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第一章・憑依

8・有り得ない視線

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 い、一体いつから見ていた?その冷めきった瞳は何を映しているのだろう…

 ドミニクの、氷のように冷ややかな視線にたじろぐ。

 ──それにしても何でここに?もしかしてブロン卿に抱き抱えられているところも見られたのだろうか?それでこの視線…なのか?
 
 私だって好きでそうされていた訳ではない…それと同時に思うのは、私はいつまでこの人のこういう視線に耐えなければならないんだ?ということ。もう私とは他人なのに…

 だけど今私はロディアで、シルフィじゃない!と思っても、ドミニクの顔を見るとどうしても、シルフィとしての感情に揺さぶられてしまう。

 この先時が経って、シルフィとして過ごした記憶が薄れて、平気になったりするんだろうか…
 相変わらずのドミニクの冷淡な態度に憤然とするが、礼儀としてドミニクにも一礼して教室に入った。

 やはりクラスメイトのノア殿下の護衛で二人は来たのだろうか…?

 「ロディアごめんな…。兄さん、体調でも悪かったのかな?」

 デビットが兄であるリチャードの行動に首を傾げる。私でさえもその意味が分かり兼ねているのに、デビットが理解出来る筈はない。

 「うん…デビットのせいじゃないし。でも何だろう?知らないうちに何か失礼な事しちゃったんだろうか…?」

 それにしても理解出来ないのは、リチャード・ブロンだ。この前の失礼な発言といい今回といい…
 ロディアとしては初対面の筈だ。それなのに…?
 あのように抱き締められて、人知れず胸がドキドキした…
 大人の男性に身体を抱かれるなど、今までドミニクにしかされた事はない。
 だけどドミニクの場合は嫌々だったのだろうね…

 「兄さんとはこの前ちょっとだけ話したんだって聞いたけど、それ以前は面識無かったんだよね?ロディアの亡くなったお兄さんと知り合いだったらしいけど…様子が少し可怪しかったな」

 シルフィとしての私と、知り合いと言えるのかは疑問だけど、一度きちんと話した方がいいのかも知れない。ちょっぴり怖いけど…
 
 ちょうどその時予鈴が鳴って、慌ててそれぞれの机に着いた。
 それから授業が始まったけれど、廊下にはドミニクやリチャードが居るんだろうか?と思うと落ち着かない気持ちに…

 いや、気にしちゃダメだ!勉強しに来てるんだろ?って自分に言い聞かせていると、何やら自分に向けられた視線に気付く。

 ──ん、何だ…?
 どこから感じるんだろうと、きょろきょろと視線を彷徨わせていると、その瞬間バシッと目が合う。
 だが、自分をじっと見ていたその人が誰なのかを理解して、有り得ない!と一気に緊張する。
 
 白金色の長い髪を束ねて横に流し、宝石のように煌めく紫紺色の瞳。そんなこの世の美を集めたような人が、柔和な笑みを浮かべて私を見ている。このお方は、ノア殿下だ…

 デビットが言っていた、第一王子よりも優秀な第二王子。そして誰よりも王に相応しい人物。
 だけど、私に言わせると底知れない何かを感じるけど…気のせいだろうか?
 慈愛に満ちた眼差しだけれど、それだけじゃない気がする…

 でもまさか私に、興味を持ってくださるとは思ってなかった!明らかに私と分かってその視線を送っている。
 それにどう返したらいいのか全く分からないけど…

 不敬だと思われるのを覚悟で目を合わせたまま会釈した。目をこちらから離しても良いものか…?

 するとノア殿下も礼を返してくれて、より一層美麗な笑みを浮かべ、有ろうことかこちらに向けてひらひらと手を振った。

 そんな殿下の行動に、私だけでなく周りのそれに気付いたクラスメイト達も、唖然として見ている。 
 私は理解が追い付かず思わず下を向く。それからは再び殿下の方を向く勇気もなく、微動だにせず前を向いている他はなかった。

 全く頭に入らないまま授業が終わり、休み時間になる。
 ノア殿下はクラスの中の側近の生徒と話し込んでいて、それ以上は自分に近付いて来ないのを確認してホッとする。
 それから次の移動教室の授業の準備をして立ち上がり、向こうから呼んでいるデビットの所に行こうとすると、誰かが後ろをかすめる。その瞬間…

 「君は誰だい?」

 それにビクッとして後ろを振り返った。
 すると、遠ざかって行くノア殿下が見える…

 ──君は…誰…だって!?
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