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65話 防衛戦力 その1
しおりを挟む「噂ではあったが……やはりか」
「うむ、ソウルタワーの権利獲得が狙いじゃろうな。コムズレイ女王国も巻き込んで、大掛かりなことじゃ」
既にアゾットタウンの冒険者ギルドにも情報はたくさん出ていた。ジープロウダと傭兵団体の結託や、ヴィンスヘルムが介入していることも漏れている。リリーが捕まっていたアジトは、冒険者組合が今は調査していた。
「それで? ヴィンスヘルムが殺されたっていう噂はどうなんだ?」
「どうも、智司たちも関係しているようじゃな。智司よ、少し来てもらえるか?」
シャルムは詳細を聞く為に、智司に手招きをした。とりあえずは彼から聞こうということだ。
「どうしました?」
「うむ、冒険者組合の情報を共有してリリー・シリンスが誘拐されたことは聞いておる。災難じゃったな」
「はい……でも、リリーは無事でしたので」
「無事で何よりだったな」
「デュランさん……ありがとうございます」
デュランからの意外な言葉だった。強面の為に無事を労う言葉が似合わなかったのだ。智司も呆けた顔をしていたが、すぐにお礼を言った。
「ヴィンスヘルムは、レジナと言う影のモンスターに殺されたと聞いておるが……本当なのか?」
「ええ、リリーからはそう聞いています」
影のモンスターであるレジナは、智司の足下に隠れている。彼の足下に居る状態の時はほぼ気配が漏れることはないが、一触即発になりかねない状況でもあった。
「なるほど……で、知ってることはそれだけか?」
「ええと、他にも推測ではありますが……」
智司は二人には隠し事はしないほうが賢明だと判断した。リリーも呼び、レドンドとレジナの関係性なども話して行く。
--------------------
「ヨルムンガントの森のシルバードラゴン……レジナという魔物はそこから来ている可能性があるわけか」
デュランは納得したように頷いている。彼も賞金首序列1位のヴィンスヘルムを倒せる魔物であれば、噂のヨルムンガントの魔物であっても不思議ではないと思っているのだ。
「おそらくはシャドーデーモン系の新種であろうな。それなりの強敵になりそうじゃ」
「なぜこの娘だけを助けたのは不明だが……」
「うむそうじゃな」
「私もそこが不安で……感謝はしてるんですけど、大切な人は居るのかとか聞かれて……」
まるで人間の感情を理解しているかのようなセリフだ。魔物の気まぐれと言えばいいのか、答えは出なかった。シャルムはこの件に関しては保留にすると考え、話題を次に移した。
「賞金首に繋がる情報じゃが……アルビオン王国の首都デイトナで、仮面の道化師がまた暴れておるらしい」
「前からの情報じゃねぇか」
「今回は耳よりじゃ。アルファードとベンツ……この2チームを病院送りにしたようじゃ。持ち金は全て奪われたとあるな」
「アルファードとベンツだと?」
智司もその会話を聞いているが、冒険者パーティに聞き覚えはない。だが、デュランの興味を惹けた段階で相当に強力なパーティだと推測できた。
「塔の攻略組ではないが……冒険者の強さで言えばランカークス並はあるかの」
「ほう」
「大怪我をしたメンバーが言っておるそうじゃ。攻撃が見えなかったと」
「見えなかった? 反応できなかったと言う意味か」
反応できないほどの速度……ハズキであれば、相手がカシムたちランカークスのメンバーであろうと可能だろう。傍らで聞いている智司はそのように考えていた。
「うむ、それもあるかもしれぬが……目に見えない攻撃、そのような印象があったと言っておるな」
「目に見えないだと? 透明化している攻撃の可能性があるってことか」
さらに二人の言葉を聞いていた智司だが、その点は腑に落ちなかった。仮面の道化師であるハズキの相手は、彼女からすれば雑魚のような存在だろう。必殺技である透過武装を使うまでもないはず。
「……ハズキ、欲求不満なのかな……」
美人で清楚な印象のある彼女からは考え付かないが、ハズキは戦闘狂だ。弱い相手ばかりで欲求不満になっていることは考えられることだった。ハズキからすれば弱いというだけであり、彼女が倒している相手は決して弱い存在ばかりではないが。
ちなみに智司は気付いていないが、性の方に関しても欲求不満になりつつある。彼がいつまで経っても手を出さないからだ。
「仮面の道化師の賞金首ランキングが2位まで来ておる。この速度はかなりのものじゃ。おそらく、実力ではヴィンスヘルムを凌ぐじゃろう」
「仮面の道化師か……」
デュランもシャルムも資料上で確認しているだけだが、仮面の道化師がただ者ではないことを見抜いていた。そこには多分に直感的なものも含まれている。だが、彼らの直感は当たるのだ。
デュランの興味は仮面の道化師にも移っているようだった。
「……」
智司は先ほどの戦いを思い出す。デュランの強さの一端は、リファインコマンドでの封殺……智司は詳しくはわかっていないが、最後のデュランの対応速度は尋常ではなかった。人間状態の智司の行動を完全に見切られたのだから。
それが彼の能力だと智司は悟る。魔神状態になれば負けることはないと踏んでいるが、動きを見切られ、対応される可能性があるのならば、その前に倒してしまわなくては勝率が下がってしまう。
デュランはただ戦闘能力が高いだけの相手ではない。非常にやりにくい相手でもあるのだ。
「仮面の道化師、いずれは相対することになるじゃろうが。まあ、おんしであれば心配はないか」
「ふん、当然だ。所詮は賞金首……俺の相手ではない」
ソウルタワーにて、はるかに強力な魔物を倒しているデュランからすれば、賞金首など眼中にはなかった。事実、以前まで最強であったヴィンスヘルムも大したことはないだろうと、積極的に狩ることはしなかったのだから。
彼も戦いに飢えている人物だ。それを満たしてくれる存在がソウルタワーであった。
「さて、今後について話したいのじゃが……」
シャルムはそこで話題を転換させた。デュランや智司、リリーも気持ちを切り替え視線を合わせた。
「アシッドタウンの防衛戦線と行こうかの。どうじゃ? 一時的ではあるが、手を組まぬか?」
予想外のシャルムからの提案に智司は驚いた。アルノートゥンの二人は他の者と協力するというイメージがなかったからだ。
「防衛戦線として手を組む……ということですか?」
「俺達としてもソウルタワーの占拠は見過ごせる状態ではないんでな」
デュランは真剣な顔で言ってのける。伝説の塔の制覇を妨げる行為は許さないということなのだろう。アシッドタウン占拠に対する智司側の戦力は、敵側を大きく越えるものへと発展していた。
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