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第三章
第65話 メールチェック後に……
しおりを挟む椅子に座ると徐にPCの電源ボタンを押す。
すると、すぐに画面が立ち上がりメーラーの画面が表示された。
やはりスリープのままだったようだ。
何もせずすぐにシャットダウンしても良かったのだが、どうせ画面が表示されたのなら、ついでにメールをチェックしてしまおうと、受信メールのメインフォルダを開くと、すぐさまメーラーはメールを受信し始める。
ネットショップからの販促メールや万が一の為に購読している受験対策のメルマガ、カナダへ渡航する為の情報関連や、旅行代理店の航空券のSALE情報等……
様々な情報メールがあっという間に受信フォルダに入り、昨日開いたばかりなのに、気が付くと未読メールが50件程溜まっていた。
僅か半日でこの数……
俺は若干ゲンナリしながら、ひとつひとつ内容の精査を始めた。
基本的にショップからの販促メールは題名チェックで殆ど読まずにゴミ箱へとドラッグしてポイだが、それ以外のメールは既読後に必要なメールのみ、保存の為各フォルダに振り分けていく。
最初から決められたルールで、各フォルダに仕分けされるようにすればいいのはわかっているのだが、そうすると俺の性格上、絶対に読まないで放置してしまうのは目に見えてるので、やらないのだ。
ひとつ、またひとつとメールを開いては該当フォルダへドラッグ……
漸く50件の未読メール柄の仕分けが終わった頃には、既にお昼を回っていた。
……と言っても、販促メールが大半で実際に開いたメールは10件も無かったのだが。
そしてその残った精鋭メール達の中には、香乃果からの返信はなかった。
17時間の時差を考慮したとして、現在時刻日本時間12時だと、バンクーバーの時刻は午後19時。
まだまだ活動時間真っ最中な訳で……
こんな日中の忙しい時間にメールなんて見てる暇なんてないだろうし、まぁ、当たり前っちゃ当たり前なのだが。
そう考えれば、今メールチェックした所で、香乃果からの返信がきている訳はないのだ。
俺は、まぁそうだよなぁ…とため息を零すと、今度こそシャットダウンをしてPCを閉じる。
香乃果へメールを送り始めてもうすぐ2年経つが、何度もメールを送っているのに一度も返信がない。
正直、読んでくれているかもわからないこの状況で、今回も当然香乃果からの返信メールは期待出来ない事くらい、わかりきっている。というか、正直、もう半分メールの返信は諦めているという方が正しいかもしれない。
それだけの事を俺はしてしまっているのだから。
だけど……
わかってはいるけれど、やっぱり心の奥底では『もしかして……』と期待してメールチェックをしている自分がいる事も事実。
さて、どうしたものか。
クリックする手を止めて暫し考えてみる。
だけど、この件は相手ありきの問題で自分ひとりの事ではないし、考えたって答えは出てくる訳でもない。
であれば、『待つ』
それしか俺に出来る事はない。
俺は短く嘆息すると、早々に諦めてリビングへ遅めの朝食兼昼食を取りに行く事にした。
階段を降りキッチンとリビングに繋がる扉を開けると、既に食事を摂り終わって台所へ食器を下げにきた兄と鉢合わせる。
「おそよう。渉の部屋から結構早くからアラームが聞こえてた気がするんだけど……随分とお寝坊さんだな。せっかく用意した朝食が無駄になったって母さん嘆いてたぞ?
まぁ、今日の朝食はシリアルとサラダだったから被害は少ないけどな。」
笑いながらそう軽口を叩いた兄を横目に、俺はダイニングテーブルに掛けながら、今朝の事件を濁しながら応酬する。
「おはよ。アラームは鳴ってたしその後すぐに起きたけど……」
「けど?」
兄は俺の濁した言葉の先を促すようにそう言うと、シンクに食器を置き、軽く水で濯いだ後、すぐさま泡立てたスポンジで食器を洗い始めた。
母親は食べ終わった後の食器は下げて置きさえすればいいと言っているので、俺は食べ終わったら下げるだけなのに、兄は忙しい朝を除いた毎日の夕食後と休みの日は自分で洗っている。
なんて言うか、律儀というか、キッチリしているというか……
そういうところから俺とは違っていて、ひょっとすると、今回の許嫁から何から…あの姉妹の相手が俺ではなく兄であれば、もっとスムーズに話は進んだのかもしれないな、と思った。
いつもならば、穂乃果からのヒステリー電話の事など俺の中で押し留めているはずなのだが、そんな事がふと頭を過ぎったので、ついポロリと口から零れてしまう。
「例の……穂乃果のアレがでちゃってさ。」
しまった、と思った時にはもう遅く……
既に俺の言葉は兄の耳に届いていたようで、兄は皿を洗っていた手を止め、眉間に谷間が出来るくらい深い皺を寄せて俺をじっと見据えると、深く溜息を吐いた。
「はぁ?何、お前まだアレの相手してるの?」
あの話し合いの日、同席していた兄は、俺の部屋で起こった事をを聞くと穂乃果に対して激昂し、当然、全てにおいての俺の非を否定した。
それどころか、
「渉は悪くない。知っていたのに…… 穂乃果を止められたのは俺だけだったのに……家族の和が大事だとか何とか言って、傍観していた俺が一番悪い。」
そう言って涙を流して謝ってくれ、出来るだけフォローをするから後の事は任せろと言って、カウンセリングの手配なども率先してやってくれたのだが、そう言った経緯があり、兄は俺が穂乃果のフォローをする事をあまりよく思っていなくてのこの反応である。
「うん、まぁ……俺が悪いから…さ。」
「いや、お前悪くないだろ?…ていうか、この話、ここで話す内容じゃないな。部屋で話そうか。」
若干の居心地の悪さを感じつつ答えると、ただでさえ深かった眉間の皺を更に深くして、兄は呆れたような口調でそう言った後、ソファでくつろいでるテレビを見ている母親に声を掛けた。
「母さん、ごめんけど渉と話したい事あるから、渉の分のメシ持ってくわ。」
母親にそう告げると、今度はくるりと俺の方へ顔を向けた。
「…渉は冷蔵庫から朝食分のサラダとドレッシング、それから麦茶を出して、コップ2つ持って先に俺の部屋行ってて。」
兄は今日の昼食である『温玉載せ鳥の照り焼き丼と野菜たっぷり味噌汁』をテキパキと準備しながら有無を言わさない口調でそう言った。
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