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第六話 幸せはいつもそばに
第六話 一七
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食べながら玄舞大路に連なる屋台を眺め歩く。酒の入った客が増えたからか、通りの賑やかさは増す一方だ。お祭りの雰囲気にあてられた子ども達が興奮気味にあかりの脇を駆け抜ける。みるみる小さくなる背はやがて人混みの中に消えた。
「小さいときの私や秋みたい」
時間帯こそ昼間の話だが、元日で賑わう通りをあかりも秋之介も駆け回ったものだ。そのあとを決まって結月と昴が追いかけ、両親たちは注意しながらも微笑ましげに見守っていた。
蘇る思い出は優しいもののはずなのに、もう二度とは戻らない現実に胸が切なく締め付けられる。あかりが複雑な表情をしていることに気づいた結月は、そっとあかりの右手に手を添えた。すると幼いころからそうだったように、次第に心が安らいできた。
(そうだ……。還らない人も叶わない理想もあるけど、私はひとりじゃない)
手を握り返して大丈夫だと伝えると、言葉を介さずとも結月にはわかったようだった。結月は安堵の微笑を浮かべた。
右手のぬくもりを失い難く感じたあかりはそのまま手を繋ぎ続けた。結月は特に何も言わなかったが、少なくともその横顔からは抵抗の色はうかがえなかった。
それからも会話を挟みながら通りを進んでいると、ある屋台にあかりの目が釘付けになった。視線を辿った結月が「気になるの?」とあかりの顔を覗き込む。
「うん。懐かしいなーって」
「型抜きといえば、よくみんなで競い合ったよね」
爪楊枝を使って薄桃色の小さな板から型をきれいに削り出す、単純だがなかなかに技術を要する遊びは、お祭りで幼いころの四人が夢中になってやっていたことのひとつだった。
「成功すると景品がもらえたんだよね」
「そう。それであかりが欲しいって言ったものを、おれや昴がよく取った」
「私は不器用だし、秋は集中力がなかったからなかなかうまくいかなくて。よく駄々をこねたなあ」
「時間あるし、やってみない?」
「いいね。そうしよう」
「小さいときの私や秋みたい」
時間帯こそ昼間の話だが、元日で賑わう通りをあかりも秋之介も駆け回ったものだ。そのあとを決まって結月と昴が追いかけ、両親たちは注意しながらも微笑ましげに見守っていた。
蘇る思い出は優しいもののはずなのに、もう二度とは戻らない現実に胸が切なく締め付けられる。あかりが複雑な表情をしていることに気づいた結月は、そっとあかりの右手に手を添えた。すると幼いころからそうだったように、次第に心が安らいできた。
(そうだ……。還らない人も叶わない理想もあるけど、私はひとりじゃない)
手を握り返して大丈夫だと伝えると、言葉を介さずとも結月にはわかったようだった。結月は安堵の微笑を浮かべた。
右手のぬくもりを失い難く感じたあかりはそのまま手を繋ぎ続けた。結月は特に何も言わなかったが、少なくともその横顔からは抵抗の色はうかがえなかった。
それからも会話を挟みながら通りを進んでいると、ある屋台にあかりの目が釘付けになった。視線を辿った結月が「気になるの?」とあかりの顔を覗き込む。
「うん。懐かしいなーって」
「型抜きといえば、よくみんなで競い合ったよね」
爪楊枝を使って薄桃色の小さな板から型をきれいに削り出す、単純だがなかなかに技術を要する遊びは、お祭りで幼いころの四人が夢中になってやっていたことのひとつだった。
「成功すると景品がもらえたんだよね」
「そう。それであかりが欲しいって言ったものを、おれや昴がよく取った」
「私は不器用だし、秋は集中力がなかったからなかなかうまくいかなくて。よく駄々をこねたなあ」
「時間あるし、やってみない?」
「いいね。そうしよう」
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