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64話 智司とデュラン

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「えっ? デュランって人と智司が戦うの!?」

 カシムから話を聞いたみんなは驚いていたが、真っ先に声を出したのはリリーだ。智司をとても心配している。

「無謀……て言いたいところやけど、智司に限っては俺が言えることではないわ」


 ブラッドハーケンを討伐している智司だ。ナイゼルは自分が言えることはないと悟り、彼を直接止めることはしなかった。智司とデュランは既に酒場の外に出ており、丁度いい距離で視線を交錯させている。


「悪くねぇ、その瞳。俺がレッドドラゴンを討伐したと聞いても、焦ることなく焔が灯っている」


「最強の冒険者の方に褒められると、ホント照れますが……嬉しいですよ」

「くっくっく」


 お互い武器を構えることはしていない。あくまでも体術の勝負ということだ。


「どちらに分があるでしょうか?」

「9:1といったところか。どちらが9かは言うまでもないだろう」


 サラの質問に冷静に答えたのはカシムだ。彼は敢えて言葉を濁したが、体術勝負の場合、智司の勝率を10%と踏んだのだ。それは智司も理解している。人間状態とはいえ、彼がここまで挑戦者になったことはなかった。

「先手はくれてやる。来な」

「……」


 無言で智司はデュランに向かって行った。初速のタイミングをずらすようにフェイントを掛けながら。しかし、デュランには通用せず、智司が彼の目の前に来た時には、次の動作に移っていた。

「……!」

 根本的な動作速度が違う……智司がそのように感じた時には遅く、デュランの打撃を横腹で受け止める羽目になった。

「くっ……!」


 後方へと退く智司だが、ダメージは負っていない。

「ほう、無傷か。やるじゃねぇか」

「速い……というよりも、非常に要領の良い攻撃なんですかね。どうやって、あなたに一撃を与えたらいいのかわかりません」

「貴様とは戦闘経験の場数が違う。おら、特別に授業料は無料にしてやってるんだ。四の五の考えずにかかってきな」

「そうですね……わかりました」


 早速、智司は人間状態の本気に移行した。打撃勝負なので厳密には違うが、動きはブラッドハーケンの時と同じだ。

 だが、デュランには打撃が当たらない。全てを避けられているわけではないが、クリーンヒットが起きる予想がつかないのだ。逆にデュランからの拳や蹴りは命中してしまっている。大してダメージは受けないが、それでもこのままでは負けは確実であった。


「このまま終わりか?」

「いえ……これならどうでしょうか?」

「ん?」

 智司は攻防の最中、地面にも打撃を打ち込んだ。砂煙が大きく舞い上がり、智司の姿を隠す。

「目くらましか。単純だが、咄嗟の判断としては悪くない」

 デュランは智司の狙いをすぐに看破したが、いきなり編み出した計画にしては良い出来だと感じていた。智司に称賛の言葉を贈る。と、その時……デュランは今までとは違う異質な気配を感じ取った。


「なんだ……?」


 一瞬だけ見せる魔神の能力……砂煙の中で、智司の速度は倍化したのだ。その一撃はデュランの腹にクリーンヒットした。

「ぬう……!」

 少しよろめくデュラン。明らかに加速した智司に、彼も理由がわかっていなかった。砂煙から出て来た智司は通常状態に戻っており、よろめいたデュランに追い打ちをかける。

「!!」

 しかし、デュランに次の攻撃は当たらなかった。彼は簡単に態勢を立て直し、智司の蹴りを受け流したのだ。そして、無防備になった智司の首を掴んだ。

「タネのわからん手品があったが、これで勝負ありだ」

「ええ……そうみたいですね……」

 リファインコマンド……人間状態の智司の動きは解析されたのだ。洗練されたデュランの動きに智司はどうすることもできない。体術勝負はデュランの勝利に終わった。


----------------------


「さ、智司……大丈夫!?」

「智司くん、平気ですか?」


 勝負が終わると、真っ先にリリーとサラの二人が智司に駆け寄った。あくまでもただの打撃勝負の為、強力な闘気を纏っている智司に怪我はなかった。だが二人共、心配の色は隠れていない。


「大丈夫だよ。心配かけてごめん」

「ううん、いいんだけど……いきなりあんなに強い人と戦うからビックリしたわよ」

「本当ですね。いくら智司くんが強いと言っても、いきなり無茶はしないでください」


「本当にごめん……」

 素直に謝る智司に、リリーもサラもそれ以上は何も言わなかった。

 リリーとサラという美少女に心配される智司の図だ。離れて見ているナイゼルも、さすがにちょっと羨ましいと感じていた。

「智司の奴、この分やとすぐに春が舞い降りそうやで、羨ましいこって」

「そんな感じがするな」

 彼らのやり取りを見ているネリスは少し寂しそうにしている。智司を労いたいが、出会って間もない為、完全に溶け込むのは難しいと感じているのだ。


「もう、俺と付き合うか。はぐれ者同士」

「なにを言っている? 冗談にも聞こえないぞ」

「まあ、冗談やから気にすんな」


 はぐれ者同士、こちらにも春が生まれる……わけではなかった。 


---------------------


「デュラン、智司はどうであった?」

「ああ……あれは強いな。16歳という年齢も信じられん」


 その頃、デュランとシャルムは智司たちとは離れたところで会話をしていた。

 デュランは体術勝負には勝ったが、想像以上に智司を買っているようだ。智司を見る視線も期待に溢れていた。


「まだまだ全力を出している様子でもなさそうだしな」

「おんしにそこまで言わせるとは……おもしろい子じゃな」


 二人とも非常に強い後輩の台頭を喜んでいるのだ。同時に、智司に対する妙な違和感も感じ取っている。これは確信があるわけではなく、本能的なものだ。直接言葉を交わさなくとも、同じ考えに至っていることはお互い分かっていた。


「ところで、デュラン」

「なんだ?」

「冒険者組合の情報を探っていたのじゃが……幾つか面白い情報が出ておるぞ」


 シャルムは魔法で作り出したモニターのような物を見ている。各種の情報が記録されているようだ。


「ほう、どんな情報だ?」

「まずは……傭兵団体のアゾットタウン占拠計画じゃな」


 シャルムは画面を見ながら、静かに話し出した。
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