【R18】初恋やり直しませんか？

第三章

第47話 ズレた歯車

　
　"また戻ってくる"

　香乃果がバンクーバーに渡って既に半年が過ぎたが、その言葉が果たされる事は無いまま、気が付くと季節は春を通り越して夏を迎えていた。

　あのクリスマスパーティの日の1度目の渡航は、現地視察という名目の渡航で1週間程度の短期滞在の予定で、年明け早々には帰国する予定だったはずだった。
　しかし、滞在中に急遽叔父さんの知り合いの大学教授との面通しや、教授推薦でセカンダリースクールの見学と面接が入ったりと予定外の事があり、加えて帰国前にセカンダリースクールへの編入許可が出た事により結果的に滞在が延びてしまい、帰国出来たのはなんと予定の3週間後…1月も終わる頃だった。

　帰国が伸びた事もさながら、突然湧いた編入話に流石におじさんも沙織ママも最初は難色を示していたが、香乃果の強い希望となかなか難しい編入の許可が出た事により最終的には折れて、香乃果の希望を受け入れたと言う。

　そうなると、手続きや準備、そして両親込での現地視察など再度渡航をする必要があった。
　手続きと準備には最低でも2ヶ月は必要という事と、2年次の修了が必須条件となる為、編入時期は4月に決まった。

　と、言うのも、通常日本の学校からから外国の学校に編入する場合、日本で取った単位は一部しか認められないらしく、学年を落としての編入になる場合が多いそうなのだが、今回は異例中の異例で、香乃果が日本で取った単位の殆どがセカンダリーでもそのまま認められたようだ。だが、英語力の部分で不安があると言うことで、そのままセカンダリーで言うところの高2相当学年の途中編入という事になるそうだ。
　まぁ、あちらは9月始まりだから、妥当と言えば妥当なのだが。

　そしてバタバタと決まった2度目の渡航は2月の中半、事前に沙織ママが準備した書類を持って、一足先に香乃果が、その3日後に沙織ママとおじさんも渡航した。

　現地では、編入先のセカンダリースクールと放課後に通う語学学校と補習校の手続き、それからお世話になる叔父さんの家の準備で1週間程の短期の予定で、手続きと準備と打ち合わせが終わったら沙織ママ達と一緒に一時帰国をする予定だったそうなのだが……

　現地在住の叔父さんいわく、セカンダリースクールは日本人学校では無い為、全てやり取りは英語ネイティブとなり、いくらカナダが移民の国とはいえ、すぐに馴染むのは難しいだろうと。
　早く慣れる為にも、語学学校だけでも一足早く通った方がいいのでは？と言う叔父さんの鶴の一声で、香乃果は帰国を取りやめてそのまま滞在ステイする事になり、沙織ママ達だけで帰国してきた。

　帰国日にどうしても会いたくて、空港の到着ロビーで待っていた所、到着口から出てきたのは沙織ママとおじさんのみだった時は、この世の終わりかと言うくらい絶望した。


「香乃果は帰国を取りやめてそのまま向こうに残る。」


　到着したばかりのおじさんにそう言われた時、俺はすぐに香乃果の元へ行きたい、行かせてくれと訴えた。
　その時、おじさんと交わした誓約に"学校を休んで渡航することは認めない"と言う項目があった事を指摘され、加えて、高額な渡航費はどうする？と訊ねられた。
　当然そんなお金などあるはずがなく、ならばすぐにでも電話を掛けたい、話をさせて欲しいとそう言ったが、それも"面会及び電話での接触は禁止する"という項目があった事を指摘され、断念せざるを得なかった。

　正直、想定外…まさかの事態が起こってしまったのだ。

　自分で納得して結んだ誓約なのに、この誓約のせいで全く身動きが取れなくなるなど思ってもいなかった。

　すぐに会える、留学まで1年間は誤解を解いて距離を縮める機会があるからと、タカをくくって深く考えずに了承した事を、今更ながら深く後悔をした。

　今俺に出来ることは、メールを送信するのみ。それも返信が貰えるかどうかの確約はない。
　そして、今の俺と香乃果の関係では、恐らくだが返信は返ってこないだろう。
　それに、こんな複雑な話、メールで正確に伝えられる自信もない。
　正直、八方塞がりで、できる事が限られて気持ちばかりが急くが、もう既に誓約書を交わしてしまった後……

　俺と香乃果の歯車はいつから噛み合わなくなったのだろうか。

　同じテンポを刻んでいたはずのふたつのメトロノームが、何かの拍子に少しズレて今では全く違うテンポを刻んでいるように……


　どうして……
　なんでこうなった？
　一体どこ間違えたんだろう。
　俺が間違えなければ今も同じでいられたのかな。
　もう元には戻れないのかな。

　そんな言葉がグルグルと頭を廻るが、後悔したとしても、何もかもがもう遅いのだ。

　何とも言いようのない気持ちの悪さに襲われ、頭がかち割れそうだった。