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第3章 淫武御前トーナメントの章

エピローグ

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 エピローグ
 
 ナツキ達一行が、決勝戦の舞台である仮想空間から脱出出来たのは樽男の花火が打ち鳴らされてから一ヶ月くらい後の話しだった。

 結果からいうと、淫武御前トーナメントはくノ一チームの優勝によって幕を下ろした。
 とはいえ、主催者含む大会の関係者の殆どが消えたことによって、優勝賞品は無し。表彰式すら行われず、締まりの無い終幕となったのであった。
 それでもオネエは上機嫌だった。

「ナツキちゃんはほんっとーに気が利くわね! このヨウカン高かったんじゃないのかしら!?」

 ――龍司の子である淫魔の壊滅。400年以上ものあいだ戦い続けてきた目的が、優勝したことによって達成されたからだろう。
 それに、断ち切ることを諦めていた、死んだと思っていた兄・龍司との因縁にも完全に終止符を打てたのだ。はっきり言ってこの大会は、オネエの一人勝ちと言っても良い戦果だった。
 
 それでもオネエは負傷が激しく、大会後、4町隣の市中病院に入院することになった。
 だが、入院患者とは思えないくらいに、いつお見舞いに来ても元気いっぱい……って……。

「……ちょっと! そのヨウカンオネエに買ってきたんじゃない!」

 無神経なオネエにナツキが罵声を張り上げる。
 そこへとオネエと相部屋の入院患者が戻ってきたのだった。

「ナツキー、廊下まで声が響いてたよー」

「エリナ!!!」

「なっ、なに急にっ!?」
 
 葉月の力を持ってしても、エリナの痛みは肩代わりできなかった。それほどまでに、エリナは深い傷を負っていたのだ。
 エリナの心臓は鼓動を失い、ナツキも友の生を諦めた。
 しかし、エリナが肌身離さず持ち歩いていた宝具【逆さま玉手箱】のお陰で、エリナは一命を取り留めたのである。
 ナツキに殺される少し前まで時を遡って、エリナは現世に戻ってきたのである。
 そして、やっと今日、面会謝絶が解かれたのである。
 それで、ナツキは高級和菓子屋で買ったヨウカンをお見舞いに持ってきたのだが……。
 
「はぁ……」

 綺麗さっぱり平らげられたヨウカンの包みを見て、ため息が漏れる。しかし、普段と変わらないエリナを見て、ちっぽけな悩みへと変わった。

「エリナ、身体はもう大丈夫なの?」

「あ~はは。また力が使えなくなっちゃったけどねー」

 エリナが少し苦そうな顔で、笑いながらに言った。
 玉手箱の影響なのか、エリナはロリ小学生の見た目でありながらも、また力が使えなくなってしまったのだ。

「忍術使えたら榎本探すの楽勝だと思ったんだけどね~まぁ、しょうがないよね。一回捨てたものだし」

「手伝えるよ! 私は忍術使えるから! エリナが退院したら一緒に榎本君を探そ!」

 榎本君は四肢をバラバラにされた。
 しかし、その遺体は姿を消したのだ。
 ……恐らく生きている。
 そんな榎本くんを助け出すために、エリナは大会に参加したのだが、――危うく榎本君を助けるどころか、エリナまで死んでしまうところだった。

 しかし、榎本君を助けようと持ち歩いていた玉手箱のお陰で、エリナは助かったのだ。2人には切っても切れない絆のようなものがあるのだろう。

「なぁにぃちょっと~友情ごっこかしら? はっきり言ってあなたたち、病室の空気悪くしてるわよ? 病気で苦しんでいる人たちの気持ちも汲み取れないのかしら?」

 大会で全てを手に入れたオネエが、どういった訳か絡んできた。空気を悪くしているのが自分だと言うことも分からずに。これ以上何がしたいというのだろうか。

「服部も一緒に榎本探すー?」

「仕方ないわねぇ……。凄く忙しいけど、そこまで深々と頭を下げられたら断れないわ!」

 どうやらオネエは暇だったらしい。
 淫魔を狩り続けてきたオネエが、目的を成就したのだから当然と言えば当然なんだけど……。しかし、どういった訳かエリナはオネエの扱いが得意になっていた。

 同じ病室に入院しているから? ……油断できない。
 エリナをジッ、と見詰める中――コンコン、病室の扉を開けて、白衣に身を包んだ男の人が入ってきた。

 メスが似合いそうな細い指で、後ろ手にドアノブを閉じた男は、知性を感じさせるサファイアのような青い瞳をしていた。それでいて鼻も高い。
 そのうえ、スラッと身長が高くて、完璧ともとれる男を前に、ナツキはしどろもどろしてしまう。

「おや? ナツキさんも来ていたのかい?」

「…………? ……なっ!?」

 聞き覚えがありすぎる声なのに、その声から導き出される容姿ではなかったため、すぐには結びつかなかった。

「……金田……樽男?」

 男の表情を伺いながら、試し試し聞くとぐっ、と顎を引いて深く頷かれた。

「……生きていたの?」
 
 ナツキは金田樽男が死んだと聞かされていたのだ。
 樽男は決勝戦の舞台で、葉月とエリナの負傷を分裂体で受け止めた。
 しかし、トラブルが起きて、分裂体ではなく本体で痛みを肩代わりしたというのだ。
 そのせいで、分裂体ではなく、金田樽男本体が粉々になった。
 そうナツキは聞かされていたのだ。

「葉月さんに協力してもらって、顔とか、身体とか、なんとか再生出来てね……助からないと思っていたんだが、……はぁ……よかったよ」

 顔はハンサムになっているのに、声や仕草がくたびれすぎていた。しかし、本来ならば、樽男はこの場で斬り捨てられてもおかしくないほどにくノ一3人に迷惑を掛けた。
 だが――
『分裂じゃ痛みを肩代わりできない!? なぜだね!?』
『そんな卑怯なこと出来るわけないでしょ先生。だから本体で受け止めてもらうしかないわねぇ』
『死っ、死ぬに決まっている!! ナツキさんが天然ボケなお陰で分裂体しかやられなくて助かったのにこれでは元も子もないじゃないか!!』
『時間がありませんわ!』
『こっちは命もない!!』
『葉月さんやっちゃって、早く!!』
『はっ、服部ふざけるなっハットリィイイイイイイイ』

 ヴォンッ!! ヴボォッ! ヴォン! ビュボンッ! ビュルルルルルーーーッ!

 ――本体じゃないと痛みを肩代わり出来ないと分かっても、樽男は身代わりとなって痛みを受け止めて、人柱になったと聞かされては責められない。

 ナツキはエリナを抱き締めて泣き叫んでいて気付かなかったが、どういった訳か樽男は全ての責任を一身に背負い、身代わりになったと聞かされていたのだ。

『先生の最後は立派だったわ、ナツキちゃん』
 
 この話を聞いていなかったら、少しくらい……ではなく、かなりイケメンになっていても、ナツキは裏切り者の金田樽男を八つ裂きにしていただろう。

「よかったね樽男」

「若返っただろう?」

 若返ったというか、別人なんだけどね。

「次の選挙が楽しみだ」

 それはほんとうにもう……。
 ほんとうに色々と楽しみだね。

 一件落着である。
 しかし、謎が多く残された。
 一番不可解なのは、龍司。
 結局淫魔を組織していた理由が何一つとして分からなかった。マモンが言ったように、狙いなんてないんじゃないかと思うくらいに、何一つとして分からなかった。
 だから2人が退院したら、また生死を賭した戦いが待っている。気がする。
 あれだけ嫌だった非日常も、2人と一緒なら「ありかもしれない」そう思ったナツキであった。
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