上 下
235 / 241
第五章

第235話 これは貴族に捕まるというテンプ······

しおりを挟む
「大人しくしろ!」

 いえ、動いてもいませんよ。見ると白いマントをバサッとひるがえし、腰にかけてあったロープを手に取り、僕に向かって来る騎士さん二人。

(はぁ、私達も捕まるみたいね、ちゃんと護りなさいよ)

(くくっ、ほんにライは普通考えられない事を考えるのう。まあ頼んだぞ)

(任せて下さい。傷一つ付けさせませんから)

 あ、ギルドマスターさんまでロープで拘束されちゃいましたね。

(ムルムルは服の中に隠れておいて下さいね。あっ、アミーの魔法の杖は収納しておきましょう。取られると嫌ですからね)

(おお! そうじゃ! ライよ、よろしく頼むのじゃ)

 僕達四人が抵抗すること無く拘束されたのを見て、満足そうなギキムさんです。

「よし、二人はこの四人を屋敷の牢屋にまとめて放り込んでおけ、私はこの後衛兵の詰め所に向かい、奴を引き取ってくる。まったく下らない事で捕まりおって、まあ奴隷になった分扱いやすくなったのは手間が省けたと喜ぶべきか」

 ふ~ん。疾風怒濤さん達をやっぱり仲間にするつもりなのですね。

 僕達は大人しく二人の騎士さんについて行き、冒険者ギルドの隣にあった石造りの壁で囲われた中に入ったのですが、あまり広くはないですね? 貴族なのに冒険者ギルドの隣ですし。

 あっ、街中なのであまり大きくないのですね、それに貴族街でもありませんし、あまり偉い方ではないのかもしれません。

 お屋敷に入ると、ホールの正面にあった階段の裏から地下への入口があるようで、定番ですねと感心してしまいました。

(ライ。顔がにやけてるわよ、ちょっとは引き締めてないと怪しまれちゃうんじゃない)

(え? そ、それは困りますね。分かりました。そうだ、少し気になったのですがこの二人は悪者ですか? 奴隷の腕輪を付けているよね)

(そうね。見てみるわ。んん神眼~、普通に犯罪奴隷よ。強奪と殺人の称号が付いているわ)

(ありがとうテラ。あっ、鍵の魔道具を出しましたね)

 階段下の扉を開け、光の魔道具を使い階段を下りていきます。たぶん三階建て分ほど下って両側に鉄の扉がいくつもある地下室に到着して、一番奥の扉前で止まり、鍵を開けました。

「ギキム枢機卿様がお帰りになるまで大人しくしていろ。入れ」

 僕達四人は言われた通り牢の中に入り、ガチャンと扉がしまったと同時に鍵がかかったようです。

「階段入口もここの扉も魔法の鍵ですね~。テラ、アミー怪我は無い?」

「ええ、大丈夫よ。それよりこのロープ外しちゃって、もう良いでしょ?」

「そうじゃな。後ろ手に縛られておると何かと不便じゃしな。ライよ頼む」

「おいおい、大丈夫なのか? こんな無茶な事で拘束されて、こんなところに入れられたんだ、すぐに冒険者ギルドが抗議を入れて出られる、大人しく待っていた方が良いぞ」

「ん~、あのですね、テラ、お話しても大丈夫?」

「そうね、ちょっと待って。んん神眼~、良いわよ。ほら早くほどいてちょうだい。鼻の頭がちょっと痒いのよ」

「うん。収納! お待たせ」

 テラはロープが無くなってすぐに本当に痒かったようで、鼻の頭をポリポリかいて、アミーはぐぅーっと伸びをしています。ムルムルも服の中から出てきていつも通り肩に戻りました。

「拘束が無くなったぞ! お、おい。本当に大丈夫なのか? 罪が重なれば――」

「大丈夫です。一応僕も他国ですけど貴族ですし、あのギキムさんは悪者ですから僕達の方が捕まえる方なのですよ。実はですね――」

 僕は心配そうな顔をするギルドマスターさんにこれまでの事を教えて上げました。

「そ、それじゃあ教国は回復魔法を独占していたから世に回復魔法を使う者が教会にしかいなかったと? その素養がある者を攫い、仲間にならなければ奴隷にしてたって事か? ······なんて事だ。高い治療費が払えず死んでいった者は数えきれないんだぞ······」

 ギルドマスターさんに話し終わったのですが、明日まで待ってもらわないといけません······ん?

「あの、ギルドマスターさん。明日教会の偉い人達が沢山集まるのですがどこか分かりますか?」

「え? あ、ああ。それは大聖堂だ。······ん? そう言えば今年は集まりが悪いな。例年だと一週間ほど前から街は教会の者で溢れ帰っているはずなのだが。今回は特に次期教皇候補を選出するはずだから、もっと集まっても良いはず。だが街に到着した枢機卿達は思いの外少ない······なぜだ?」

「大聖堂ですね。あの大きなお城みたいなところですか?」

「そうだ。今夜から全員集まって、大々的に選出の祭りがもよおされる予定で、警備依頼が入っていたんだがな」

「なるほど。では今夜にやっちゃいましょう。それと、集まっていないのは僕がここに来る途中の方達に奴隷の魔道具を嵌めて、街とか村の衛兵さんに捕まえてもらうようにしたからですよ」

「なんだと! それじゃあ!」

「はい。僕は教国に入ってからぐるぐる教国を回りながら外側から順にそうやって捕まえてきましたから、たまたま上手くすり抜けられた方だけがこの教都に到着しただけですね」

「ライ。どうするの? 夜までここで休憩?」

「休憩するなら綺麗にせぬか? ホコリだらけじゃし、鼻がムズムズするのじゃ」

『きれいにするよ、ぐるぐる~ほいっと』

 ムルムルは、いつも通りみにょ~んと伸びて広がると、部屋中の壁や天井、もちろん床も一瞬だけ包み込んだと思ったら、綺麗に拭き掃除したような嫌いな部屋になっちゃいました。

「ん? どういう事だ? ホコリ臭かったはずだが匂いが無くなったぞ?」

 あっ、僕達は見えてますが、あまりに素早かったですし、扉に付いてる小窓から差し込む魔道具の光しか光源もありませんしギルドマスターさんにはムルムルの動きが見えてなかったのですね。

「生活魔法、光さんお願いします」

 四つの光を出して部屋の四隅に浮かべます。すると石造りの綺麗になった部屋を照らしました。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...