42 / 95
第六章・僕のいる場所
41・人間の性
しおりを挟む
「スコット、早く馬車を出せ!」
泣きじゃくりながら馬車に乗り込んで来た僕に驚きながらも、坊ちゃまは冷静にそう指示を出した。スコットさんも何事が!?と思っただろうが、主人の命令は絶対だ…急いで馬車を先にと進める。
「ち、父がいたんです…直ぐそこに。何だか怖くなってしまって…」
僕はそう説明した。ほんの直前まで笑って話していたのに、次の瞬間には泣いていて…そんな僕を坊ちゃまは、自分の方へと呼び寄せる。
「おいで…私の側に来るんだ、エリオット」
それに素直に従って、坊ちゃまの座られている隣へと席を移した。迷惑かな…?とは思ったが、太腿が触れるほどピッタリとくっついて、それでやっと安心出来た。
僕は失念していたんだ…あの坊ちゃまの父君であるエドモア公爵様だって、交流戦を見ようと闘技場へと来ていた。忙しい職務の間を縫っていらしたのだと聞いている。それなのに…騎士学園の代表として出場しているイーライを父が見に来ているのは、ちょっと考えれば分かるじゃないか…馬鹿だな?
それから馬車の窓から見える、今ではすっかりと見慣れた景色を眺めながら思った。あの時、父は見ていたのだろうか?と。
僕とイーライとのやり取りを、もしかしてどこかで見ていたのかも知れない。それにしても…
もう九年も経ったのだ…変わって当たり前だ。僕の記憶の中の父は、騎士を辞め伯爵代理となった後でも、大きくて筋肉隆々で、ぶつかっても動じないような人だった。だけど…先程見た父は、小さくなったように感じた。それとも…僕が大きくなったのだろうか?それにあんなに白髪が増えて…
そんなことを思っていると、車窓にぼんやりと映る僕の頬に、再び涙が流れ落ちるのが見えた。
「エリオット…隣じゃなくて、ここにおいで。私の膝に!」
そんな僕を黙って見守ってくれていた坊ちゃまが、見兼ねてそんなことを言ってくる。従者が主人の膝の上に乗るなど、普通は有り得ない。だけど僕は、坊ちゃまの好意に甘えることにした。一人ではもう気持ちの整理をするのは無理だと感じて…
ちょっと恥ずかしかったけど、遠慮がちにお膝にちょこんと座り、僕の腰をしっかりと抱く坊ちゃまの肩へと抱きついた。そして清涼剤のような坊ちゃまの首元の匂いをスーハースーハーして、やっと芯から落ち着くことが出来た。
「ありがとうございます坊ちゃま…少し落ち着きました。父を見たら昔を思い出して、必要以上に動揺してしまいました…もう大丈夫です!」
僕はそう言ってパッと笑顔を見せる。いろんな感情がどっと押し寄せて、すっかり動揺してしまったけれど坊ちゃまのお陰で気持ちを切り替えることが出来た。やっぱり僕って、坊ちゃまの側でなきゃ…そう思って更にぎゅっと抱き着く。
そんな僕を坊ちゃまは、頭を優しく撫でてそれから背中を一定のリズムでポンポンする。
「今日は疲れただろ?公爵邸に着くまで、眠るといいよ」
そんな…子供みたいな…と思ったのを最後に、僕は本当に眠ってしまった。今日は本当にいろんな出来事が起きて、もう限界だった。
+++++
次の日目を覚ますと、いつの間にかエドモア公爵邸へと着いていて、何故か僕の隣には坊ちゃまのドアップが!えっ…どういう状況?
呆然としながらキョロキョロと見回すと、どうも僕は坊ちゃまのベッドで寝ているようだ。なんという失態!!そう思ってドキドキしていると、「うう~ん」と坊ちゃまが何やらおっしゃった。もしかして寝言かな?凄いチャンス~とばかりに、改めて寝ている坊ちゃまを見つめた。
坊ちゃまの光り輝く銀糸のような髪が一筋額から流れて、長い睫毛にかかっている。それがどうも痒いのか、むにゃむにゃと言いながら指先で払い除けて、それからまたスッと眠りについている。
──くわぁあいーーっ!
(可愛い)
僕は朝から可愛いの洗礼を受けてドッキドキだけど、ほんのちょっと…少しだけ、触ってみたくなった。
寝ている坊ちゃまを触るなんて!と背徳感が凄いけど、本能に逆らえないのが人間の性だ…
そんな欲望に負けて僕は、坊ちゃまの白く艷やかな頬にそっと触れる。
その瞬間、プニッとした弾力が指先に伝う。それにすべすべだ…まるでシルクか博多人形か!?な感触に驚いていると、その刺激でほんの少し目を覚まされた坊ちゃまがゴロンと寝返りを打つ。そして、あろう事か坊ちゃまの身体が僕に覆いかぶさった。はい…?
僕は薄いブラウス一枚で、下は履いていない…誰だ?脱がせたのはぁ~。そんな僕に、同じくパジャマ一枚の坊ちゃまの温かな身体が乗っかったら…どうなる?そりゃ反応しちゃうでしょ!
──ヤバい!これ、どうしょう?
泣きじゃくりながら馬車に乗り込んで来た僕に驚きながらも、坊ちゃまは冷静にそう指示を出した。スコットさんも何事が!?と思っただろうが、主人の命令は絶対だ…急いで馬車を先にと進める。
「ち、父がいたんです…直ぐそこに。何だか怖くなってしまって…」
僕はそう説明した。ほんの直前まで笑って話していたのに、次の瞬間には泣いていて…そんな僕を坊ちゃまは、自分の方へと呼び寄せる。
「おいで…私の側に来るんだ、エリオット」
それに素直に従って、坊ちゃまの座られている隣へと席を移した。迷惑かな…?とは思ったが、太腿が触れるほどピッタリとくっついて、それでやっと安心出来た。
僕は失念していたんだ…あの坊ちゃまの父君であるエドモア公爵様だって、交流戦を見ようと闘技場へと来ていた。忙しい職務の間を縫っていらしたのだと聞いている。それなのに…騎士学園の代表として出場しているイーライを父が見に来ているのは、ちょっと考えれば分かるじゃないか…馬鹿だな?
それから馬車の窓から見える、今ではすっかりと見慣れた景色を眺めながら思った。あの時、父は見ていたのだろうか?と。
僕とイーライとのやり取りを、もしかしてどこかで見ていたのかも知れない。それにしても…
もう九年も経ったのだ…変わって当たり前だ。僕の記憶の中の父は、騎士を辞め伯爵代理となった後でも、大きくて筋肉隆々で、ぶつかっても動じないような人だった。だけど…先程見た父は、小さくなったように感じた。それとも…僕が大きくなったのだろうか?それにあんなに白髪が増えて…
そんなことを思っていると、車窓にぼんやりと映る僕の頬に、再び涙が流れ落ちるのが見えた。
「エリオット…隣じゃなくて、ここにおいで。私の膝に!」
そんな僕を黙って見守ってくれていた坊ちゃまが、見兼ねてそんなことを言ってくる。従者が主人の膝の上に乗るなど、普通は有り得ない。だけど僕は、坊ちゃまの好意に甘えることにした。一人ではもう気持ちの整理をするのは無理だと感じて…
ちょっと恥ずかしかったけど、遠慮がちにお膝にちょこんと座り、僕の腰をしっかりと抱く坊ちゃまの肩へと抱きついた。そして清涼剤のような坊ちゃまの首元の匂いをスーハースーハーして、やっと芯から落ち着くことが出来た。
「ありがとうございます坊ちゃま…少し落ち着きました。父を見たら昔を思い出して、必要以上に動揺してしまいました…もう大丈夫です!」
僕はそう言ってパッと笑顔を見せる。いろんな感情がどっと押し寄せて、すっかり動揺してしまったけれど坊ちゃまのお陰で気持ちを切り替えることが出来た。やっぱり僕って、坊ちゃまの側でなきゃ…そう思って更にぎゅっと抱き着く。
そんな僕を坊ちゃまは、頭を優しく撫でてそれから背中を一定のリズムでポンポンする。
「今日は疲れただろ?公爵邸に着くまで、眠るといいよ」
そんな…子供みたいな…と思ったのを最後に、僕は本当に眠ってしまった。今日は本当にいろんな出来事が起きて、もう限界だった。
+++++
次の日目を覚ますと、いつの間にかエドモア公爵邸へと着いていて、何故か僕の隣には坊ちゃまのドアップが!えっ…どういう状況?
呆然としながらキョロキョロと見回すと、どうも僕は坊ちゃまのベッドで寝ているようだ。なんという失態!!そう思ってドキドキしていると、「うう~ん」と坊ちゃまが何やらおっしゃった。もしかして寝言かな?凄いチャンス~とばかりに、改めて寝ている坊ちゃまを見つめた。
坊ちゃまの光り輝く銀糸のような髪が一筋額から流れて、長い睫毛にかかっている。それがどうも痒いのか、むにゃむにゃと言いながら指先で払い除けて、それからまたスッと眠りについている。
──くわぁあいーーっ!
(可愛い)
僕は朝から可愛いの洗礼を受けてドッキドキだけど、ほんのちょっと…少しだけ、触ってみたくなった。
寝ている坊ちゃまを触るなんて!と背徳感が凄いけど、本能に逆らえないのが人間の性だ…
そんな欲望に負けて僕は、坊ちゃまの白く艷やかな頬にそっと触れる。
その瞬間、プニッとした弾力が指先に伝う。それにすべすべだ…まるでシルクか博多人形か!?な感触に驚いていると、その刺激でほんの少し目を覚まされた坊ちゃまがゴロンと寝返りを打つ。そして、あろう事か坊ちゃまの身体が僕に覆いかぶさった。はい…?
僕は薄いブラウス一枚で、下は履いていない…誰だ?脱がせたのはぁ~。そんな僕に、同じくパジャマ一枚の坊ちゃまの温かな身体が乗っかったら…どうなる?そりゃ反応しちゃうでしょ!
──ヤバい!これ、どうしょう?
740
お気に入りに追加
1,360
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
悪役なので大人しく断罪を受け入れたら何故か主人公に公開プロポーズされた。
柴傘
BL
侯爵令息であるシエル・クリステアは第二王子の婚約者。然し彼は、前世の記憶を持つ転生者だった。
シエルは王立学園の卒業パーティーで自身が断罪される事を知っていた。今生きるこの世界は、前世でプレイしていたBLゲームの世界と瓜二つだったから。
幼い頃からシナリオに足掻き続けていたものの、大した成果は得られない。
然しある日、婚約者である第二王子が主人公へ告白している現場を見てしまった。
その日からシナリオに背く事をやめ、屋敷へと引き篭もる。もうどうにでもなれ、やり投げになりながら。
「シエル・クリステア、貴様との婚約を破棄する!」
そう高らかに告げた第二王子に、シエルは恭しく礼をして婚約破棄を受け入れた。
「じゃあ、俺がシエル様を貰ってもいいですよね」
そう言いだしたのは、この物語の主人公であるノヴァ・サスティア侯爵令息で…。
主人公×悪役令息、腹黒溺愛攻め×無気力不憫受け。
誰でも妊娠できる世界。頭よわよわハピエン。
俺の婚約者は、頭の中がお花畑
ぽんちゃん
BL
完璧を目指すエレンには、のほほんとした子犬のような婚約者のオリバーがいた。十三年間オリバーの尻拭いをしてきたエレンだったが、オリバーは平民の子に恋をする。婚約破棄をして欲しいとお願いされて、快諾したエレンだったが……
「頼む、一緒に父上を説得してくれないか?」
頭の中がお花畑の婚約者と、浮気相手である平民の少年との結婚を認めてもらう為に、なぜかエレンがオリバーの父親を説得することになる。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?
人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途なαが婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。
・五話完結予定です。
※オメガバースでαが受けっぽいです。
側近候補を外されて覚醒したら旦那ができた話をしよう。
とうや
BL
【6/10最終話です】
「お前を側近候補から外す。良くない噂がたっているし、正直鬱陶しいんだ」
王太子殿下のために10年捧げてきた生活だった。側近候補から外され、公爵家を除籍された。死のうと思った時に思い出したのは、ふわっとした前世の記憶。
あれ?俺ってあいつに尽くして尽くして、自分のための努力ってした事あったっけ?!
自分のために努力して、自分のために生きていく。そう決めたら友達がいっぱいできた。親友もできた。すぐ旦那になったけど。
***********************
ATTENTION
***********************
※オリジンシリーズ、魔王シリーズとは世界線が違います。単発の短い話です。『新居に旦那の幼馴染〜』と多分同じ世界線です。
※朝6時くらいに更新です。
悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる