎えとばかりに出て来た。そして…
 
 隣にいるのはお兄様かな?ガイ様ほどではないが立派な体格と、弟とソックリな顔立ち。そして貴族らしい柔和な笑みを浮かべる男性が続けて出て来た。その人は坊ちゃまの前まで行き「エドモア公子様、ようこそおいで下さいました!」と頭を下げる。

 「クルーガー侯爵家のシュテファン・クルーガー卿ですね?今回はお招きいただきましてありがとうございます。急な来訪で驚いたと思いますが、ガイ様のご厚意に甘えましてお伺い致しました。以後お見知り置きを」

 坊ちゃまはそう挨拶して、鮮やかな微笑みを向ける。それに一瞬動揺してしまったシュテファン卿は、咳払いしながら「どうぞお入り下さい!皆様も」と使用人一同も迎え入れてくださった。

 ──分かる…分かるよ!坊ちゃまの微笑みって、一瞬時が止まるほど美しいよね~動揺しないってのが無理だ!

 それから皆で侯爵邸へと足を踏み入れると、まだ新しいエドモア公爵邸とは全く違う、重厚で古き良きっていうのかな?まるで美術館のようなレトロ感溢れる内部に驚いた。もしかして、エドモア公爵家の本邸もこんな雰囲気なんだろうか…?
 そんなふうに考えながら客間へと案内されて行く。僕も当然アルベルトさん達と一緒に…と思ってたんだけれど、坊ちゃまが馴れていない部屋では不安があるというので、とりあえずは坊ちゃまと同じお部屋を使わせていただくことに…

 この屋敷で一番の客間と言われる部屋へ入ると、またまたその内装に驚いた。

 「坊ちゃま!これ大理石でしょうか?このお屋敷は相当歴史がありそうですね。それと僕用のベッドまである~」

 大きなベッドの少し離れたところに、少しだけ小さなベッドが置いてある。僕は坊ちゃまと一緒ならソファででも寝る!と思っていたので、凄く有り難い。そんなふうに喜ぶ僕に坊ちゃまは…

 「余計なことを!一緒のベッドで寝ようと思っていたのに…」

 ──何ですと?それはちょっとアレがアレなもんで…無理ったら無理~

 そう叫ぶ僕をフフッと笑う坊ちゃまは、満更でもない顔をしていた。ほ、本気だったんだ!
 そのことに動揺していると、突如ドアをノックする音が聞こえる。誰かな?と思いながら返事してドアを開けると…

 「失礼します公子様。それに…エリオット・アノー令息」

 そこに笑顔で立っていたガイ様に驚く。今、何でおっしゃいました?アノー…令息だって!?

 もしかして、知っていた?僕がアノー伯爵家の隠し子なんかじゃなくて、れっきとした令息だって…
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