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2章
23話
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引っ越ししてから約1ヶ月が経った。
知樹のバーで働くミィーファとは生活のリズムが真逆だが、金曜日はラストまで居て一緒に帰るのが習慣になりつつある。
「律さん、大丈夫ですか?今日なんか疲れてませんか?」
......なんでこいつにはすぐバレるんだ...。
「あー、ちょっとな....」
「珍しいな。仕事でトラブルか?」
「いや、トラブってはない。ただ新人がな....」
「ああ、使えないやつだったか?」
新人が使えないのは当たり前だ。まだ研修が終わったばかりの最初の仕事はまず覚えることなのだから。
そんなことで疲れたりはしない。
「...仕事は恐ろしくできるな。新人とは思えん」
「へー。ならよかったじゃない。なにがそんな疲れんの?」
そう。仕事はできるのだ。そこだけ見れば手のかからない奴だと思うだろう。
「.....今の若者ってみんなああなのか?距離感がいまいち掴めん」
「例えば?」
「....昼休憩で通りがかったときに....」
◆
「あ、そういえば進藤課長もタバコ吸ってましたよね?」
コーヒーを片手に自分のデスクに戻る際、笹川に声をかけられた。
「ん?ああ。それがどうかしたか?」
「いやー、今カッコいいと思う仕草の話してたんですけど、小守くんがタバコ吸ってる時って言ってたんでそれなら進藤課長じゃないかなって」
なんつー話してんだ...。
ちらりと新人の小守を見るが嫌々話しているわけでもなさそうだ。
「えっ!課長吸ってたんですか!?どうして止めちゃったんですか!もったいない!」
「うわっ」
手をがしっと掴まれてさすがに驚いた。
危なっ、コーヒー零れる!
「別にもったいなくはないだろ....」
むしろ吸ってる方が体に害だし金もかかる。
「もったいないですよ!この手!この手で吸ってたら絶対かっこいいのに....!」
いや、別にかっこいいと思ってもらいたくて吸ってたわけじゃねーしな....。
ってかこいつ近くねえか?
「あのっ、俺タバコ持ってるんで吸うマネだけでもしてもらえませんか?」
「はぁ?」
なんで俺がそんなこと。こっちはまだ我慢してるっつーのに...。
「他あたってくれ」
「まあまあ、そのくらいいいじゃないですかぁ」
手を振り払って離れようとしたのに笹川に助け舟を出されてしまい戻りずらくなってしまった。
仕方なくタバコを受け取り以前やっていたように咥える。
カシャ
「は?お前なに撮ってんだよ」
咥えた瞬間にカメラのシャッター音が聞こえ耳を疑った。
「はっ!すいません!かっこよすぎて無意識に...!」
「......消しとけよ」
「えっ!待ち受けにしようかと....」
「はぁ!?駄目に決まってんだろ」
こいつはバカなのか?
「そんな!こんなにかっこいいと思ったの初めてなんです!」
「知るか」
「うーん、さすがに待ち受けはちょっとねえ...?でも消さなくてもいいんじゃないんですか?」
「消しとけよ」
◆
「....ってことがあって....。結局消してもらえねーしそれからやたら視線感じるし距離は近いしで疲れた」
「うわぁ....。それはきついな」
「だろぉ?」
ミィーファは無言でこちらに来たかと思ったら小守に掴まれた方の手をにぎにぎと仏頂面で触ってきた。
「なに。妬いてんの?」
「当たり前です」
「.....なぁ、連れて帰っていいか?」
知樹に向かって声を投げるが、ばかやろうと怒られた。
「いいわけないだろ。ほら、ミィーファちゃんも仕事してください」
「すみませんっ」
離れていった手を名残惜しく感じながら酒を呷ると、カランカランと来客を知らせる音が響いた。
「いらっしゃい。はじめましてかな?」
「あ、はい!俺最近こっちに引っ越してきて...」
知樹が接客しているのをぼんやりと耳だけ傾けていたら聞き覚えのある声がして思わず顔を向けそうになった。
いやいや、まだあいつって決まったわけじゃ———
「あれっ?進藤課長じゃないですか?」
そう思ったものの、秒で否定されてしまう。
ってか顔見えないのになんでわかるんだよ....。
「あー....、小守か....。お前、ここどういうとこか知ってんのか?」
「もちろん!俺ゲイなんで。課長もここにいるってことはそうなんですよね?」
こいつはまたさらっと....。普通慌てるだろ、こんなとこで上司と会ったら。
「まぁ、そうだな...。つーかここで課長はやめろ」
「え、名前で呼んでいいんですか?」
「んなわけねぇだろ。苗字で呼べ。苗字で」
「ちぇっ。進藤さんも家近いんですか?」
「別に。知り合いの店だからよく来るだけだ」
さりげなく隣に座り直し、ぐいぐい喋りかけてくる。
なんとなく家が近いことを知られたくなくて適当に濁した。
「へぇ、律の部下なんだ」
目で『例の新人?』と聞いているのがわかる。そのため軽く頷いた。
「お2人はどんなご関係なんですか?もしかして恋人とか....?」
「まさか!ただの幼馴染だよ。こんな可愛げのないやつはごめんだね」
それはこっちの台詞でもある。
だけどこのまま2人で話してくれればいいなと口は挟まなかった。
———のに。
「えー、俺可愛げなくてもいいですよ。進藤さんってタチですか?」
.....だから、上司に聞くか?そういうこと。
「だったら?」
「だったら嬉しいです。もし今日相手居ないなら俺とかどうですか?」
この発言にはさすがにため息が漏れた。
いいかげんにしろ、そう言ってやろうと口を開いた時——
「ん...?」
目の前に手が伸びてきたと思ったら顔を小守と反対側に向かされ、そこに立っていたミィーファと目が合った。
そしてゆっくり顔が近づき唇が重ねられる。
残念ながらすぐに離れていき、俺越しに小守をキッと睨んだ。
「私のなので、勝手に口説かないでいただけますか」
「へ....?」
やば。顔がにやける。
「わっ、律さん...?」
腰に腕を回して抱き寄せた。
もうこの子可愛すぎません?
「なー....、やっぱ連れて帰っていいか?」
ぎゅっと抱きつきながら知樹に声を投げた。
「気持ちはわかるけど諦めろ」
「あのー....、そちらの美人さんは...?」
呆気にとられていた小守はようやく覚醒したようだ。
「聞いてなかった?俺の恋人」
ミィーファを抱きしめたまま言ったので小守の表情はわからない。
「だから誘うなら他のやつにしろ」
「......恋人いたんすね。紹介してくれないんですか?」
「しない。よろしくしてほしくないから」
ぶはっ、と知樹が噴き出すのが聞こえた。
ミィーファもくすくすと笑って俺の頭を撫でている。
ガキっぽいことを言った自覚はあるがそんな笑わなくても。
知樹のバーで働くミィーファとは生活のリズムが真逆だが、金曜日はラストまで居て一緒に帰るのが習慣になりつつある。
「律さん、大丈夫ですか?今日なんか疲れてませんか?」
......なんでこいつにはすぐバレるんだ...。
「あー、ちょっとな....」
「珍しいな。仕事でトラブルか?」
「いや、トラブってはない。ただ新人がな....」
「ああ、使えないやつだったか?」
新人が使えないのは当たり前だ。まだ研修が終わったばかりの最初の仕事はまず覚えることなのだから。
そんなことで疲れたりはしない。
「...仕事は恐ろしくできるな。新人とは思えん」
「へー。ならよかったじゃない。なにがそんな疲れんの?」
そう。仕事はできるのだ。そこだけ見れば手のかからない奴だと思うだろう。
「.....今の若者ってみんなああなのか?距離感がいまいち掴めん」
「例えば?」
「....昼休憩で通りがかったときに....」
◆
「あ、そういえば進藤課長もタバコ吸ってましたよね?」
コーヒーを片手に自分のデスクに戻る際、笹川に声をかけられた。
「ん?ああ。それがどうかしたか?」
「いやー、今カッコいいと思う仕草の話してたんですけど、小守くんがタバコ吸ってる時って言ってたんでそれなら進藤課長じゃないかなって」
なんつー話してんだ...。
ちらりと新人の小守を見るが嫌々話しているわけでもなさそうだ。
「えっ!課長吸ってたんですか!?どうして止めちゃったんですか!もったいない!」
「うわっ」
手をがしっと掴まれてさすがに驚いた。
危なっ、コーヒー零れる!
「別にもったいなくはないだろ....」
むしろ吸ってる方が体に害だし金もかかる。
「もったいないですよ!この手!この手で吸ってたら絶対かっこいいのに....!」
いや、別にかっこいいと思ってもらいたくて吸ってたわけじゃねーしな....。
ってかこいつ近くねえか?
「あのっ、俺タバコ持ってるんで吸うマネだけでもしてもらえませんか?」
「はぁ?」
なんで俺がそんなこと。こっちはまだ我慢してるっつーのに...。
「他あたってくれ」
「まあまあ、そのくらいいいじゃないですかぁ」
手を振り払って離れようとしたのに笹川に助け舟を出されてしまい戻りずらくなってしまった。
仕方なくタバコを受け取り以前やっていたように咥える。
カシャ
「は?お前なに撮ってんだよ」
咥えた瞬間にカメラのシャッター音が聞こえ耳を疑った。
「はっ!すいません!かっこよすぎて無意識に...!」
「......消しとけよ」
「えっ!待ち受けにしようかと....」
「はぁ!?駄目に決まってんだろ」
こいつはバカなのか?
「そんな!こんなにかっこいいと思ったの初めてなんです!」
「知るか」
「うーん、さすがに待ち受けはちょっとねえ...?でも消さなくてもいいんじゃないんですか?」
「消しとけよ」
◆
「....ってことがあって....。結局消してもらえねーしそれからやたら視線感じるし距離は近いしで疲れた」
「うわぁ....。それはきついな」
「だろぉ?」
ミィーファは無言でこちらに来たかと思ったら小守に掴まれた方の手をにぎにぎと仏頂面で触ってきた。
「なに。妬いてんの?」
「当たり前です」
「.....なぁ、連れて帰っていいか?」
知樹に向かって声を投げるが、ばかやろうと怒られた。
「いいわけないだろ。ほら、ミィーファちゃんも仕事してください」
「すみませんっ」
離れていった手を名残惜しく感じながら酒を呷ると、カランカランと来客を知らせる音が響いた。
「いらっしゃい。はじめましてかな?」
「あ、はい!俺最近こっちに引っ越してきて...」
知樹が接客しているのをぼんやりと耳だけ傾けていたら聞き覚えのある声がして思わず顔を向けそうになった。
いやいや、まだあいつって決まったわけじゃ———
「あれっ?進藤課長じゃないですか?」
そう思ったものの、秒で否定されてしまう。
ってか顔見えないのになんでわかるんだよ....。
「あー....、小守か....。お前、ここどういうとこか知ってんのか?」
「もちろん!俺ゲイなんで。課長もここにいるってことはそうなんですよね?」
こいつはまたさらっと....。普通慌てるだろ、こんなとこで上司と会ったら。
「まぁ、そうだな...。つーかここで課長はやめろ」
「え、名前で呼んでいいんですか?」
「んなわけねぇだろ。苗字で呼べ。苗字で」
「ちぇっ。進藤さんも家近いんですか?」
「別に。知り合いの店だからよく来るだけだ」
さりげなく隣に座り直し、ぐいぐい喋りかけてくる。
なんとなく家が近いことを知られたくなくて適当に濁した。
「へぇ、律の部下なんだ」
目で『例の新人?』と聞いているのがわかる。そのため軽く頷いた。
「お2人はどんなご関係なんですか?もしかして恋人とか....?」
「まさか!ただの幼馴染だよ。こんな可愛げのないやつはごめんだね」
それはこっちの台詞でもある。
だけどこのまま2人で話してくれればいいなと口は挟まなかった。
———のに。
「えー、俺可愛げなくてもいいですよ。進藤さんってタチですか?」
.....だから、上司に聞くか?そういうこと。
「だったら?」
「だったら嬉しいです。もし今日相手居ないなら俺とかどうですか?」
この発言にはさすがにため息が漏れた。
いいかげんにしろ、そう言ってやろうと口を開いた時——
「ん...?」
目の前に手が伸びてきたと思ったら顔を小守と反対側に向かされ、そこに立っていたミィーファと目が合った。
そしてゆっくり顔が近づき唇が重ねられる。
残念ながらすぐに離れていき、俺越しに小守をキッと睨んだ。
「私のなので、勝手に口説かないでいただけますか」
「へ....?」
やば。顔がにやける。
「わっ、律さん...?」
腰に腕を回して抱き寄せた。
もうこの子可愛すぎません?
「なー....、やっぱ連れて帰っていいか?」
ぎゅっと抱きつきながら知樹に声を投げた。
「気持ちはわかるけど諦めろ」
「あのー....、そちらの美人さんは...?」
呆気にとられていた小守はようやく覚醒したようだ。
「聞いてなかった?俺の恋人」
ミィーファを抱きしめたまま言ったので小守の表情はわからない。
「だから誘うなら他のやつにしろ」
「......恋人いたんすね。紹介してくれないんですか?」
「しない。よろしくしてほしくないから」
ぶはっ、と知樹が噴き出すのが聞こえた。
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