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第四章

【閑話】 甘い時間

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事後のイチャイチャタイムです笑
直接の絡みは……ございま……せん!

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 ゆらゆらと波間を漂うような心地よい浮遊感の中、急激に意識が引き戻されてゆっくりと目を開けると、そこには心底私を愛おしそうに見つめて微笑む渉の顔があった。

 愛おしそうに細められた渉の視線とかち合うと、ドキリと心臓が跳ね上がる。


「おはよ。身体、大丈夫?」


 ちゅっと唇にキスを落とすと、甘く優しい声で囁き、そして私の髪を梳くように頭を何度も何度も撫でる。

 渉の胸に頬を擦り寄せ目を瞑る。
 渉の少し低くて掠れた声が、渉が愛おしそうに私を撫でる手が心地良い。

 その心地良さに恍と身を任せていると、ふと、今自分の置かれた状況…自分が裸だと言う事を思い出して、途端に羞恥でボンと赤面する。
 ハッとして飛び起きようと身体を捩ると、足の付け根の辺りがズクリと引き攣るように痛んだ。


「いっ……!!!」


 痛みでビクリとすると、今度は身体中の関節がミシミシと音を立てて悲鳴を上げた。あまりの痛さに涙目になり顔を顰めると、渉は眉尻を下げて項垂れながら私の顔を覗き込み、申し訳なさそうに言う。


「痛いよな…ごめん。」


 渉の頭にしょぼんと垂れた犬の耳が見えたのは気の所為だろうか。
 とりあえず、安心させるためににこりと笑顔を向ける。


「だ、大丈夫。ちょっとビックリしただけ……」


 急に動くのは危険だと悟った私は、ふぅと息を吐き痛みをやり過ごすと、ちょっとずつ動く事にしてすぐに起き上がる事は断念した。
 ちらりと隣の渉を見上げると、心配そうな顔から一転、へにゃりと笑み崩れる。


「香乃果が可愛過ぎて加減出来なかった……ごめんね?許して?」


 口調だけは申し訳なさそうな口調だが裏腹に顔は心底嬉しそうな渉に、ちょっとだけムッとした私は涙目のまま渉をキッと睨めつける。
 すると、渉は「まいったな……」と零すと、更にドロドロに笑み崩れた。

 そして、そのまま勢いよく顔中にキスの雨を降らせていく。


「んっ……わ、わ、渉……?」

「はぁ、かわい……俺の香乃果、めちゃくちゃ可愛い……」


 全く反省していないであろう渉は、せっせとキスを落としながら体勢を変えると、背を撫でながらするりと私を腕の中に抱き込んだ。


「へっ?!は?!ちょっ、やめ……っ!」


 それが擽ったくて身を捩ろうとするが、力が入らない上に渉に抱き込まれていて全く動く事が出来ない。


「香乃果、愛してるよ。」


 渉はそう言うと蕩けそうな顔で私を見つめ、腰をするりと撫でた。
 快感を覚えたての身体は少しの刺激にも反応し、無意識にピクリと身体が跳ねる。


「んっ……」


 吃驚するくらい甘ったるい声が出て、恥ずかしさに震えると、ふと、そこで、先程頭の片隅に追いやられていた事を思い出す。


 ぎゃー!わ、私、今、裸!!!


 慌てて何か被るものを探すと、視界の端に足元の方へ追いやられているのを発見する。……というか、手近にあるものはそれしか見当たらなかった。

 それならば、とジタバタと暴れながら足元の方にあるリネンに一生懸命手を伸ばしていると、その様子を目尻を下げてにこにこと見ていた渉がポツリと呟いた。


「んー?このは一体何してんのかな?」

「へ?えっ…と……ちょっと…寒いから、お布団、取りたいなって……?」


 裸が恥ずかしくて隠したいんだよ!!

 ……とは言えず……取り繕うようにそれらしい言い訳をすると、私は再び足元のリネンに手を伸ばした。

 うーん、あと少し……


「ふぅん。寒いの?さっきまでいっぱい汗かくくらい激しい運動してたのに?」


 もう少しでリネンに手が届きそうというところで、真っ赤になって腕を伸ばしてふるふると震える私を見て、渉は笑いながらそう言うと、長い腕を伸ばして足元のリネンを引っ張り上げて胸の辺りまで掛けてくれた。


「は、激し……いって……」

「だって、そうでしょ?あ、激しく動いてたのは俺か。このは俺に揺さぶられてただけだもんね。そりゃ寒いよね?」


 絶句している私を見て、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべてそう言う渉の言葉の意味を理解すると、途端に顔がカッと熱くなる。


「な、何言って……あれだけ揺さぶられてたらさすがに私だって……!」


 気まずくてふいと渉から視線を逸らしつつ反論するが、そこまで言ってハッとする。

 嘘ついてたのバレるじゃん!

 今更気付いた所で既に後の祭り…気まず気におずおずと渉に視線を戻すと、そこにはニヤニヤ顔の渉。


「あれれ?違ったの?」

「ゔっ……」

「ほんとは寒くなんてないんでしょ?」

「だ、だって……今、服、着てないし……恥ずかしい……」


 見透かすように言われて観念した私がポツリと本音を漏らすと、渉は呆れたような顔をする。


「はぁ、今更?ていうか、もう全部見たし、なんならもっと凄いことしたのに?」

「なっ…もう!バカっ!知らないっ!」


 クスクスとおかしそうに笑いながら言う渉を上目遣いで睨めつけると、私は手に取ったリネンを慌てて鼻の下の位置まで引き上げた。


「ごめんごめん。って、あー、もうほんと、このは可愛いなぁ。堪んないわ。」


 渉は額に手を当てて蕩けてしまいそうな笑みを浮かべると、そう言ったと同時に、リネンに指を引っ掛けて顎の下までグイッと下げた。

 真っ赤な顔が顕になり恥ずかしさに目を逸らすと、渉はクスリと笑った。


「ねぇ、この?好きだよ。そういうところも、ほんと、めっちゃ好き。」


 コツンと額を合わせて渉はふわりと優しく微笑み、私の頬をするりと撫でる。


「そ、そんな甘い言葉には……ほ、絆され、ない…もん。」


 勢いよく言い切ろうと息巻いたのは最初だけ。
 甘く蕩けそうな笑顔で私をじっと見つめる渉の視線に居た堪れなくなり、最後は声が小さくなる。


「……そこは絆されてよ?ね?……好き。すっげぇ、好き。」


 蕩ける笑みを浮かべて幸せそうに言う渉を見ていると、なんだか私も幸せな気持ちになり、つられて私まで笑顔になる。


「なぁ、このは?好き?」


 返事がないことに少し拗ねたように渉が言う。
 私は返事の代わりに渉の頬にちゅっとキスを落とし、そしてぎゅっと抱きしめた。


「この……そんな可愛い事したら…抱くよ?ただでさえ、我慢してるのに。」


 渉は困った様に眉尻を下げつつ冗談っぽくそう言うと、熱っぽい瞳で私を見つめながら甘く気怠げな溜息を吐いた。
 私を見つめる瞳には未だに燻ったままの情欲の色が見え隠れしていて、ゾクリと背筋が粟立ちお腹の奥の奥がキュンとしてしまい、思わず太ももを擦り合わせると、渉は当然それを見逃すはずもなく、くすりと笑うと足の間にするりと手を差し込んでくる。

 そして、情欲がたっぷり篭もった瞳で私を見つめると、熱い吐息と共にそう耳元で囁いた。



「ねぇ……もう一回、する?ってか、しよ?」


 

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