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第一九話 水無月の狂乱
第一九話 一〇
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今日は曇りがちなため縁側の向こうから射しこむ光は弱く、室内は薄暗かったがそれでも梓の表情はおぼろげに見て取ることができた。
梓は秋之介の声に促されるようにしてゆるゆると顔を上げた。あかりと昴、そして秋之介の姿を視界に映すとぱっと笑顔になる。本来なら愛する夫を亡くし悲しみに暮れているはずの梓からは考えられないような晴れやかな笑顔だった。
あかりも昴も努めて顔に出さないようにしていたが、実の息子である秋之介だけはぐっと堪えるような厳しい顔をしていた。
しかし梓は秋之介の表情の変化には気づかず、笑顔のまま話し続ける。
「待ってたんだよ、菊助。あかりちゃんと昴くんもいらっしゃい」
「……」
「こんにちは、梓おば様」
「こんにちは。お邪魔しますね」
梓は部屋に用意していた茶器を引き寄せると手ずから茶を注ぎ始める。湯飲みをめいめいの前に置きながら、梓はあかりと昴を見て言った。
「それにしても二人だけってのは珍しいね。秋とゆづくんはどうしたんだい?」
「結月は霊符をつくるのに忙しいみたい。……秋、は……」
気まずく思いながらあかりは秋之介をちらりと見た。秋之介は悔しげに顔を歪ませ、声を引き絞る。
「……俺のこと、やっぱりわかんねえのかよ、お袋……」
「うん? 何か言ったかい、菊助?」
「……いや、いいよ」
秋之介は諦めと苦さの入り混じった硬い声で短く答えた。
昴はそんな秋之介を横目にちらりと見てから、梓に向き直った。
「ところで梓様。怪我の具合はどうですか」
「大したことないさ。ちょっとした火傷で、いつついた傷なのかも覚えていないようなものだしね」
昴は頷いたが念のためにと軽く診察を始める。
その間邪魔にならないようにと、あかりは秋之介とともに部屋の隅に移動した。あかりの隣で胡坐をかいて座りこんだ秋之介の顔は薄暗い室内でもわかるほどに意気消沈していた。
「秋……」
あかりがかける言葉に迷っていると、秋之介が先に口を開いた。
「いいんだ。なんとなく今日もこうなるだろうって予想はしてたし……」
言葉とは裏腹に秋之介の顔は暗いままだった。頭ではわかっていても気持ちが追いつかないのだろうことは容易に察せられた。
「それに、俺はともかく、お袋にとってはこの方が幸せなのかもしれないしな」
「……」
秋之介の自身を無理矢理納得させるような物言いに、あかりは肯定も否定もせずに、ただ黙っていた。
梓は秋之介の声に促されるようにしてゆるゆると顔を上げた。あかりと昴、そして秋之介の姿を視界に映すとぱっと笑顔になる。本来なら愛する夫を亡くし悲しみに暮れているはずの梓からは考えられないような晴れやかな笑顔だった。
あかりも昴も努めて顔に出さないようにしていたが、実の息子である秋之介だけはぐっと堪えるような厳しい顔をしていた。
しかし梓は秋之介の表情の変化には気づかず、笑顔のまま話し続ける。
「待ってたんだよ、菊助。あかりちゃんと昴くんもいらっしゃい」
「……」
「こんにちは、梓おば様」
「こんにちは。お邪魔しますね」
梓は部屋に用意していた茶器を引き寄せると手ずから茶を注ぎ始める。湯飲みをめいめいの前に置きながら、梓はあかりと昴を見て言った。
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気まずく思いながらあかりは秋之介をちらりと見た。秋之介は悔しげに顔を歪ませ、声を引き絞る。
「……俺のこと、やっぱりわかんねえのかよ、お袋……」
「うん? 何か言ったかい、菊助?」
「……いや、いいよ」
秋之介は諦めと苦さの入り混じった硬い声で短く答えた。
昴はそんな秋之介を横目にちらりと見てから、梓に向き直った。
「ところで梓様。怪我の具合はどうですか」
「大したことないさ。ちょっとした火傷で、いつついた傷なのかも覚えていないようなものだしね」
昴は頷いたが念のためにと軽く診察を始める。
その間邪魔にならないようにと、あかりは秋之介とともに部屋の隅に移動した。あかりの隣で胡坐をかいて座りこんだ秋之介の顔は薄暗い室内でもわかるほどに意気消沈していた。
「秋……」
あかりがかける言葉に迷っていると、秋之介が先に口を開いた。
「いいんだ。なんとなく今日もこうなるだろうって予想はしてたし……」
言葉とは裏腹に秋之介の顔は暗いままだった。頭ではわかっていても気持ちが追いつかないのだろうことは容易に察せられた。
「それに、俺はともかく、お袋にとってはこの方が幸せなのかもしれないしな」
「……」
秋之介の自身を無理矢理納得させるような物言いに、あかりは肯定も否定もせずに、ただ黙っていた。
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