【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二二話 重ねる約束

第二二話 三

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「隣じゃなくて、後ろを歩くから。それに、さっき会ったときも、様子、いつもと違ってた」
「そ、れは……」
 言葉に詰まったあかりは視線を泳がせている。結月はそんなあかりをじっと見つめていた。
(千夜ちゃんといたから……なんて、言えないわ)
 同い年で同性のあかりから見ても千夜は可愛らしい少女だと思う。
 結月に限ってないとは思うが、もしもの可能性だってないわけではない。
 結月に自覚があるのかはわからないが、彼の美しい容姿や心優しい性格に好意をもつ女子は少なくない。
 青柳家の家臣である桜子や玄舞家の家臣である椿などは結月に対してその気はないということを知っているのでまだいい。けれど千夜は彼女達とは違って、結月に恋心を抱いているとあかりは気づいている。だからこそ気が気でない。
 あかりは結月と付き合いが長いし、幼なじみという強いつながりもあるが、それでも不安なものは不安だった。
 しかし、それを正直に結月本人に言うのは躊躇われる。
(私ってこんなに心が狭かったの……?)
 特別な幼なじみとはいえ恋人同士ではないのだ。それなのにこんなことを思っていると知られたら、狭量だとか重いとか思われるのではないかと落ち着かない。
「……」
 あかりの黙考している時間が長いことで、結月はあかりにとって訊かれたくないことだったと判断したらしい。「あかりが嫌なら、追及しない」と淡々と言うと再び廊下を進みだす。あかりはほっとしたような残念なような何とも言えない気持ちで、やはり結月の半歩後ろを歩くのだった。
 微妙な空気で二人とも黙って歩いていると、やがて清めの水とお神酒がそれぞれ入った瓶の置いてある部屋に着いた。
「お神酒の方はおれが、持つ。あかりは、水の方を持ってもらっていい?」
 そう言って結月から手渡された瓶をあかりは受け取る。瓶いっぱいに水が入っているため、ずっしりと重い。あかりはとり落とさないように瓶をしっかりと抱え直した。
 結月は結月であかりが持つ瓶と同じくらいの大きさの瓶をひょいと事もなげに持ち上げる。線が細くて儚げに見えても、やはり結月は男子なのだとあかりは惚けていた。
「それじゃあ、昴のところ、行こう」
「あ、うん」
 結月の声に我に返る。あかりは結月とともに青柳家の邸を出発した。
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