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1.悪食令嬢の悩み
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早速だが、私は呪われている。
あれは私が産まれた日のことだった。
伯爵家のひとり娘として生を受け、緩やかな金色の髪にブルーサファイアのような煌めく瞳を持つ新生児からすでに超絶美少女(確定)。アレスターニャ・レスタング伯爵令嬢。それが私だ。
これから蝶よ花よと育てられ、何の苦労もなく生きていくはずだった私が最初にぶち当たった難関。それが“呪い”だったのだ。
みんながお祝いムードの中、突然照明が全て消えたかと思うと窓が全開になり、月夜に照らされた魔女がやってきてこう言ったそうな。
「この家系の先祖がわたしのペットを虐めたのを思い出したから、仕返ししてやるわぁ~!」
その魔女によれば、三百年ほど昼寝してたらふと昔の嫌なことを思い出してムカついたので憂さ晴らしにきたのだと言ったとか。
成長してからそんな話を聞かされた私は思わず、いや、そんなこと言われても知らないし!なにやらかしてくれたのよ、ご先祖様?!と心の中で悪態をついたものだ。
つまり、この家系の最先端である私が一族を代表して呪われてしまったのである……。
通称“獏の呪い”。動物園とかにいる獏ではなく、物語などに出てくる“夢を食べる”方の獏だ。まさかその獏がはるか昔に実在していてさらに魔女のペットだったことにも驚いたが、そんな獏を虐めたご先祖様には恨み言しかない。
こうして私は呪いにより、獏と同じく“夢”しか食べれない悪食令嬢となってしまったのだった。
そんな呪いなど信じたくなかった両親は私を有名な医者に見せたり高い薬を与えたりしてきた。しかし、産まれたばかりの赤子だというのに乳母の乳を拒絶しどんどん痩せ細る私の姿に両親は絶望したそうだ。
だがそんなある日。何日も寝ずに私の側に寄り添ってくれていた母が私を抱きしめたまま気絶するように眠った。
そう、“夢”を見たのだ。
やっと“食料”の気配を感じ取った私は貪るようにその“夢”を食べ、瀕死の危機を脱したのだった。
それからも私は両親や、時には使用人にも夢を提供してもらった。“夢”には“味”があり、私は夢の味を覚えて成長していった。問題があるとすれば、その夢を食べきってしまうと本人が夢の内容を覚えていないことだろうか。幸せな夢だった場合は申し訳ないので少しだけ食べ残すことにしている。
大きくなってからは、両親は諦めきれずに私に普通の食事を与えようとした。だが、もちろんそれらは喉を通らない。無理矢理口に詰め込んでも味はしないし、まるでスポンジや砂でも食べているかのような感じに盛大に吐いたりもした。水分すらも碌に摂れず、令嬢の嗜みである紅茶は色のついたぬるい水でしかない。
傍から見れば偏食か好き嫌いの激しい我がまま令嬢に見えたことだろう。
「お腹が空いたわ」
あれから十数年。年頃になった私だが、婚約者どころか浮いた話のひとつもない。私が呪われている事は秘密だが、お茶会に参加しても何も口につけないし、無理に食べようとしてもその場で吐いてしまうばかりでは悪い噂が立つに決まっている。最初の頃は不治の病なのではと言われ続けたが、たまたま“美味しそうな夢の匂い”がしてつい、「あなた(の夢)美味しそうね」と、とある令嬢に言ってしまったものだからそれはもう大騒ぎになったことがあった。それからは「普通では満足出来ずに興味あるものをなんでも食べようとする悪食だ」と嘲るように言われたのだ。まぁ、「人肉に興味があるのでは」と言われなかっただけマシか。さすがにその発想はヤバいからね。しかし、もしかしたら別の意味(性的な)かもしれないと気づいたのはだいぶ後だったので後の祭りである。
ぐうぅ……。と、私のお腹が空腹を訴えて小さく鳴いた。
屋敷内の使用人たちや、両親の夢を定期的に食べさせてもらっているが、満腹感を覚えたことがない。さすがに毎日誰かから夢を食べさせてもらうのにも抵抗があったので私の“食事”は週一回程度にしているのだ。
私のことを気味悪がった使用人がかなり辞めてしまったので人材不足なのもある。しっかり口止めしてお金も渡したからかまだ私の悪食の真実は出回ってないが時間の問題だろう。
この呪いはいつ解けるのか。それともずっとこのままなのか。私に呪いをかけて満足した魔女は「頑張ってね~」とすぐさま立ち去ってしまったそうで、その後探したものの消息不明だ。せめて解呪のヒントくらい欲しかった。
今の私にとって変な噂や恋愛、婚約者などどうでもいい。両親だってこんな私がまともに嫁げるなんて思っていないだろう。しかし私はひとり娘だ。婿を取るのが無理なら親戚からでも養子を探すしかない。申し訳ないとは思いつつ、私の頭の中はあることでいっぱいだった。
お腹いっぱいになるまで“夢”を食べたい。
産まれた時からつきまとう飢餓感。この苦痛から解放されるならば何もいらないのだ。
「……お腹、空いたわーーーー」
まさか、その数日後。全てを解決してくれる人に出会えるなんて思ってもいなかった。しかしその出会いの前にあんな騒動になるなんて、それこそ想定外である。
あれは私が産まれた日のことだった。
伯爵家のひとり娘として生を受け、緩やかな金色の髪にブルーサファイアのような煌めく瞳を持つ新生児からすでに超絶美少女(確定)。アレスターニャ・レスタング伯爵令嬢。それが私だ。
これから蝶よ花よと育てられ、何の苦労もなく生きていくはずだった私が最初にぶち当たった難関。それが“呪い”だったのだ。
みんながお祝いムードの中、突然照明が全て消えたかと思うと窓が全開になり、月夜に照らされた魔女がやってきてこう言ったそうな。
「この家系の先祖がわたしのペットを虐めたのを思い出したから、仕返ししてやるわぁ~!」
その魔女によれば、三百年ほど昼寝してたらふと昔の嫌なことを思い出してムカついたので憂さ晴らしにきたのだと言ったとか。
成長してからそんな話を聞かされた私は思わず、いや、そんなこと言われても知らないし!なにやらかしてくれたのよ、ご先祖様?!と心の中で悪態をついたものだ。
つまり、この家系の最先端である私が一族を代表して呪われてしまったのである……。
通称“獏の呪い”。動物園とかにいる獏ではなく、物語などに出てくる“夢を食べる”方の獏だ。まさかその獏がはるか昔に実在していてさらに魔女のペットだったことにも驚いたが、そんな獏を虐めたご先祖様には恨み言しかない。
こうして私は呪いにより、獏と同じく“夢”しか食べれない悪食令嬢となってしまったのだった。
そんな呪いなど信じたくなかった両親は私を有名な医者に見せたり高い薬を与えたりしてきた。しかし、産まれたばかりの赤子だというのに乳母の乳を拒絶しどんどん痩せ細る私の姿に両親は絶望したそうだ。
だがそんなある日。何日も寝ずに私の側に寄り添ってくれていた母が私を抱きしめたまま気絶するように眠った。
そう、“夢”を見たのだ。
やっと“食料”の気配を感じ取った私は貪るようにその“夢”を食べ、瀕死の危機を脱したのだった。
それからも私は両親や、時には使用人にも夢を提供してもらった。“夢”には“味”があり、私は夢の味を覚えて成長していった。問題があるとすれば、その夢を食べきってしまうと本人が夢の内容を覚えていないことだろうか。幸せな夢だった場合は申し訳ないので少しだけ食べ残すことにしている。
大きくなってからは、両親は諦めきれずに私に普通の食事を与えようとした。だが、もちろんそれらは喉を通らない。無理矢理口に詰め込んでも味はしないし、まるでスポンジや砂でも食べているかのような感じに盛大に吐いたりもした。水分すらも碌に摂れず、令嬢の嗜みである紅茶は色のついたぬるい水でしかない。
傍から見れば偏食か好き嫌いの激しい我がまま令嬢に見えたことだろう。
「お腹が空いたわ」
あれから十数年。年頃になった私だが、婚約者どころか浮いた話のひとつもない。私が呪われている事は秘密だが、お茶会に参加しても何も口につけないし、無理に食べようとしてもその場で吐いてしまうばかりでは悪い噂が立つに決まっている。最初の頃は不治の病なのではと言われ続けたが、たまたま“美味しそうな夢の匂い”がしてつい、「あなた(の夢)美味しそうね」と、とある令嬢に言ってしまったものだからそれはもう大騒ぎになったことがあった。それからは「普通では満足出来ずに興味あるものをなんでも食べようとする悪食だ」と嘲るように言われたのだ。まぁ、「人肉に興味があるのでは」と言われなかっただけマシか。さすがにその発想はヤバいからね。しかし、もしかしたら別の意味(性的な)かもしれないと気づいたのはだいぶ後だったので後の祭りである。
ぐうぅ……。と、私のお腹が空腹を訴えて小さく鳴いた。
屋敷内の使用人たちや、両親の夢を定期的に食べさせてもらっているが、満腹感を覚えたことがない。さすがに毎日誰かから夢を食べさせてもらうのにも抵抗があったので私の“食事”は週一回程度にしているのだ。
私のことを気味悪がった使用人がかなり辞めてしまったので人材不足なのもある。しっかり口止めしてお金も渡したからかまだ私の悪食の真実は出回ってないが時間の問題だろう。
この呪いはいつ解けるのか。それともずっとこのままなのか。私に呪いをかけて満足した魔女は「頑張ってね~」とすぐさま立ち去ってしまったそうで、その後探したものの消息不明だ。せめて解呪のヒントくらい欲しかった。
今の私にとって変な噂や恋愛、婚約者などどうでもいい。両親だってこんな私がまともに嫁げるなんて思っていないだろう。しかし私はひとり娘だ。婿を取るのが無理なら親戚からでも養子を探すしかない。申し訳ないとは思いつつ、私の頭の中はあることでいっぱいだった。
お腹いっぱいになるまで“夢”を食べたい。
産まれた時からつきまとう飢餓感。この苦痛から解放されるならば何もいらないのだ。
「……お腹、空いたわーーーー」
まさか、その数日後。全てを解決してくれる人に出会えるなんて思ってもいなかった。しかしその出会いの前にあんな騒動になるなんて、それこそ想定外である。
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