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第2章 忍の章

13話 頭領対決

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 ――そっちに転移した茂に勘づかれる前に言っておくわナツキちゃん。


 茂と対峙している中でオネエから聞かされたナツキは、攻撃を一旦中断して睨んだままに固まっていた。
 しかし、まだ話の途中だったにもかかわらず茂に気付かれてしまい、ドドドドドッ、と工事の音量を大きくされて致し方なく通信デバイスを破棄する。


「油断も隙もないねぇええ!」


(すぐにバレるとか……。エリナにも言われたけど、顔に出やすいのかな?)


「古賀茂。お前は、古賀忍軍歴代最強の頭領って言われてるんだよね?」


「服部から聞いたの~?」


 オネエから聞いただけではない。
 忍び界隈では古賀の新しい頭領が優秀であると、わりとよく聞く話ではあった。
 おじいちゃんからも聞いたことがある。


 こんな派手な身なりだとは思わなかったけど。


 通常時がニコニコしているきな臭さ満点の丸い顔に、白髪が混じってグレーに見えるアイパーを掛けた髪の毛。
 身体が丸いせいで、汚い雪だるまにも見える。


「強そうには見えないって顔に書いてあるよぉお?♥」


「口にもしていないし、思ってもいない。顔になんて絶対書いていない」


 なんせ、一見妊婦さんに間違えそうなお腹ではあるものの、全開に開かれたアロハシャツから見えるウエストは肥大化した筋肉だった。
 そもそも筋肉じゃないと、あれだけ身軽に動けない。


「オネエと同じくらい強いんでしょ? 身体能力はオネエより上って聞いたよ」


「そこまで聞いていてよく冷静でいられるねぇえええ♥」


「ナツキちゃんなら勝てる。って言われたからね」


「ふぅ……。はははははっ! 笑った。本気で笑った。くだらないジョークだ♥ くだらなすぎて笑ってしまったね~♪」


 ――ナツキちゃん。あの日ナツキちゃんに暗示を使った理由は、正面からじゃ勝てないと思ったからよ。あの日もし、ナツキちゃんがMARSを燃やして吸引しなかったら、今頃アタシはこの世にいなかった筈。
 通信が妨害される前にオネエからそう言われたのだ。


「ハハハハッ! ハットリの部下はハッタッ――!?」


 茂の声が断ち斬られる。
 断ったのは、ナツキが闇の宝物庫から引っ張り出してきた大太刀である。
 声の発生源である喉を元から断ったのだ。


 オネエから絶対勝てると言われたナツキは、必殺である影遁の術を知られていないと悟って一撃を見舞ったのだ。


「え、――えぇえぇええっ!? ――な、ナツキっ、す、すごっすごいよ! あたしが手も足も出ないおじさんをこんなにあっさり! あたしより弱いくせにって思ってたよ! 絶対逝き狂わされるって思ってたよ! え、榎本助かんじゃん!」


 確かに大金星だ。
 忍び界隈の二大重鎮の1人、それも淫魔に与していた忍び。
 政治家とは比べものにならない悪党である。


 ――あくまで、倒せていたらの話だが。


 ナツキは刀の先を向けたまま、首と胴が離れ離れの茂に忍び寄る。
 刃物を通した感触は、紛れようもない本物の肉の感触だった。
 それも極上の脂が乗りに乗った中年男の感触。


 しかし、ナツキはこの感触を知っていた。
 淫魔と化した男、金田樽男を殺したときと同じ感触。
 殺したと思った樽男が生きていたときと同じ感触だった。


「はははははっ! はったりじゃなかったんだね~♥ 遊ぶのやめたあぁあ!」


 こいつまで淫魔だったのか……。古賀忍軍の頭領まで淫魔って……。
 え? 古賀忍軍って乗っ取られてない?
 約定とかそんな次元では無く、入り込まれている――。
 淫魔の種とかなんとか言って、ていく細胞移植されたのって、どう考えても榎本君1人じゃないでしょ……。


 驚いたのはナツキ1人では無かった。


「ナッ、ナツ……キ、こ、これ、どうゆーこと!?」


 飛んだ頭を抱えて立ち上がった茂が、自分で雪だるまを作るように頭の位置調整をしている様子を見て、エリナの反応が明らかにしなものへと変わった。
 ビビっているのか、怒っているのか、泣いてるのかよく分からない顔と声。
 

 ――エリナはどこまで知っていて、何に驚いているんだ?


「い、淫魔……、首飛んでも生きてるって淫魔じゃないの!? おじさん、淫魔だったの!? 首が飛んでも大丈夫って魔物だよね!? い、いつから!? 榎本とは違って、これ、が、がちの奴だよね……、い、いつから……、いつから!?」


 芝居掛かっている……。
 嘘発見器と違わぬ能力を持っているナツキだから、大真面目に問い詰めていると分かるだけだった。
 しかし、ここまで演技臭いというか、胡散臭い狼狽え方をするだろうか。
 

「頭領になる少し前だよ♥ もう分かったと思うけどぉお~、ボクに逆らう古賀の先代を殺したのも、死にかけの先代の目の前で、その妻をちんぽ乞食になるまで狂わせたのもボクだよぉ~♥」


 ――まさか。


「こっ、殺すッ! 殺す殺す殺す殺すッ!! よくもお母さんとお父さんをッ!!」


 この時、エリナの父親が古賀忍軍の先代と知った。
 しかし相手が悪い。悪過ぎる。


「エリナ待って!」


「ウワァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」


 女と言うよりは牝。エリナは獣だった。
 勝てる負けるではない。両親の敵を前に何も出来なかったら負け。
 そんな気迫を感じさせられる遠吠えだった。


 ――古賀茂。今までにない程に怒りを覚えた相手だ。
 しかし、樽男と同じで物理では殺せない。それを知って倒す手段を失った。
 浅知恵で傀儡の術に乗るべきではなかった、と後悔さえした。


 しかし、ナツキよりも強い憎悪を抱えたエリナは迷いも見せずに裸のまま犯しに掛かった。親の仇を討つ為に、憎悪の塊の相手と交わることに躊躇いさえ感じさせなかった。そんなエリナを今更止める資格なんてある筈もなく、ナツキはエリナと茂の戦いを見届けるしかなかった。



 
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