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第六章・僕のいる場所
41・人間の性
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「スコット、早く馬車を出せ!」
泣きじゃくりながら馬車に乗り込んで来た僕に驚きながらも、坊ちゃまは冷静にそう指示を出した。スコットさんも何事が!?と思っただろうが、主人の命令は絶対だ…急いで馬車を先にと進める。
「ち、父がいたんです…直ぐそこに。何だか怖くなってしまって…」
僕はそう説明した。ほんの直前まで笑って話していたのに、次の瞬間には泣いていて…そんな僕を坊ちゃまは、自分の方へと呼び寄せる。
「おいで…私の側に来るんだ、エリオット」
それに素直に従って、坊ちゃまの座られている隣へと席を移した。迷惑かな…?とは思ったが、太腿が触れるほどピッタリとくっついて、それでやっと安心出来た。
僕は失念していたんだ…あの坊ちゃまの父君であるエドモア公爵様だって、交流戦を見ようと闘技場へと来ていた。忙しい職務の間を縫っていらしたのだと聞いている。それなのに…騎士学園の代表として出場しているイーライを父が見に来ているのは、ちょっと考えれば分かるじゃないか…馬鹿だな?
それから馬車の窓から見える、今ではすっかりと見慣れた景色を眺めながら思った。あの時、父は見ていたのだろうか?と。
僕とイーライとのやり取りを、もしかしてどこかで見ていたのかも知れない。それにしても…
もう九年も経ったのだ…変わって当たり前だ。僕の記憶の中の父は、騎士を辞め伯爵代理となった後でも、大きくて筋肉隆々で、ぶつかっても動じないような人だった。だけど…先程見た父は、小さくなったように感じた。それとも…僕が大きくなったのだろうか?それにあんなに白髪が増えて…
そんなことを思っていると、車窓にぼんやりと映る僕の頬に、再び涙が流れ落ちるのが見えた。
「エリオット…隣じゃなくて、ここにおいで。私の膝に!」
そんな僕を黙って見守ってくれていた坊ちゃまが、見兼ねてそんなことを言ってくる。従者が主人の膝の上に乗るなど、普通は有り得ない。だけど僕は、坊ちゃまの好意に甘えることにした。一人ではもう気持ちの整理をするのは無理だと感じて…
ちょっと恥ずかしかったけど、遠慮がちにお膝にちょこんと座り、僕の腰をしっかりと抱く坊ちゃまの肩へと抱きついた。そして清涼剤のような坊ちゃまの首元の匂いをスーハースーハーして、やっと芯から落ち着くことが出来た。
「ありがとうございます坊ちゃま…少し落ち着きました。父を見たら昔を思い出して、必要以上に動揺してしまいました…もう大丈夫です!」
僕はそう言ってパッと笑顔を見せる。いろんな感情がどっと押し寄せて、すっかり動揺してしまったけれど坊ちゃまのお陰で気持ちを切り替えることが出来た。やっぱり僕って、坊ちゃまの側でなきゃ…そう思って更にぎゅっと抱き着く。
そんな僕を坊ちゃまは、頭を優しく撫でてそれから背中を一定のリズムでポンポンする。
「今日は疲れただろ?公爵邸に着くまで、眠るといいよ」
そんな…子供みたいな…と思ったのを最後に、僕は本当に眠ってしまった。今日は本当にいろんな出来事が起きて、もう限界だった。
+++++
次の日目を覚ますと、いつの間にかエドモア公爵邸へと着いていて、何故か僕の隣には坊ちゃまのドアップが!えっ…どういう状況?
呆然としながらキョロキョロと見回すと、どうも僕は坊ちゃまのベッドで寝ているようだ。なんという失態!!そう思ってドキドキしていると、「うう~ん」と坊ちゃまが何やらおっしゃった。もしかして寝言かな?凄いチャンス~とばかりに、改めて寝ている坊ちゃまを見つめた。
坊ちゃまの光り輝く銀糸のような髪が一筋額から流れて、長い睫毛にかかっている。それがどうも痒いのか、むにゃむにゃと言いながら指先で払い除けて、それからまたスッと眠りについている。
──くわぁあいーーっ!
(可愛い)
僕は朝から可愛いの洗礼を受けてドッキドキだけど、ほんのちょっと…少しだけ、触ってみたくなった。
寝ている坊ちゃまを触るなんて!と背徳感が凄いけど、本能に逆らえないのが人間の性だ…
そんな欲望に負けて僕は、坊ちゃまの白く艷やかな頬にそっと触れる。
その瞬間、プニッとした弾力が指先に伝う。それにすべすべだ…まるでシルクか博多人形か!?な感触に驚いていると、その刺激でほんの少し目を覚まされた坊ちゃまがゴロンと寝返りを打つ。そして、あろう事か坊ちゃまの身体が僕に覆いかぶさった。はい…?
僕は薄いブラウス一枚で、下は履いていない…誰だ?脱がせたのはぁ~。そんな僕に、同じくパジャマ一枚の坊ちゃまの温かな身体が乗っかったら…どうなる?そりゃ反応しちゃうでしょ!
──ヤバい!これ、どうしょう?
泣きじゃくりながら馬車に乗り込んで来た僕に驚きながらも、坊ちゃまは冷静にそう指示を出した。スコットさんも何事が!?と思っただろうが、主人の命令は絶対だ…急いで馬車を先にと進める。
「ち、父がいたんです…直ぐそこに。何だか怖くなってしまって…」
僕はそう説明した。ほんの直前まで笑って話していたのに、次の瞬間には泣いていて…そんな僕を坊ちゃまは、自分の方へと呼び寄せる。
「おいで…私の側に来るんだ、エリオット」
それに素直に従って、坊ちゃまの座られている隣へと席を移した。迷惑かな…?とは思ったが、太腿が触れるほどピッタリとくっついて、それでやっと安心出来た。
僕は失念していたんだ…あの坊ちゃまの父君であるエドモア公爵様だって、交流戦を見ようと闘技場へと来ていた。忙しい職務の間を縫っていらしたのだと聞いている。それなのに…騎士学園の代表として出場しているイーライを父が見に来ているのは、ちょっと考えれば分かるじゃないか…馬鹿だな?
それから馬車の窓から見える、今ではすっかりと見慣れた景色を眺めながら思った。あの時、父は見ていたのだろうか?と。
僕とイーライとのやり取りを、もしかしてどこかで見ていたのかも知れない。それにしても…
もう九年も経ったのだ…変わって当たり前だ。僕の記憶の中の父は、騎士を辞め伯爵代理となった後でも、大きくて筋肉隆々で、ぶつかっても動じないような人だった。だけど…先程見た父は、小さくなったように感じた。それとも…僕が大きくなったのだろうか?それにあんなに白髪が増えて…
そんなことを思っていると、車窓にぼんやりと映る僕の頬に、再び涙が流れ落ちるのが見えた。
「エリオット…隣じゃなくて、ここにおいで。私の膝に!」
そんな僕を黙って見守ってくれていた坊ちゃまが、見兼ねてそんなことを言ってくる。従者が主人の膝の上に乗るなど、普通は有り得ない。だけど僕は、坊ちゃまの好意に甘えることにした。一人ではもう気持ちの整理をするのは無理だと感じて…
ちょっと恥ずかしかったけど、遠慮がちにお膝にちょこんと座り、僕の腰をしっかりと抱く坊ちゃまの肩へと抱きついた。そして清涼剤のような坊ちゃまの首元の匂いをスーハースーハーして、やっと芯から落ち着くことが出来た。
「ありがとうございます坊ちゃま…少し落ち着きました。父を見たら昔を思い出して、必要以上に動揺してしまいました…もう大丈夫です!」
僕はそう言ってパッと笑顔を見せる。いろんな感情がどっと押し寄せて、すっかり動揺してしまったけれど坊ちゃまのお陰で気持ちを切り替えることが出来た。やっぱり僕って、坊ちゃまの側でなきゃ…そう思って更にぎゅっと抱き着く。
そんな僕を坊ちゃまは、頭を優しく撫でてそれから背中を一定のリズムでポンポンする。
「今日は疲れただろ?公爵邸に着くまで、眠るといいよ」
そんな…子供みたいな…と思ったのを最後に、僕は本当に眠ってしまった。今日は本当にいろんな出来事が起きて、もう限界だった。
+++++
次の日目を覚ますと、いつの間にかエドモア公爵邸へと着いていて、何故か僕の隣には坊ちゃまのドアップが!えっ…どういう状況?
呆然としながらキョロキョロと見回すと、どうも僕は坊ちゃまのベッドで寝ているようだ。なんという失態!!そう思ってドキドキしていると、「うう~ん」と坊ちゃまが何やらおっしゃった。もしかして寝言かな?凄いチャンス~とばかりに、改めて寝ている坊ちゃまを見つめた。
坊ちゃまの光り輝く銀糸のような髪が一筋額から流れて、長い睫毛にかかっている。それがどうも痒いのか、むにゃむにゃと言いながら指先で払い除けて、それからまたスッと眠りについている。
──くわぁあいーーっ!
(可愛い)
僕は朝から可愛いの洗礼を受けてドッキドキだけど、ほんのちょっと…少しだけ、触ってみたくなった。
寝ている坊ちゃまを触るなんて!と背徳感が凄いけど、本能に逆らえないのが人間の性だ…
そんな欲望に負けて僕は、坊ちゃまの白く艷やかな頬にそっと触れる。
その瞬間、プニッとした弾力が指先に伝う。それにすべすべだ…まるでシルクか博多人形か!?な感触に驚いていると、その刺激でほんの少し目を覚まされた坊ちゃまがゴロンと寝返りを打つ。そして、あろう事か坊ちゃまの身体が僕に覆いかぶさった。はい…?
僕は薄いブラウス一枚で、下は履いていない…誰だ?脱がせたのはぁ~。そんな僕に、同じくパジャマ一枚の坊ちゃまの温かな身体が乗っかったら…どうなる?そりゃ反応しちゃうでしょ!
──ヤバい!これ、どうしょう?
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