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第3章 淫武御前トーナメントの章
28話 翔子VSマーラ
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28話 翔子VSマーラ
ナツキと翔子ことオネエは罰ゲームを強制されていた。
しかし、コートで罰ゲームを受けているナツキと違い、翔子が連れられた場所は、拷問部屋とは名ばかりの豪奢な一室だった。
プールの見える庭があって、そこから差し込む月光が、翔子の座るバーカウンターを妖しく照らしていた。
しかしここは小洒落たバーではない。
マーラの控え室だった。
大会の規模を考えたらこれくらいの部屋簡単に用意出来るのだろうが、翔子たちが使っている控え室と比べたら雲泥の差である。
「こんなところで一緒にブランデーを飲むのが狙いな訳じゃないでしょ?」
カウンターを挟んで座るマーラに問い質す。
「――ナツキ少年が壊された一部始終を見せられても冷静なんだね、翔子くん」
部屋の小さなテレビには、肉便所にされてしまったナツキの様子が映し出されている。次から次へと群がる男達が、死骸を荒らすカラスのような陰惨な光景を演出していた。
――ナツキへの陵辱が始まって早一日。
日程が狂わなければ、次の試合まで残り二日。
相手が一般人なら、ナツキも問題なく過ごせただろうし、心配だってしなかった。
しかし、コートの状況が自在に変更されてしまう以上、相手は忍びよりも淫魔よりも厄介にだってなり得る。いくらナツキが実力者であっても、耐えられるのか怪しい。
そして、発情から何から何までナツキの状態を変更出来るということは、翔子の状態も変化させられることを示唆している。
冷静では無かった。
冷静なフリをしていないと、更に状況が悪化するのが目に見えている。それゆえ感情を抑えているに過ぎなかった。
「ナツキ少年は、一日しか経っていないのに壊れてしまったようだね翔子くん。翔子くんは壊れないでいられるかな?」
「はぁ……知らないわよ。丸一日無駄に使ったって事は、アタシにはもっとえげつないことでもするのかしらぁ?」
「いいや。翔子くん。ワタシ達の狙いは君達3人を意のままにするところにある。しかし、それ以上にワタシはキミと再戦を果たしたかった。――これはワタシの個人的な理由だ」
「はぁ……。マモンはアタシを娶るのが狙いだったって聞いたけど、あなたはマモンとは違うのかしら? ――説明願いたいものねぇ」
「淫魔は長いこと人間世界で暴れていない。少なくとも、翔子くんを始めとする対魔忍に1度殺された淫魔は人間界に牙を剥いていない。――マモン少年のような若輩は置いておくとして、長いこと共存の道を選んできたつもりだ」
「共存? よく言うわねぇ。五年ものあいだ死んでもおかしくない拷問に掛けておいて。――それにその言い方だと、これからは戦争でも仕掛けてくるつもりかしら?」
「マモンが余計な真似をしたお陰で準備は整った。――キミの兄上からの伝言だ」
兄と名乗られるだけでも虫唾が走る男。
生き方から何から何まで狂わせた男。
「あの男が、……生きているの、……かしら?」
――翔子の育った里が焼け野原にされた当時。唯一の生き残りであった翔子は1人身を隠した。
火事ではない、人災。それくらいは跡地を見ればすぐに分かる。
痕跡さえ残さず、元から何もなかったように里の全てが焼け野原にされていたのだから。
それだけではない。
今で言う忍びの力の出処(不死鳥・影遁の術等々)がこの時まで世に知れたことはない。にもかかわらず、里が消されてすぐに、千里を駆ける勢いで不死鳥の存在が世に知れ渡ったのだ。
人の力が、――不自然な力が加わって、忍術の正体が明かされていることは明らかだった。そんな決まりの悪さを感じる翔子であったが、手掛かりも、そして手掛かりを探す時間もなかった。
それもこれも、不死鳥を追い掛けてくる、忍び衆からの追撃から逃れる忙しない日々を送っていたせいだった。
そんな余裕のない日々を送っていた翔子に吉報がやってくる。
兄が生きていたと聞かされたのだ。
その兄が捕虜にされていると聞いた翔子は、己の身を差し出すことを決意する。
――兄の身の安全を交換条件に。
*****
「お、おにいさまっ、生きてらっしゃったんですね……。アタシのせいで、――申し訳ございませんっ。でももう大丈夫ですわよっ――」
「ひさしぶりだなぁ翔子。なかなか会えなくてこんな呼び出し方しちまったわ」
「おにい、さま? 呼び……出し方? おにい、……さま?」
「不老不死を量産できるか試そうと邪魔な両親消したまではよかったんだが、里を焼いたせいで離れ離れになっちまったなぁー翔子。でももう安心だ」
「……ど、どういう……こと、かしら?」
「肝心の翔子と生き別れになっちまっちゃー元も子もないわなぁ。でももう大丈夫だ。――とりあえず、10匹生んでくれ」
「……お、おにい、様?」
「お前等! あとはきっちりやっとけよ!」
「「「「「ヘイッ!!!」」」」」
混乱の渦に飲まれたこの日から、翔子は休みなしの陵辱を繰り返された。忍びだけあって命を落とさせるようなへまはこかず、限界な状態で犯され続けた。
その陵辱は、翔子の持つ不死鳥では不老不死の子どもを生めないと実証されるまで続けられた。――実に五年ものあいだ、翔子は忍者から犯され続けたのである。
そう、翔子には淫魔は生めない。
翔子と淫魔に直接的な血縁はなかった。
ではどうして不老不死の存在・淫魔がこの世に生まれるのか。
兄が孕ませた子供に、そういった力が宿るのだ。
翔子の一族の男に、不死を授ける能力があると判明して翔子は解放されたのである。
――あの男が。生きて……いたのね……。あの男は不死身ではない……。
不死の力がないのにどうやって……。
(そんなこと、今となってはどうでもいいわっ……この世にはもう残骸しかないと思っていたあの男が、生きているっ)
「――準備が整ったですって? 上等よ!! もう絶滅してると思ったから嬉しいわね!!!! アタシがぶっ殺してあげるわ!」
「翔子くん。――ワタシを倒したら、兄上と再会できるぞ。そして、キミの兄上はナツキくんとエリナくんを使って淫魔を生ませるつもりだ。止められるかな!?」
「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」
身体にぴたっと張り付く黒のタイトスカートに隠れた太もも、常に忍ばせてある指の数だけの棒手裏剣。それら全てを奇声と同時に投げ付けた。
異様に発達した筋肉男が、バク転バク宙を繰り返して手裏剣を避けながらプールのある庭へと跳ねながらに逃げていく。すかさず追いかける翔子。
「!?」
しかし庭に出たときには、マーラの姿を見失っていた。
目視、気配の両方を辿ってここまできた。見失うはずがない。
――はじめから人形だったのかしら?
ヒタッ……、とゆっくりと目を瞑り、身体をふわりと脱力させて空気と同化し気配を探る。そんな翔子目掛けて襲い掛かる水球。
バチィンッ! 弾き飛ばすも、ピシャン、ピシャン、ピシャンッ! とバレーボールサイズの水の固まりが次から次へと襲い掛かってくる。
巨大なプールから水球が形成されて飛んでくる。
その全てを避け、弾き、去なす翔子。ブレザージャケットに塩素水を吸わせつつも、それがダメージになることはない。
四方八方からの水玉の全てを、しなやかな演舞の早送り動画のように踊って捌く。
防御に専念している翔子、その頸動脈を狙って背後に現れながらにマーラが回し蹴りを放った。
「ッオオオリャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ドンッ!! 蹴られた翔子の身体がグルンッグルンッと回転して、括られていた髪の毛が解けてマントのように靡いた。
ドダンッ……、とプールサイドに伏せる翔子。見下ろす巨漢マーラ。
「強くなったわね。……マーラ」
「ぐ、ぐぐっ…………ぐ……」
奥歯をギチギチ鳴らしながら苦しげに見下ろすマーラに巻き付く、絹織物のように長い翔子の髪の毛。それが返事を許さなかったのだ。
そう、翔子はマーラの蹴りを髪の毛をマント代わりに去なし、勝利を確信して出来た隙を突くように、髪の毛で首を締め上げたのだ。
「さっきあなたは、あなたを倒したらあの男が来るって言ったわね」
髪の毛で首を絞めつつ吐息で唇を撫でながらに問い詰めると、マーラは一瞬強く硬直する。グ、ギッ……、一段締め上げを強めたところで、マーラは慌てて首を2度振り頷いた。
(……マーラの死がスイッチになって、あの男が現れるのかしら)
出来ることなら今すぐに倒してしまいたい。
淫魔製造機をこの手で壊してしまいたい。
しかし、身体を自由にされてしまうこの状況で戦うのは愚策。ならばマーラの言葉を封じつつ、罰ゲームの時間が終えるのを待つが上策。
まずは振り出しに戻すことを優先しよう。
そう決めた翔子であったが、ペースを自分で運ぶことは許されなかった。
「久しぶりだなぁ翔子。会いたかったよ」
翔子がマーラを締め上げるプールサイド、その反対サイドに置かれている折りたたみ式のレジャーベッド。そこに寝そべった男から、反対方向を向いたままに声を掛けられた。
遠くから聞こえてきた育ちの悪そうな声。
しかし聞き間違えが起きないほどに、憎い男の声には、耳は過敏だった。
「おにっ……、龍司っ!!!」
翔子が龍司と呼んだ男は、読んでいたであろう雑誌をクルクル丸めながら寄ってくる。似合わないサングラスに短パンに草履だけを身に付けた、まるで常夏の観光客のようなふざけた格好だった。
なんで生きているの、なんで今まで隠れていたの、なんでいまさら姿を見せたの。
何を聞こうか、いや、何を言ってやろうか、その選択肢の多さに続ける言葉がすんなりとは出てこなかった。
幻では無いと分かる目の前にまで迫られて、この時やっと頭で整理が付いた。
「させないわよっ。ナツキちゃんとエリナさんを好きにしようとしているらしいけど、絶対、させないわよ」
「いや、きちんとやらせてもらうわ。ブラコンの翔子の目の前で2人とも自然なままの姿に戻してやるよ」
「くっ……。だいたい今まで隠れてコソコソしてた癖して、どういうことよ!」
「この大会のルール悪用する気満々のマモンがヒントになってなぁ、オレ様の計画が一っ飛びしそうなんだわ。だから隠れてコソコソすんの止めて顔出したんだわ」
計画? なにを言っているのかしら?
この大会に出場している数千人からなる淫魔は、龍司の子どものようなものだ。
その戦闘能力は、この国を支配出来るだけの力を保有している。
……この国だけではないわね。世界広しと言えど、対抗できる軍事力があるかしら……? ……隠れてコソコソする必要なんてない。
「龍司、……今度は何を企んでいるのかしら?」
「敗者を好きに出来るルールを使えばくノ一だろうと孕ませられんだろ? ――このルール悪用したら5年間レイプしても子ども出来なかった翔子も子作りモルモット決定だ」
龍司は得意気に語り出した。
兄妹であった数百年以上も昔は、龍司の誇大を通り越した野望の話は子どもながらに聞いていて楽しかった。
しかし、今となっては戯れ言にしか思えない。それも幼稚。悪人がよく思い描きそうな、茂でさえ描いた残念な野望。
そして、その野望は今のアタシなら軽々と打ち砕ける。
四百年くらいのあいだに、もの凄い差が付いたわね。
「どうにもくノ一と淫魔の相性が悪くて合成させられねぇけど、このルールだと凄いの作れんだろ?」
「話を聞いても理解出来るはずが無いのに、長々聞いちゃうところだったわね――、今度こそアタシが引導を渡してあげるわ!! チェックメイッ!!?」
斬りつけようとしたところで翔子は異変に気付いた。
スーツが肌に擦れただけでビリンッ! と全身が静電気を帯びたような痛痒さを覚えたのだ。それは、呻きと一緒に身体が固まってしまうほどの不快感だった。
「なに、……こ、れっ…………なにを、したの、かしらっ……」
「罰ゲーム受けていることを忘れていたのか? 感度10倍だ。そしてこれで20倍! 30倍。どうかな? まだまだ上げられるぞ、翔子」
「っうあ!? く、うう……や、めっ、ふぅ……、ふぅ……っ!」
――頭に血が上っていたわ……。龍司と再会して、罰ゲームのことなんてすっかり、頭から抜けていたわよ。
迂闊に動くことさえ出来ないほどに肌の神経が昂ぶっていた。それなのに40、50と感度を引き上げられていく。
「うぅうあああ!? あガッ、はぁ…………あぁ……」
呼吸で僅かに生まれる摩擦でさえ耐えられなくなって、立っていることすらままならず、翔子はへなへなと座りこんでしまう。
そんな中、兄はまた言ったのだ。
「マーラ。命令したらなんでもするくらいに堕としておけ。いいな?」
「ま、待ってっ、り、龍司っ!」
こうして翔子への陵辱が開始されるのであった。
ナツキと翔子ことオネエは罰ゲームを強制されていた。
しかし、コートで罰ゲームを受けているナツキと違い、翔子が連れられた場所は、拷問部屋とは名ばかりの豪奢な一室だった。
プールの見える庭があって、そこから差し込む月光が、翔子の座るバーカウンターを妖しく照らしていた。
しかしここは小洒落たバーではない。
マーラの控え室だった。
大会の規模を考えたらこれくらいの部屋簡単に用意出来るのだろうが、翔子たちが使っている控え室と比べたら雲泥の差である。
「こんなところで一緒にブランデーを飲むのが狙いな訳じゃないでしょ?」
カウンターを挟んで座るマーラに問い質す。
「――ナツキ少年が壊された一部始終を見せられても冷静なんだね、翔子くん」
部屋の小さなテレビには、肉便所にされてしまったナツキの様子が映し出されている。次から次へと群がる男達が、死骸を荒らすカラスのような陰惨な光景を演出していた。
――ナツキへの陵辱が始まって早一日。
日程が狂わなければ、次の試合まで残り二日。
相手が一般人なら、ナツキも問題なく過ごせただろうし、心配だってしなかった。
しかし、コートの状況が自在に変更されてしまう以上、相手は忍びよりも淫魔よりも厄介にだってなり得る。いくらナツキが実力者であっても、耐えられるのか怪しい。
そして、発情から何から何までナツキの状態を変更出来るということは、翔子の状態も変化させられることを示唆している。
冷静では無かった。
冷静なフリをしていないと、更に状況が悪化するのが目に見えている。それゆえ感情を抑えているに過ぎなかった。
「ナツキ少年は、一日しか経っていないのに壊れてしまったようだね翔子くん。翔子くんは壊れないでいられるかな?」
「はぁ……知らないわよ。丸一日無駄に使ったって事は、アタシにはもっとえげつないことでもするのかしらぁ?」
「いいや。翔子くん。ワタシ達の狙いは君達3人を意のままにするところにある。しかし、それ以上にワタシはキミと再戦を果たしたかった。――これはワタシの個人的な理由だ」
「はぁ……。マモンはアタシを娶るのが狙いだったって聞いたけど、あなたはマモンとは違うのかしら? ――説明願いたいものねぇ」
「淫魔は長いこと人間世界で暴れていない。少なくとも、翔子くんを始めとする対魔忍に1度殺された淫魔は人間界に牙を剥いていない。――マモン少年のような若輩は置いておくとして、長いこと共存の道を選んできたつもりだ」
「共存? よく言うわねぇ。五年ものあいだ死んでもおかしくない拷問に掛けておいて。――それにその言い方だと、これからは戦争でも仕掛けてくるつもりかしら?」
「マモンが余計な真似をしたお陰で準備は整った。――キミの兄上からの伝言だ」
兄と名乗られるだけでも虫唾が走る男。
生き方から何から何まで狂わせた男。
「あの男が、……生きているの、……かしら?」
――翔子の育った里が焼け野原にされた当時。唯一の生き残りであった翔子は1人身を隠した。
火事ではない、人災。それくらいは跡地を見ればすぐに分かる。
痕跡さえ残さず、元から何もなかったように里の全てが焼け野原にされていたのだから。
それだけではない。
今で言う忍びの力の出処(不死鳥・影遁の術等々)がこの時まで世に知れたことはない。にもかかわらず、里が消されてすぐに、千里を駆ける勢いで不死鳥の存在が世に知れ渡ったのだ。
人の力が、――不自然な力が加わって、忍術の正体が明かされていることは明らかだった。そんな決まりの悪さを感じる翔子であったが、手掛かりも、そして手掛かりを探す時間もなかった。
それもこれも、不死鳥を追い掛けてくる、忍び衆からの追撃から逃れる忙しない日々を送っていたせいだった。
そんな余裕のない日々を送っていた翔子に吉報がやってくる。
兄が生きていたと聞かされたのだ。
その兄が捕虜にされていると聞いた翔子は、己の身を差し出すことを決意する。
――兄の身の安全を交換条件に。
*****
「お、おにいさまっ、生きてらっしゃったんですね……。アタシのせいで、――申し訳ございませんっ。でももう大丈夫ですわよっ――」
「ひさしぶりだなぁ翔子。なかなか会えなくてこんな呼び出し方しちまったわ」
「おにい、さま? 呼び……出し方? おにい、……さま?」
「不老不死を量産できるか試そうと邪魔な両親消したまではよかったんだが、里を焼いたせいで離れ離れになっちまったなぁー翔子。でももう安心だ」
「……ど、どういう……こと、かしら?」
「肝心の翔子と生き別れになっちまっちゃー元も子もないわなぁ。でももう大丈夫だ。――とりあえず、10匹生んでくれ」
「……お、おにい、様?」
「お前等! あとはきっちりやっとけよ!」
「「「「「ヘイッ!!!」」」」」
混乱の渦に飲まれたこの日から、翔子は休みなしの陵辱を繰り返された。忍びだけあって命を落とさせるようなへまはこかず、限界な状態で犯され続けた。
その陵辱は、翔子の持つ不死鳥では不老不死の子どもを生めないと実証されるまで続けられた。――実に五年ものあいだ、翔子は忍者から犯され続けたのである。
そう、翔子には淫魔は生めない。
翔子と淫魔に直接的な血縁はなかった。
ではどうして不老不死の存在・淫魔がこの世に生まれるのか。
兄が孕ませた子供に、そういった力が宿るのだ。
翔子の一族の男に、不死を授ける能力があると判明して翔子は解放されたのである。
――あの男が。生きて……いたのね……。あの男は不死身ではない……。
不死の力がないのにどうやって……。
(そんなこと、今となってはどうでもいいわっ……この世にはもう残骸しかないと思っていたあの男が、生きているっ)
「――準備が整ったですって? 上等よ!! もう絶滅してると思ったから嬉しいわね!!!! アタシがぶっ殺してあげるわ!」
「翔子くん。――ワタシを倒したら、兄上と再会できるぞ。そして、キミの兄上はナツキくんとエリナくんを使って淫魔を生ませるつもりだ。止められるかな!?」
「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」
身体にぴたっと張り付く黒のタイトスカートに隠れた太もも、常に忍ばせてある指の数だけの棒手裏剣。それら全てを奇声と同時に投げ付けた。
異様に発達した筋肉男が、バク転バク宙を繰り返して手裏剣を避けながらプールのある庭へと跳ねながらに逃げていく。すかさず追いかける翔子。
「!?」
しかし庭に出たときには、マーラの姿を見失っていた。
目視、気配の両方を辿ってここまできた。見失うはずがない。
――はじめから人形だったのかしら?
ヒタッ……、とゆっくりと目を瞑り、身体をふわりと脱力させて空気と同化し気配を探る。そんな翔子目掛けて襲い掛かる水球。
バチィンッ! 弾き飛ばすも、ピシャン、ピシャン、ピシャンッ! とバレーボールサイズの水の固まりが次から次へと襲い掛かってくる。
巨大なプールから水球が形成されて飛んでくる。
その全てを避け、弾き、去なす翔子。ブレザージャケットに塩素水を吸わせつつも、それがダメージになることはない。
四方八方からの水玉の全てを、しなやかな演舞の早送り動画のように踊って捌く。
防御に専念している翔子、その頸動脈を狙って背後に現れながらにマーラが回し蹴りを放った。
「ッオオオリャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ドンッ!! 蹴られた翔子の身体がグルンッグルンッと回転して、括られていた髪の毛が解けてマントのように靡いた。
ドダンッ……、とプールサイドに伏せる翔子。見下ろす巨漢マーラ。
「強くなったわね。……マーラ」
「ぐ、ぐぐっ…………ぐ……」
奥歯をギチギチ鳴らしながら苦しげに見下ろすマーラに巻き付く、絹織物のように長い翔子の髪の毛。それが返事を許さなかったのだ。
そう、翔子はマーラの蹴りを髪の毛をマント代わりに去なし、勝利を確信して出来た隙を突くように、髪の毛で首を締め上げたのだ。
「さっきあなたは、あなたを倒したらあの男が来るって言ったわね」
髪の毛で首を絞めつつ吐息で唇を撫でながらに問い詰めると、マーラは一瞬強く硬直する。グ、ギッ……、一段締め上げを強めたところで、マーラは慌てて首を2度振り頷いた。
(……マーラの死がスイッチになって、あの男が現れるのかしら)
出来ることなら今すぐに倒してしまいたい。
淫魔製造機をこの手で壊してしまいたい。
しかし、身体を自由にされてしまうこの状況で戦うのは愚策。ならばマーラの言葉を封じつつ、罰ゲームの時間が終えるのを待つが上策。
まずは振り出しに戻すことを優先しよう。
そう決めた翔子であったが、ペースを自分で運ぶことは許されなかった。
「久しぶりだなぁ翔子。会いたかったよ」
翔子がマーラを締め上げるプールサイド、その反対サイドに置かれている折りたたみ式のレジャーベッド。そこに寝そべった男から、反対方向を向いたままに声を掛けられた。
遠くから聞こえてきた育ちの悪そうな声。
しかし聞き間違えが起きないほどに、憎い男の声には、耳は過敏だった。
「おにっ……、龍司っ!!!」
翔子が龍司と呼んだ男は、読んでいたであろう雑誌をクルクル丸めながら寄ってくる。似合わないサングラスに短パンに草履だけを身に付けた、まるで常夏の観光客のようなふざけた格好だった。
なんで生きているの、なんで今まで隠れていたの、なんでいまさら姿を見せたの。
何を聞こうか、いや、何を言ってやろうか、その選択肢の多さに続ける言葉がすんなりとは出てこなかった。
幻では無いと分かる目の前にまで迫られて、この時やっと頭で整理が付いた。
「させないわよっ。ナツキちゃんとエリナさんを好きにしようとしているらしいけど、絶対、させないわよ」
「いや、きちんとやらせてもらうわ。ブラコンの翔子の目の前で2人とも自然なままの姿に戻してやるよ」
「くっ……。だいたい今まで隠れてコソコソしてた癖して、どういうことよ!」
「この大会のルール悪用する気満々のマモンがヒントになってなぁ、オレ様の計画が一っ飛びしそうなんだわ。だから隠れてコソコソすんの止めて顔出したんだわ」
計画? なにを言っているのかしら?
この大会に出場している数千人からなる淫魔は、龍司の子どものようなものだ。
その戦闘能力は、この国を支配出来るだけの力を保有している。
……この国だけではないわね。世界広しと言えど、対抗できる軍事力があるかしら……? ……隠れてコソコソする必要なんてない。
「龍司、……今度は何を企んでいるのかしら?」
「敗者を好きに出来るルールを使えばくノ一だろうと孕ませられんだろ? ――このルール悪用したら5年間レイプしても子ども出来なかった翔子も子作りモルモット決定だ」
龍司は得意気に語り出した。
兄妹であった数百年以上も昔は、龍司の誇大を通り越した野望の話は子どもながらに聞いていて楽しかった。
しかし、今となっては戯れ言にしか思えない。それも幼稚。悪人がよく思い描きそうな、茂でさえ描いた残念な野望。
そして、その野望は今のアタシなら軽々と打ち砕ける。
四百年くらいのあいだに、もの凄い差が付いたわね。
「どうにもくノ一と淫魔の相性が悪くて合成させられねぇけど、このルールだと凄いの作れんだろ?」
「話を聞いても理解出来るはずが無いのに、長々聞いちゃうところだったわね――、今度こそアタシが引導を渡してあげるわ!! チェックメイッ!!?」
斬りつけようとしたところで翔子は異変に気付いた。
スーツが肌に擦れただけでビリンッ! と全身が静電気を帯びたような痛痒さを覚えたのだ。それは、呻きと一緒に身体が固まってしまうほどの不快感だった。
「なに、……こ、れっ…………なにを、したの、かしらっ……」
「罰ゲーム受けていることを忘れていたのか? 感度10倍だ。そしてこれで20倍! 30倍。どうかな? まだまだ上げられるぞ、翔子」
「っうあ!? く、うう……や、めっ、ふぅ……、ふぅ……っ!」
――頭に血が上っていたわ……。龍司と再会して、罰ゲームのことなんてすっかり、頭から抜けていたわよ。
迂闊に動くことさえ出来ないほどに肌の神経が昂ぶっていた。それなのに40、50と感度を引き上げられていく。
「うぅうあああ!? あガッ、はぁ…………あぁ……」
呼吸で僅かに生まれる摩擦でさえ耐えられなくなって、立っていることすらままならず、翔子はへなへなと座りこんでしまう。
そんな中、兄はまた言ったのだ。
「マーラ。命令したらなんでもするくらいに堕としておけ。いいな?」
「ま、待ってっ、り、龍司っ!」
こうして翔子への陵辱が開始されるのであった。
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