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第四章

第91話 一緒にいたい

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「っ……はぁ、はぁ……このっ……大丈夫?」


 渉は2回戦目の絶頂感を迎えて奥に白濁を吐き出すと、肩で荒い息をしている私の額にキスを落とし、繋がったまま私を抱き込むように横に倒れこんだ。


「はぁ…最高。マジで気持ち良すぎて…ヤバい。」


 渉は蕩けてしまいそうな顔で笑うと、顔中にちゅっちゅっとキスを降らせてくる。そして首筋まで唇を滑らせていき、胸の辺りを軽く吸い上げた。


「もう…ちょっと、渉ったら……ふふふ、擽ったいよ。」


 甘い雰囲気の中、幸せを噛み締めながら、私からも渉の頬にキスを贈ると、渉は一瞬目を見開き固まった。
 そして、すぐに心底幸せそうに破顔すると、そのままくしゃくしゃっと顔を歪めて泣き笑いの様な顔をして、私をぎゅっと抱きしめた。


「あぁ…離れたくない……このままずっとくっついてたい……」

「うん、私も。」


 私の首筋に顔を埋めて呟く渉の髪を撫でながら、私もそう言った。
 渉は私の首筋に顔を埋めたまま苦しげに呻くと、私の頬を両手で挟むように包み込み、唇にそっと触れるだけのキスをして、じっと私を見つめた。


「もうね、香乃果が足りないんだ。全然足りない……足りな過ぎる。出来ることなら、このままずっと一緒にいれたらって思ってる。明後日帰国するギリギリまで、抱き合っていたい。だけど、これからの事も話さなきゃだし…どうしたって…全然時間が足りないんだ。」


 渉は眉根を寄せてそう言うと、額に、頬に、そして、唇にキスを落としていく。


「もっと……もっと沢山愛し合いたい…離れていた分、沢山話をして、沢山キスして抱き合って…今までの空白を少しでも埋めたい。」


 渉はそう言うと、辛そうな表情で私を見つめると悩まし気な吐息を吐き、再び首筋に顔を埋めて震える腕で私を抱きしめた。

 その腕が愛おしくて胸がぎゅっとなって、思いが言葉として溢れた。


「うん、私も渉が足りないって、そう思ってるよ。私も、もっともっと渉と一緒にいたい。」


 渉は私の言葉にパッと顔を上げ驚愕の目で私を見た。
 私は渉の頬に手を添え、ふわりと笑みを浮かべて渉を見つめると、渉は眉根を寄せて困ったように笑った。

 そして、どちらからともなく唇を重ねると、お互いを求めて何度も角度を変え啄むようにキスを贈り合う。

 渉が好き……

 キスをする度に触れ合った唇から熱が伝わるように気持ちが伝わってくる。

 言葉なんて要らなかった。

 キスをすると伝わる渉の気持ちが嬉しくて、もっともっと渉の気持ちが欲しくて、私から渉の唇を求め、そして私も渉への気持ちをキスに乗せて伝えた。


 気持ちいい……

 キスをする度にお互いの境界線が溶け合ってひとつになっていくような感覚を覚えた。
 私と渉は夢中でお互いの唇と熱を貪り合い、気持ちを伝えあった。


 唇を合わせて、吸って、舐めて、齧って。
 舌を絡めて、唾液を混ぜ合わせる。
 そして、その蜜のように甘い唾液をこくりと飲み下す。

 どのくらいそうしていたのかわからないくらい、長い時間、お互いの唇を求めキスを贈り合っていたが、暫くすると渉は名残惜しそうに軽く唇を吸いながらゆっくりと唇を離した。
 それが何となく淋しくて、一度だけ渉の唇を追いかけて私も唇をちゅぅっと吸い上げた。

 そんな私を渉は嬉しそうに目を細めて見つめると、そのまま私を胸に抱き込み、旋毛にキスを落とした。

 そして、甘く悩ましげな吐息を吐くと共に、渉はポツリと言葉を零す。


「なぁ、香乃果……少し話、いい?」

「うん…いいよ。」


 渉は私の髪を弄びながら少し考える素振りをして、そして、言葉を選びながらゆっくりと話し始めた。


「俺達さ、中学生ん時に正式に許嫁になったじゃん?それって、子供ガキん頃に俺が言ったのがきっかけだったよな?」

「そうだけど…どうしたの?急に。」

「いやさ…俺さ、香乃果に対してあれだけ嫌な態度とってたじゃん?」


 先程までの甘い空気から一転した渉の言葉に、吃驚して瞠目して顔を上げると、渉は困ったように笑った。


「あ、うん……そう、だね。」


 なんとなく答えづらくて視線を泳がせていると、私の表情から察した渉は額に手を当てて深く溜息を吐いた。


「はぁぁ……やっぱり?香乃果もそう感じてた?」

「まぁ、そりゃぁ…あれだけつんつんされたらだれでもそう思うと思うよ。」


 視線を外したままちょっと不貞腐れたようにそう言うと、渉は苦笑いを零して私の頭に手を添えて胸の方へ引き寄せた。


「あー…そうだよね。ごめんな。」


 渉はバツが悪そうにそう言うと、申し訳なさそうに私の頭をぽんぽんと撫で始めた。


「ちょっと?私子供じゃないんだけど?」


 じろりと睨めつけて言うと、渉は苦笑しつつ今度は髪を梳くように頭を撫で始めた。


「ははは、そうだね。これならいいでしょ?可愛い可愛い俺の香乃果さん。」

「んもぅ……何よ、それ。」


 優しい顔でおどけたように言う渉に私も苦笑すると、暫し撫でる手の心地良さに目を瞑って身を任せる。
 ゆっくりと優しく渉の手に撫でられている間に、先程の不貞腐れた気持ちはすっかりトロトロに蕩けてしまった。

 もうこのまま揺蕩っていたいなぁ……

 そんな気持ちになって、うつらうつらとしていると、私を撫でる渉の手がゆっくりと離れていった。

 なんだろうと薄らと目を開けると、空を見つめてぼぅっと何かを考えている渉。
 何か考え事でもしているのかと思ったら、そういえば、と思い当たったので、私は渉にそっと声を掛けた。


「渉さん、とっても気持ちがいいので、私はもうこのまま寝てしまいそうなんだけど。」


 渉は私の声掛けにハッとすると、ゆっくりと私に視線を戻して微笑んだ。


「無理させたからな…もう寝る?」


 優しい口調でそう言うと、渉はリネンを私の肩に掛け、再び頭を撫でた。


「ううん、眠いけどまだ大丈夫だよ。ていうか、話はもういいの?」


 私がふるふると頭を振ってそう言うと、渉は少し考える素振りをした後、にっこりと笑うとリネンに潜り込んできた。


「眠そうだし、無理しなくても大丈夫。一眠りしたら話をしようね。」


 ほら、もっとこっちにおいで、そう言って渉は私を抱き込むと、背中をぽんぽんし始めた。
 渉の心音と背中を撫でる心地良いリズム、そして高めの体温にだんだんと眠気が訪れる。

 気持ちがふわふわとしてきて気持ちが良い。


「ふふっ…あれ?香乃果、もう寝ちゃったの?」


 薄れゆく意識の波間で渉の声が聞こえた気がしたけれど、返事をすることは出来なかった。


「おやすみ俺の香乃果。いい夢を。愛してるよ。」


 そう言って私の額に渉がキスを落とした時には、私はすっかり夢の国の住人になっていた。
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