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カルテ#18 アンナの依頼、「ユニコーンの羽を手に入れろ」-召喚士と召喚術について-
しおりを挟む「それで王様からの命令でユニコーンの羽を取ってこいと…」
「ええ、王宮の新しい召喚士様の言いつけらしいのです」
「…そんなレア素材、何の召喚に使う気なんだ?
そんなものなくても大抵の召喚はできるだろうに」
アンナの話を聞いたルキがぶつぶつと一人でつぶやく。
私は彼がうっかり口を漏らさないように見張りながら、
アンナに促した。
「ユニコーンの羽を取ってくるために危険地帯である
マザスゴの森に男たちが駆り出されたと」
「ええ、あの森の奥には精霊や聖獣の住処があります。
しかし、その手前には恐ろしい魔物がうじゃうじゃいるのに。
そんなところに何の力もない平民が足を踏み入れて
無事でいられるはずがありません。
どうかユニコーンの羽を手に入れて、お父さんたちを
早く森から返してほしいんです」
「そうか。…ルキ、どうする?」
正直私はその森がどれほど危険で、
ユニコーンの羽を手に入れることが
どのくらいの難易度なのかもわからない。
「聖獣たちのいる奥の森まで行くことはできるよ。
でもユニコーンに近づけるのは清らかな乙女だけだ。
それが解決できれば大丈夫だけど…」
「ふむ。そうか。それならいい解決方法がある」
「…なんでオイラが…」
「うん、見立て通りだ。よく似合ってるよルキ」
「それでなんで桜先生は女装してないの?」
「私はどう考えても『魔王の花嫁』の時点で清らかな乙女ではないだろう」
「オイラも別に桜先生の女装見たいわけじゃないけど、
桜先生はオイラの性別わかってる?」
「もちろんわかってるよ、だが今の君はどこからどう見ても清らかな乙女だ。
…ほらアンナのためだろう。
それとも彼女をあんな危ない森に行かせる気かい?」
「わかってるよぉ…」
ルキは本当に女の子よりも可愛くなっていた。
元々かわいい顔をしていたが、女の子の恰好をすることで
性別を超えた可愛さを見せつけていた。
私はまぶしさに目を細め、いい仕事をしたと自画自賛する。
「あっ!もしかして、ルキさん?本当に?
可愛い!すごい可愛いです!」
ちょうど着替えたルキのところにアンナもやってきた。
彼女は興奮に顔を赤く染めて、ひたすらルキの出来栄えに
『かわいい、かわいい』と繰り返していた。
当のルキはとても複雑そうな表情でそれを見ている。
「オイラ、可愛くなりたいわけじゃないけど…」
「では、そろそろ行こうか、お姫様」
「悪乗りしないでよ。桜先生」
満点の笑顔のアンナに見送られて、私とルキは森へと向かった。
「オイラずっと気になっていることがあるんだ」
「何のことだい?」
「…王宮の新しい召喚士のことなんだけど」
「それは君が謹慎処分になって私と一緒に牢屋に入れられた後、
君の代わりとしてやってきた人かな?」
「オイラも直接会ったことはない。遠目で見ただけだけど、
…同じ召喚士として、あいつは危険だと思う」
「どういうことだい?」
「魔法使いにはそれぞれ、魔力の質?があるんだよ。
特に召喚士はそれが特殊で、万物、特に高位の存在に好かれるような
魔力を持っているらしいんだ。召喚は基本双方向のやり取りだから、
相手がこっちの召喚に答えてくれないと普通は成り立たない」
「でも私は気づいたら召喚されていた気がするんだが」
「同じ人間だからね。オイラとよっぽど相性が悪くなければ
基本自分と同等か下位の生物の召喚はオイラの命令の方が優先される」
「君はすごい召喚士なんだね」
「え…今更?とにかく話を戻すと、新しい召喚士は魔法使いとしては
上等な魔力を持っているけど、召喚士としては…言いたくないけど向いてない」
私は隣で珍しく真剣な表情で話すルキを見つめる。
王宮の召喚士としての立場を取られた嫉妬に駆られて口走っているような
様子は見受けられなかった。
「だからさ、召喚士として向いてない魔法使いが召喚を成功させるためには
何が必要かって言うことだけど…」
「そこでレア素材かい?」
「そうだよ、自分の魔力で召喚ができないなら代わりのものを捧げて
言うことを聞かせて召喚に応じてもらうしかない。それか生贄かな。
…多分、あの召喚士に召喚をさせ続ければ、次に求められるのは生贄だ」
「君は、それを言ってどうすると言うんだい?
今更王宮に戻っても待っているのは処刑台だろう?」
「わかっている。わかっているけど、この国の人たちが召喚の生贄に
されるんだろうと思うと、いやだよ、助けたい、当たり前だろ桜先生!」
「わかっている。君の気持はわかるよ、ルキ。
だけど今はアンナの家族を助けるために集中しよう」
「…わかったよ」
それから私たちは道すがら色々な話をした。
「今回のユニコーンだけど、君の召喚術で召喚はできないのかい?」
「ユニコーンの召喚の魔法陣がないんだよ。とてもプライドが高い生き物だから。
召喚に応じてくれないんだろうね」
「そういえば無機物には魔力はあるのかい?
君は前に異次元の扉を召喚したことがあると言っていただろう?」
「あるよ。万物に魔力はある。その魔力にも上位、下位があって、
相性もある。生き物と変わりないさ。一応意識もあるんだよ。
オイラ達生物ほど明確にはないけど」
「本当にこの世界は驚かされることばかりだ。
でも私の母国にも八百万の神々という言葉があってね。
森羅万象に神々が宿ると言われているんだ。
なんだか通じるものがあって驚いたよ。
でも君は王宮の人たちには
あまり好かれてはいないようだったけど…」
「うっ、…はっきり言うなぁ、桜先生。
確かに魔力と人格は別物だって、
オイラの先生が言ってたよ。
特に人間は人格を見るものだからって」
「でも、君は本来は多くの人に愛される性質だと思うよ。
私も君にはとても助けられた。
その本質を無理矢理隠して、
らしくもなく偉そうにしてたから
王宮では好かれなかったんだろう」
「…」
「いいさ、そんなに気にしないでくれ。
オジサンの戯言だとでも思ってくれたらいいよ。
ほら、そんなことを言っているうちに森の入り口だ。
さぁここからは魔獣がうろつく危険地帯らしいから
気を引き締めていこうか」
「うん、桜先生」
前を歩くルキの耳が少し赤くなっている。
これは少々いじりすぎたかなと反省した。
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