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第三章
【閑話】片想い?-前編-
しおりを挟む紗和さんに縋りついて泣くだけ泣いて、少し落ち着いたところで自分の醜態を思い出しハッとすると、目の前の紗和さんのバスローブが涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていることに気が付いた。
ヤバい…泣き過ぎた……
は、恥ずかし過ぎて顔あげられない……
居た堪れななくて暫くどうするか考えていると、遠くで聞きなれない着信音が鳴った。
それはどうやら紗和さんのスマホだったようで、着信が鳴ると同時に紗和さんは弾かれたように立ち上がると、バッグの方へ駆け寄りスマホを取り出した。
「スマホ……って、あ、時間!俺のカバン……」
そこで俺は時間の事を思い出して、カバンを探して辺りを見回す。すると、紗和さんは誰かと話しながら浴室の方へ歩いて行くついでに、窓際のテーブルの方にある俺のリュックを指差して場所を教えてくれた。
俺はのそりとベッドからでると、とりあえずソファにあるバスローブを羽織って窓際に行き、リュックの中からスマホを取り出した。
スマホの画面を見ると時間は21時を過ぎた所。
時間の感覚はなかったが、そんなにまだ遅い時間ではなくてホッとするのも束の間……部活をサボった事や今日の合コンの話をしていない親や兄から、履歴が埋まる程の鬼着と夥しい数のメッセージが着ている事に気が付き若干の恐怖を覚える。
これ、確実に怒ってるよなぁ。
さて、どうしようと思って暫く画面を眺めていると、ちょうど兄から着信が入り、吃驚して咄嗟に通話ボタンを押してしまった。
「ちょ!!!渉やっと連絡取れたぁ……ていうかお前今どこだよ?!全く連絡着かなくて……」
いきなりの怒鳴り声に耳がキーンとして、思わずスマホを耳から遠ざけた。
部屋が静かなので余計に声が響いて、ハンズフリーにしなくてもこれなら普通に会話が出来そうだなと、舐めた事を思いながら兄に返答する。
「あー、ごめん……なんか友達と遊んでたら具合悪くなっちゃってさ。今休んでるところ。」
「具合悪いって……お前、なんかあったのか?ていうか、どこで休んでるんだ?」
「んーと、友達のところ…かな?ゲロっちゃって、服とかクリーニング出したりとかしてバタバタしてて。連絡出来なくてごめん。」
「そうか……無事ならいいんだ、無事なら。それで、お前この後帰ってくるのか?」
「あー…あ、どうしようかなぁ……帰りたいのはやまやまなんだけど……少し考えてから連絡するわ。」
「あ、ちょっ、渉!?」
そう言い切って強引に終話すると、ソファに沈み込む。
正直、まだアルコールが完全に抜けきっていなかったのか、少しクラクラしていたので、この状態で果たして帰れるのか若干不安だったりする。
さて、どうしよう……とうんうん唸っていると、通話を終えて着替えを済ませた紗和さんが戻ってきて隣に座ると、徐にミネラルウォーターのペットボトルを差し出してきた。
「ごめんごめん、猫実くんからの電話だった。渉くんの事心配してたよ?…って渉くんどうしたの?そんな難しい顔して。」
俺は紗和さんからペットボトルを受け取ると、蓋を開けてゴクリと飲む。
「あ、いや。家族から電話があって。帰ろうと思ってたんですけど……なんて言うか、まだ酒抜けてないみたいで……」
「あー…それは無理に帰らない方がいいね。私はもう成人してるけど、君はまだ未成年だし。何かあったら君の将来に響くよ?そうならないようにここに連れて来たんだから。まぁ、アルコールの件もあるし、朝までいたらいいよ。」
紗和さんはそう言ってタバコに火を着けると、これも成人したらね、と言って笑った。
それよりも……こんな豪華な部屋に朝までって……
「いや、そこまで迷惑かける訳には……そうだ!部屋代なんですが…俺、支払いできる程持ってなくて……必ずお返しするので、分割でとかでも大丈夫ですか?」
「んー、気にしないで?勝手に連れてきたのはこちらなんだからそんなの取るつもりないし。」
いやいや、ダメだろ……
ここは俺が、と言いたいところだが、悲しいかな、バイトもしていない高校生の俺が払える金額なんてたかが知れていて……
明らかにこんなグレードの高そうな部屋の宿泊費なんて払えないのだが、分割でもなんでも絶対返すと一歩も引かない俺に、紗和さんは苦笑いを浮かべて言った。
「君は律儀だねぇ。そんなの大人に甘えておけばいいのに。それじゃあ、これは話を聞いてくれた御礼って事で。言っとくけどこれは譲らないよ?」
「えぇ…御礼って……話聞いて貰ったのは俺もなので、お互い様でお相子でチャラですよ。それに、こんな豪華な部屋、御礼のレベル超えてますよ……」
「あはは、豪華な部屋ね。それは身内だからだね。従業員が勝手にやった事なんだから、余計に部屋代なんて貰えないよ。まぁ、タダなんだから気にしない気にしない!これ以上の問答は無用だね。とにかく私はお金を受け取らない。This is a matter of decision!Did you understand?」
「いや……気にしますよ。だけど、紗和さんも譲る気がないって事ですよね?…それなら、今回はご好意に甘えさせて貰います。それはそれとして、この状況……家族になんて言ったらいいのか……」
あんな勢い良く、これは決定事項だ!って流暢な英語で、しかもドヤ顔で言われてしまってはもう諦めるしかないので、諦めて受け入れた。
しかし、家族への説明ができなくて短く嘆息すると、紗和さんは何かを思いついたような顔をした。
「あぁ、そうね……良かったら私から事情を話すよ。こう言う時は私みたいな第三者から話した方が、波風立たない場合があるから。」
そう言うと、紗和さんは俺の手からスマホをもぎ取ると、早速履歴から兄に電話を掛け始めた。
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This is a matter of decision!
→これは決定事項だよ。
Did you understand?
→わかった?
紗和さん、強い( ◜ᴗ◝)و
応援ありがとうございます!
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