最愛の敵

ルテラ

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アデリア戦

35話 幼い王

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 王は残念そうにする。
「戦争に参加することがどう言うことかわかっていますか?」
 レオは静かに言う。仮面越しでわからないがその目には怒りがあった。
「もちろんです。人を救う・・・」
「人を殺すことです」
 王の言葉を遮り言う。
「えっ?」
 王の目に戸惑いが浮かぶ。
「戦争は人を救うためにやるのではなく人を殺すためのものなんです。人なんて誰も救えない。命を無駄にしてはいけない」
「僕は・・・」
 レオはその場を立ち去る。幼い子供にはあまりにも残酷な言葉だった。しかし知らなければならないこれから上に立つ者として。
 しばらくすると兵達はセルシアの民と宴を開いていた。しかしそれには参加せずランプと酒と少しの食料を持ち、たまたま見つけた池のほとりに腰を下ろす。
「(俺はなぜ)」
 酒を飲みながら考える。王の発言を聞いたとき昔のラズリと姿を重ねてしまった。
「オレ殿」
 声のした方に振り返る。そこにはランプを持った王がいた。
「一人で来られたのですか?」
「はい、2人で話しがしたく。よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
 自身の横に招く。
 王は座る。そして沈黙が走る。
「あれからレオ殿の言葉の意味を考えました」
「そうですか・・・」
「僕はほとんど外には出たことがないんです。見つかると殺されていまいますから・・・だから僕の世界は本や人から聞いた話が全てなんです。何も経験したことがなくて何も知らないんです。だから・・・だから言い訳にしかならないけど、戦争なんて軽々しく口にしてしまいました。申し訳ございません」
 再び沈黙が走る。
「俺の方こそ言い過ぎました。あなたとある少女を重ねてしまいました」
 レオはラズリを思い浮かべる。
「少女?」
「普通を受理出来なかった。少女は安全より戦場を望み。ぬいぐるみよりも武器を選んだ。誰もが少女を称えた。強かったからです。でも止めたかった。しかし彼女がいなければ戦争には勝てないてわかっていたから言えなかった。言える頃には遅すぎた。戦争なんて知らなくていいんです。戦争の『せ』の字も知らなくていいです。それが幸せということだから」
 レオは仮面を外し悲しそうに、しかし真っ直ぐ、王を見る。
 王は涙を堪えるように下唇を噛む。
「僕に何が出来ますか?」
「戦争をしない国を作ってください。争いは人間がいる限り起こります。それは仕方のないことです。争うと言うことは自分の意志を考えをちゃんと持っていると言うことですから。ですが戦争はダメです。戦争に『言葉での解決』はありません。どちらかが殲滅されるか降伏するまで終わらない。だからせめて戦争だけはしないでください」
「はい」
 王の目から涙が溢れる。

 王はその場を後にした。
「立ち聞きとはあまりよろしくないですね」
 そう言った後、酒を一口飲む。
 岩影から王の乳母が出てきた。
「申し訳ございません。そしてありがとうございます」
 乳母一礼する。
「感謝される様なことは何も」
 乳母は近くに来たものの立ったまま池を見て話す。
「王は幼い時にご両親を亡くされました」
「それからずっとあなたが?」
 乳母は首を横に振るう。
 「セルシアルの民みんなで宝石の様に」 
 乳母は思い出に浸るように目を細める。
「(宝石ね・・・)」
「それゆへにいつも孤独でした」
「(当然か・・・)」
「王はわかっていました。自分は皆の為に生きなければならないと。私もデイビット様を王と育てる為に生きて来ました。不自由な思いをさせています。初めてのわがままでした。だからせめて叶えられる望みは叶えてやりたかった」
「例えそれが間違っていても?」
 レオは王の戦う姿を思い浮かべる。
「はい。だからあなたには感謝の念が絶えません」
「俺はただ俺が後悔したくなかっただけです。もうわかっているはずです。あの子がもうあなたが思っている以上に大人であると」
 レオは遠くにいるラズリを思い浮かべる、幼く今にでも潰れてしまいそうな後ろ姿。
「ちゃんと見なければ向き合わなければいけません。それに何もできていないことなんてないと思いますよ」
 乳母は首を傾げる。
「あんないい子に育ったんだ乳母であるあなたのおかげでしょう?」
 レオは乳母の顔見て微笑む。
「話さなけば子供は大人を置いてどんどん先に行ってしまう。だから話してみましょう(かつての俺が出来なかった。だから後悔して欲しくない。まぁそれも俺の勝手か)」
 レオは静かにため息を吐く。
 乳母は深くお辞儀をし「感謝します」顔上げ言う。そこには一筋の光が見えた。
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