最愛の敵

ルテラ

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エウダイモニア

87話 悲しい真実

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 レアの魔法『ポイズン』毒を製造または分解出来る魔法である。ちなみに研究所から連れてきたラズリに後遺症がなかったのは、ラズリの体が丈夫であることもそうだが、レアが体の毒を中和してくれいたからだ。
 目を覚ますと窓の外は暗くなっていた。
「ラズリ」
 消えそうな悲しそうな声が聞こえる。レアとパーチミがいた。
 ラズリは目を閉じる。
「ラズリ、どうしたの?」
「血塗れ。目に映る人全てが死んだ様にしか見えない・・・殺した、責任を取らなければならない」
 人だけではなかった、もうラズリの目には鮮やかな世界は見えず。白黒の世界しか見えない。
 2人にはその言葉が死にたいっと聞こえた。

 それからラズリはベットで一日を過ごした。ただそこに人形の様に。
「ラズリ」
 誰かが呼ぶ、ラズリは動かない。
「これあげる」
 ラズリの膝に青を基調とした仮面が置かれる。
「ごめんなさい。母さんと叔父さんに言っていたことを聞いてしまったんです。だから俺達なりに考えて仮面を作って見ました」
「仮面ならぶつかったりしてもそう簡単に落ちないだろうしない」
「ラズリ、お願い付けてみて」
「・・・必要ありません。殺して下さい。あなた方の大切な人を殺した。価値などない」
「ラズリ、すまない」
 扉からパーチミの声が聞こえる。
「俺のせいだ。俺がお前に十字架を背負わせた」
「どう言うこと?」
 レアがパーチミの後ろから声をかける。その手にはお湯の入った洗面器とタオルがあった。ラズリの体を拭く為に持ってきたのだろう。
 パーチミは作戦前日の話しをした。
バチン
「子供に何を言っているの!?」
 レアがパーチミの頬を叩く。
「そうだ。だから裁かれるべきは俺だ。ラズリを・・・」
「違う。それを承諾した。パーチミに責任はない」
「ラズリ!それは罪じゃないの。お願い!ホルスを悲しませないで」
「悲しい?」
「ホルスは悲しんで欲しかったからあなたを生かした訳じゃない、お願い」
 レアには分かっていたそれがラズリにとってどれほどの苦痛になるのかを。だが生きて欲しかった。誰よりも強く、弱い存在に。
「・・・あの後、何があったのですか?」
 ラズリが話してくれたことに嬉しそうにするも、その問いに悲しそうにする。
「話す前にお前の記憶を見せてくれないか?」
 パーチミはレアの方を向く。レアは黙って頷く。
「叔父さん!俺も見ちゃダメ?」
 子供達が横から頼み込む。
「子供が見るもんじゃない」
「ラズリだって、子供じゃん」
 痛い所を突かれた顔し、パーチミがレアを見る。
「後悔しない?」
「私達、ラズリとずっと一緒にいたい!」
 子供達の強い意志に負ける。
 パーチミは自身の魔法について話す。
 パーチミの魔法は本人が忘れている記憶も見ることが出来る。パーチミに言わせてみれば記憶は忘れるのではなく。隠れてしまっているだなのだそうだ。使わなくなった記憶は仕舞われ、出さなければ引き出しは錆びていき、開けづらくなる。パーチミはその錆びた引き出しも開けることを可能とする。
「いいか?」
 ラズリは承諾する。
 記憶は作戦の為に軍を離れた所から始める。

『子供達を守ってくれ、君はきっとそれが生きる原動力となる・・・生きて、守れ!』
 その後、ホルスは事切れる。ホルスの死を受け入れられないラズリはホルスと死んだ指導をしてくれた人達とを重ねていた。             
 魔力が膨れ上がる。
「ん?なんだ?」
 チャムク帝国の兵が光を見つける。それは膨れ上がったラズリの魔力。膨れ上がりすぎた魔力は行き場を失い爆発する。
 突然の出来ことにチャムクもスイマールも戸惑い、爆発した方を見るとそこには金色(こんじき)の剣と黒の剣を握っているラズリがいた。
「誰・・・」
 ラズリは兵の1人の首を切り落とす。そして理解出来ないまま、多くの兵がラズリによって殺される。命乞いは無意味、ラズリには何も聞こえないのだから。魔力の調節をしていないラズリは魔法を使うたびに骨が軋み、肉が断たれる。右腕が左腕が左足がそれでもラズリを止められる者はいなかった。殺される側にとってそれは最強を体現した様に見えただろう。だが、限界はあった。魔力の膨張、爆発はラズリの魔力を枯渇させた。
 そしてラズリは意識を戻す。

 記憶を見る、ラズリ達を戻る。
「これが・・・」
 誰も言葉で表すことが出来なかった。それがあまりにも悲しい結末だったから。誰のせいでもなかった。不運な事故だった。だがそれで解決する程、簡単な問題ではなかったのは明白だった。
 沈黙を破ったのはパーチミだった。
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