【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

文字の大きさ
上 下
307 / 388
第二二話 重ねる約束

第二二話 四

しおりを挟む
 最初こそきまり悪くてあかりの口数は少なく、結月のやや後ろを歩いていたが、次第に元の調子を取り戻していき、目的地まであと半分という頃にはいつものように結月の隣で楽しく話せるようになっていた。
 瓶が重いせいか腕や手指の感覚があいまいになっていくが、落としてはいけないとあかりは何度か瓶を抱え直した。
 ようやくついた玄舞家の玄関であかりが「ただいまー」と声をあげると、しばらくして秋之介がやってきて、快活な笑みとともにあかりと結月を出迎えた。
「おかえり、あかり。ゆづもよく来たな」
 通りかかった玄舞家の家臣が気を利かせて二つの瓶を運んでくれる。
秋之介はあかりと結月に上がるように促した。
 幼なじみ四人でよく集まる客間には先に秋之介がいて、珍しくお茶の用意をして待ってくれていたらしい。
「上手くはねえけど、お茶な」
 秋之介が淹れた三人分のお茶を各人の前に置く。
 あかりが卓の前に座ろうと一歩を踏み出すとふらりとよろめいた。隣にいた結月がすかさずあかりの身体を支え、心配そうにあかりの顏を覗き込む。
「あかり、大丈夫? 瓶運ぶの、やっぱり大変だった……?」
「んー。そんなことなかったよー?」
 結月があかりから身を離すと、あかりはどこか危うい足取りで卓に向かおうとする。静観できなかったらしく、結月はあかりの手を取ったが、そこでじわりと目を見開いた。
「あかり、手、熱い。熱、あるの?」
「は? 風邪でもひいてたか?」
 ひとまずあかりを座布団の上に座らせると、結月はあかりの額に手を当てた。
「熱いけど……。あかり、調子、悪くない?」
「ぜーんぜん。元気だよー」
 結月は困ったように眉尻を下げながら、秋之介を見た。
「昴は?」
「ちょうど御上様のとこに行ってんだよなぁ……。まだ時間はかかるだろうし」
「そう……。ねえ、あか……」
「ねー、結月ー」
 結月の言葉をあかりの声が遮る。呼ばれるままに結月はあかりを振り返って、思わず息をのんだ。
しおりを挟む

処理中です...