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第二章 開幕

第30話 疑惑

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「魔族の行方について分かっている事は、東国での爆発が有った時を同じくして、王都に蛇身の化け物が現われ、魔法によって東側の城壁を破壊し、そのまま去って行ったと聞いている」

 やはり、大消失がトリガーなんだな。
 王都の東の城壁と言う事は、俺が大消失を起こし力に目覚めた場所の方向だ。
 大陸内で遭遇しなかったのは、あの後俺はすぐにこの大陸に船で渡ったからか。
 運が良かったのやら悪かったのやら。

「その後はどうなったんですか? 村や俺を襲った時みたいに被害を残していったんですか? 確か伝説では正体を現したら周りの者を眷属に変えて去っていくって言っていましたが」

「そうだ、伝説にはそうあった。城壁を破壊した時に多少の怪我人は出たようだが、魔族は何もせずただ去って行ったらしい。まぁ愚弟や重臣達はおかしいままだった様だがね。その後も所々で蛇身の化け物の報告が時折有ったが、幸いな事に被害に関しては聞いた事が無い。なぜそう言う行動に出たのか理由は分からない」

 最初の時とは違い周りに被害も出さずに?
 神のプログラムにより俺以外の者が目に入らなくなったのか?
 女媧と対峙した時にも思ったが、俺と女媧は同じかもしれないな。
 神の駒として定められた盤面から逃れる事が出来ないと言う訳か。
 敵ながら本当に同情するぜ。

「その後、愚弟は騎士団に魔族の捜索を命じた。そして王都から騎士団の大部分が居なくなったのだよ。表向きは王都を襲った魔物を生け捕り、改めて王都にて処刑するとの名目だったが、恐らくは去って行った魔族を連れ戻そうとしたのだろうな」

 なるほど、これがダイスの言っていた王国が滅ぶ前に似たような騒動が起こったと言う事の真相か。
 王都から騎士団が居なくなると言う事は裸同然じゃないか。それだけじゃない恐らく地方の領主にも捜索の命令を出していただろうな。
 何せ急にご主人様が居なくなったんだ。
 そりゃあ淋しくて必死になるだろう。

「その隙に南方の国が動いたと言う事ですね。そしてメイガスが王都を奪還したと」

「あぁ、今までの暴政の所為も有ったのだろう。騎士団もメイガスが軍を率いていると言うのを聞いて、殆どの者は戦わず投降していった。まぁ一部の連中は操られていたのか、それともメイガスの事を快く思っていなかったのか抗戦する者も居たそうだがね。ほぼ無血開城だったのだよ」

「無血開城と言うのは不幸中の幸いでしたね。結果として国は滅んでしまったと言う訳ですが……」

「はははっ、そうだな。そこは魔族の言葉通りになった。しかし、ご先祖には申し訳無いが私は仕方無いと思っている。そもそもこれは魔族を倒し切れなかった建国者のツケみたいなものだ。国は滅びたが民は無事だった。そしてその後には善政を行う者が領主となったんだ。国名は変わったかもしれないが、見方を変えれば国は滅びず残ったと言えなくも無い」

「王子……」

「あぁそれと、愚弟以下魔族に操られていた者達はメイガスが王座の間に踏み入った際には既に全員死んでいたそうだよ。表向きは自決と発表されたが、どうもお互いに殺し合ったようだ。本当に馬鹿な弟だった……」

 殺し合っていた?
 最後に自分の恨みの事を思い出して国の中枢の破壊をしようとしたとでも言うのだろうか?
 それとも最初から国が滅びようとする際に自動的に殺し会うようにセットしていたか。

 う~ん、後者かもな。
 どうも、人間の時と蛇身の時では能力だけじゃなく知能も違うようだ。
 初めて遭遇した時もだが、先日の際も、王都に現れたと言う奴と違い知性なんて感じなかった。
 獣独特の狡賢さは有ったが、周りを魔物化じゃなく、意識を持ったまま操られていたらあいつらを怪我させる事無く事を収めるのは無理だっただろう。
 まっ後で治せるけどな。

「国が滅び奴が消え、俺達はこの街に移り住んだ。その後俺は小さい頃から知り合いだったこの街の前ギルドマスターから後任を頼まれて今の地位に居る。そしてヴァレウスは魔法学園の講師となり、数年で学長まで登り詰めた。全てが終わったと思っていたんだよ」

「思っていた? なんだ? その気になる言い方は。まぁ、あいつは現れたんだ。どうやって海を渡ったか知らないが」

 俺の言葉に先輩は苦笑しながら何度も頷いた。

「一年程前だったか。一つの噂を聞いた。西の漁村で光る玉が海から引き揚げられたと言う噂をな」

「光る玉! それって!」

「あぁ、その噂を聞いて私達はすぐにその漁村に向かった。残念な事にその玉と持ち主は姿を消した後だったよ。村人に聞いた話では、西の海……。そうアメリア王国が有る大陸の方角だ。そこの沖合で底引き網による漁を行っていた際にその玉は網の中に入っていたそうだ」

「それって、も、もしかして自力で海を渡ろうとして途中で力尽きたって事か……?」

「恐らくな……。何と言うか間抜けな話だ。ガハハハハ…………はぁ。とは言えその玉は姿を現した」

 もしかして大消失後すぐに入水自殺した形になったので、姿を現すまでこんなに時間が掛かったのか?
 やっぱり、蛇身の時は馬鹿なんじゃぁ?
 一瞬の知能の差かと思ったけど同じようだ。
 しかし、そのまま玉が引き上げられなかったら良かったのに。
 少なくとも俺が寿命で亡くなるまでな。

「その後、消えた男を捜索したが行方は分からなかった。半年前から発生していた魔物の襲撃で、もしやと思って警戒していた所に先日の騒ぎだ。俺達は戦々恐々としたよ。まさかアメリア王国王族の生き残りを追って来たのかと思ってな。しかし今回はお前が居る。それが希望だった。もっと早くお前にこの話をしたかったが、アメリア王国と魔族の因縁の所為でお前を犯罪者としてしまった手前、またそれに巻き込ませる事に気が引けてな。しかし、お前が本当に神の使徒ならば運命が放って置かないだろう。だからあの日召集が掛かっても現れないお前を捜索させる為に、誰か使いを寄越そうとしたらダイスが立候補したんだ」

「だからあいつが来たのか。しかもあいつは俺の力を知っていたからまず教会に行けと言って来やがった。まぁその所為でメアリを聖女にしちまったんだけどな」

「なるほどな。立候補した訳が分かったぜ。隊長の癖に何を言い出すかと思えば、まぁ、あいつの言葉にはお前もよく聞くし仕方無いかと思ったが、それで正解だったんだな。そうじゃ無けりゃ死人が出ていた」

「まぁ何にせよ、お前が魔族を倒したのだ。しかも今回は光の玉も出現した形跡も無い。神が建国者に残した言葉通り、魔族を撃ち滅ぼしたのだ。これで全てが終わった。本当に良かった」

 ……あれ? なんか違うくないか?

「いや、今回も光の玉は出たし、そもそも止めを刺したのは俺じゃないぜ?」

「「なっ! なにぃぃぃぃぃぃ!!」」

 うおっ! びっくりした!
 あれ? 光の玉の事も止めを刺した事もダイスは報告していないのか?
 まぁ、この話を聞く限り、光の玉に付いて先輩も探していたんだから、報告してたらダイスが俺のところに持って来れる訳無いよな。
 その事を内緒にしてたのか。

 ……なんで?

「誰だ! 誰が倒した? そして光の玉は誰が持って行ったんだ? お前か?」

「い、いや。倒したのも光の玉を拾ったのもダイスだよ。聞いてねぇのか? いや、俺は目立ちたくないから適当に誤魔化しておいてくれとは言ったから、そこら辺は伝わっている物と思っていたが」

「ダ、ダイスだと……? 表向きはそうだが、俺にはお前が倒したと言っていたぞ? しかも光の玉を拾っただと! マズイぞ! もしかしたら次の魔族になってしまうかもしれん!」

 なっ! そ、そうか! あの光る玉を持った奴は次の女媧になるんだったな。
 そう言えばおかしな行動は幾つか有った。
 もしかして既にあいつは乗っ取られていたりするのか?

「ショウタ! ダイスは今何処に?!」

「確か、昼間俺の部屋に来たんだが、別れる際に領主との懇談が有ると言っていた」

 『先生のお陰で毎日大変ですよ』と愚痴を言われながら分かれたっけ。
 本当に忙しい事だな。
 改めて英雄なんて物にはなりたくないぜ。

「もしかして領主を下僕にしようとしているのか? ヤバい! 今すぐ止めないと!」

 俺の暢気な考えを吹き飛ばすかのように先輩が大声を上げた。
 あぁっ! そうか! もしあいつが既に乗っ取られていたとしたら、そう言う事だって考えられる! 
 俺達は浮かび上がってきた疑惑を探るべく、すぐさま部屋を飛び出て一階に向かった。
 血相かいて降りて来た三人に、一階でくつろいでいた皆が驚いている。

「お、お父様! どうなされたんですの?」
「お父さんやソォータさんまでそんなに慌てて一体どうしたの?」

 メアリと嬢ちゃんが俺達の必死の形相に驚きながらも呑気に話しかけて来た。
 今は相手をする暇は無い。
 俺は軽く手で挨拶だけをしてギルドの扉まで走る。

「あぁメアリ。少しガーランドとショウ……ゲフンゲフン。 ソォータ殿と出かけなければならなくなったのだ。すぐに帰ってくるからもう少し大人しくしてておくれ」

「はい、分かりましたですの。では小父様ごきげんようですの」

 王子馬鹿親が急いでいるってのに、娘を見た途端立ち止まり悠長に説明しだした。
 先輩は俺と同じく軽く挨拶だけで俺の後に付いて来てるっているのに……。
 しかも俺の本名を言い間違え掛けやがった。

「王……ゲフンゲフン。おっさん! 早く行くぞ!」

「おっ、おっさん! お、お前、私に対して……」

「今はそんな時じゃないだろ? ほら早く!」

 おっさんと呼んだ事に憤慨しながらも、状況を思い出したのか王子も走り出した。
 ポカーンとした顔で俺達の事を眺めている皆を尻目に俺達は勢いよくギルドから飛び出し大通りを走る。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「王子。さっきはすみませんね。王子の事を人前で何と呼べばいいか聞いてなかったんで」

 大通りを領主の館まで走る最中も憮然とした顔をしたままの王子に一応謝罪した。
 なんか後々まで言われそうだしな。

「むぅ、仕方が無い。足を止めていた私も悪いしな。今の私の事はヴァレンと呼ぶがいい」

「はいはい、分かりました。ヴァレンさん。おっ向こうに領主の館が見えて来た」


 更に走る速度を上げ、やっと領主の館の前まで来た俺達は、ダイスの居場所を探るべく門の前に立っている厳つい顔した門番に声をかけた。

後ろでヒィヒィと肩で息をしてる運動不足のおっさん王子は取りあえず無視してな。

「走ったのは……ハァハァ。久し振りなんで……ハァハァ。い、息が……」

 はぁ……、こんな事なら置いてくれば良かったぜ。
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