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第五章

新たな始まり⑩

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 昨日スーパーで買ってきた食材で、サッと朝食を済ませて、お昼前には実家へ着くようにマンションを出た。

「ちょっと寄るところがあるから」
「どこに?」
「凛花のご両親は、和菓子は好きか?」
「え? うん」
「なら良かった」

 蒼空さんが、コインパーキングに車を止めて、待っていてと言うので、車で待つ。数分で、何かを持って戻ってきた。

「それって『長谷屋』の和菓子!?」
「ああ」
「こんな短時間で、よく買えたね」
「予約してたんだ」

 人気店の長谷屋さんは、連日大行列でなかなか買えない。昨日の今日で、普通に予約できるものなのだろうか。蒼空さんの謎が、私の中で更に深まる。

 車で一時間ほどの距離の、私達の地元は、政令指定都市に指定されていて、都心ほどではないが活気がある街だ。

「凛花の実家は、どの辺だ?」

 私の実家は、通っていた高校から、自転車で15分ほどの距離のところにある。私は自転車通学だったが、蒼空さんは電車で通学していたことを思い出した。

「蒼空さんは、電車だったね」
「ああ」
 
 高校時代は知ることのなかった蒼空さんのことを、これからたくさん知っていきたいと思う。


 いよいよ、実家が見えてきた。

「蒼空さん、あそこに見えてるマンションだよ」
「了解」

 マンションの前にある、来客用の駐車場に止めてもらった。存在感のある高級車に、通る人がこちらをチラチラと見て行く。

「いよいよだな」

 緊張した様子が、微塵もない蒼空さんは、さすがだと思う。私なら、蒼空さんのご両親に会うとなったら、こんなには落ち着いてはいられない。なぜか私の方が緊張してきた。実家に帰るのは三ヶ月振りくらいだろうか。

 鍵は持っているが、一応エントランスでインターフォンを鳴らした。

「はい」
「お母さん、凛花」
「待ってたわ」

 言葉と同時に、自動ドアが開いた。エレベーターに向かおうと、一歩踏み出すも、蒼空さんに手を取られる。

「へ!?」
「ん? ただ手をつなごうと思っただけだ」
「じゃ、じゃあ行きましょう」

 蒼空さんに、翻弄されタジタジの私とは違い、平然としているのが悔しい。

 エレベーターで7階に上がると、母が家の前に出て待っていた。

「あら? あなた片桐蒼空くん?」

 母もしっかりと、蒼空さんのことを覚えていたようだ。



 
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