上 下
65 / 126

65話 防衛戦力 その1

しおりを挟む

「噂ではあったが……やはりか」

「うむ、ソウルタワーの権利獲得が狙いじゃろうな。コムズレイ女王国も巻き込んで、大掛かりなことじゃ」


 既にアゾットタウンの冒険者ギルドにも情報はたくさん出ていた。ジープロウダと傭兵団体の結託や、ヴィンスヘルムが介入していることも漏れている。リリーが捕まっていたアジトは、冒険者組合が今は調査していた。


「それで? ヴィンスヘルムが殺されたっていう噂はどうなんだ?」


「どうも、智司たちも関係しているようじゃな。智司よ、少し来てもらえるか?」


 シャルムは詳細を聞く為に、智司に手招きをした。とりあえずは彼から聞こうということだ。


「どうしました?」

「うむ、冒険者組合の情報を共有してリリー・シリンスが誘拐されたことは聞いておる。災難じゃったな」

「はい……でも、リリーは無事でしたので」

「無事で何よりだったな」

「デュランさん……ありがとうございます」


 デュランからの意外な言葉だった。強面の為に無事を労う言葉が似合わなかったのだ。智司も呆けた顔をしていたが、すぐにお礼を言った。



「ヴィンスヘルムは、レジナと言う影のモンスターに殺されたと聞いておるが……本当なのか?」

「ええ、リリーからはそう聞いています」

 影のモンスターであるレジナは、智司の足下に隠れている。彼の足下に居る状態の時はほぼ気配が漏れることはないが、一触即発になりかねない状況でもあった。


「なるほど……で、知ってることはそれだけか?」

「ええと、他にも推測ではありますが……」

 智司は二人には隠し事はしないほうが賢明だと判断した。リリーも呼び、レドンドとレジナの関係性なども話して行く。



--------------------



「ヨルムンガントの森のシルバードラゴン……レジナという魔物はそこから来ている可能性があるわけか」


 デュランは納得したように頷いている。彼も賞金首序列1位のヴィンスヘルムを倒せる魔物であれば、噂のヨルムンガントの魔物であっても不思議ではないと思っているのだ。


「おそらくはシャドーデーモン系の新種であろうな。それなりの強敵になりそうじゃ」

「なぜこの娘だけを助けたのは不明だが……」

「うむそうじゃな」

「私もそこが不安で……感謝はしてるんですけど、大切な人は居るのかとか聞かれて……」


 まるで人間の感情を理解しているかのようなセリフだ。魔物の気まぐれと言えばいいのか、答えは出なかった。シャルムはこの件に関しては保留にすると考え、話題を次に移した。




「賞金首に繋がる情報じゃが……アルビオン王国の首都デイトナで、仮面の道化師がまた暴れておるらしい」

「前からの情報じゃねぇか」

「今回は耳よりじゃ。アルファードとベンツ……この2チームを病院送りにしたようじゃ。持ち金は全て奪われたとあるな」

「アルファードとベンツだと?」


 智司もその会話を聞いているが、冒険者パーティに聞き覚えはない。だが、デュランの興味を惹けた段階で相当に強力なパーティだと推測できた。


「塔の攻略組ではないが……冒険者の強さで言えばランカークス並はあるかの」

「ほう」

「大怪我をしたメンバーが言っておるそうじゃ。攻撃が見えなかったと」

「見えなかった? 反応できなかったと言う意味か」


 反応できないほどの速度……ハズキであれば、相手がカシムたちランカークスのメンバーであろうと可能だろう。傍らで聞いている智司はそのように考えていた。


「うむ、それもあるかもしれぬが……目に見えない攻撃、そのような印象があったと言っておるな」

「目に見えないだと? 透明化している攻撃の可能性があるってことか」


 さらに二人の言葉を聞いていた智司だが、その点は腑に落ちなかった。仮面の道化師であるハズキの相手は、彼女からすれば雑魚のような存在だろう。必殺技である透過武装を使うまでもないはず。


「……ハズキ、欲求不満なのかな……」


 美人で清楚な印象のある彼女からは考え付かないが、ハズキは戦闘狂だ。弱い相手ばかりで欲求不満になっていることは考えられることだった。ハズキからすれば弱いというだけであり、彼女が倒している相手は決して弱い存在ばかりではないが。

 ちなみに智司は気付いていないが、性の方に関しても欲求不満になりつつある。彼がいつまで経っても手を出さないからだ。


「仮面の道化師の賞金首ランキングが2位まで来ておる。この速度はかなりのものじゃ。おそらく、実力ではヴィンスヘルムを凌ぐじゃろう」

「仮面の道化師か……」


 デュランもシャルムも資料上で確認しているだけだが、仮面の道化師がただ者ではないことを見抜いていた。そこには多分に直感的なものも含まれている。だが、彼らの直感は当たるのだ。

 デュランの興味は仮面の道化師にも移っているようだった。


「……」


 智司は先ほどの戦いを思い出す。デュランの強さの一端は、リファインコマンドでの封殺……智司は詳しくはわかっていないが、最後のデュランの対応速度は尋常ではなかった。人間状態の智司の行動を完全に見切られたのだから。

 それが彼の能力だと智司は悟る。魔神状態になれば負けることはないと踏んでいるが、動きを見切られ、対応される可能性があるのならば、その前に倒してしまわなくては勝率が下がってしまう。

 デュランはただ戦闘能力が高いだけの相手ではない。非常にやりにくい相手でもあるのだ。


「仮面の道化師、いずれは相対することになるじゃろうが。まあ、おんしであれば心配はないか」

「ふん、当然だ。所詮は賞金首……俺の相手ではない」

 ソウルタワーにて、はるかに強力な魔物を倒しているデュランからすれば、賞金首など眼中にはなかった。事実、以前まで最強であったヴィンスヘルムも大したことはないだろうと、積極的に狩ることはしなかったのだから。

 彼も戦いに飢えている人物だ。それを満たしてくれる存在がソウルタワーであった。


「さて、今後について話したいのじゃが……」


 シャルムはそこで話題を転換させた。デュランや智司、リリーも気持ちを切り替え視線を合わせた。


「アシッドタウンの防衛戦線と行こうかの。どうじゃ? 一時的ではあるが、手を組まぬか?」


 予想外のシャルムからの提案に智司は驚いた。アルノートゥンの二人は他の者と協力するというイメージがなかったからだ。

「防衛戦線として手を組む……ということですか?」

「俺達としてもソウルタワーの占拠は見過ごせる状態ではないんでな」


 デュランは真剣な顔で言ってのける。伝説の塔の制覇を妨げる行為は許さないということなのだろう。アシッドタウン占拠に対する智司側の戦力は、敵側を大きく越えるものへと発展していた。

しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...