30 / 54
29 アーロンからお茶会の招待状が来た
しおりを挟む
月が綺麗から一週間。午後は一時間ほど剣技を学ぶことになった。でも、ハンロックが来てくれるわけではなく、僕はジェスに習っていた。ジェスは剣にマナを乗せて戦う術を会得していて、しかも剣先から魔法陣を出せるのだ。
「悔しいな、なんだか」
マナを剣に乗せるのは簡単に出来たのに、剣を振るだけで魔法陣を複数展開させるやり方はどうしても出来なかった。
「たまには俺にも勝たせろって」
背後にある加速陣を剣を振って前に出すと、身体に金の陣を纏う。するとジェスの瞬間速度が上がり、その俊敏性に僕は振り回されて尻餅をついた。
「もうっ、瓦解陣!」
尻餅をついた手で庭に触れて、地面を揺らす。ジェスが足元を掬われるようにたたらを踏み、そこに転がっていた僕の剣でジェスの剣を跳ね飛ばして、ジェスの細い首に剣の刃を当てた。
「はい、僕の勝ち」
「ずるいぞ、サリオン!剣の稽古だろ!」
「ターク先生は剣を持ったら実戦形式、何がなんでも勝つことって言っていたじゃない?」
僕は瓦解陣で乱れた芝の治癒をしながら、地団駄を踏むジェスに笑ってしまった。確かに王族としては格好悪い勝ち方だけれど、僕は成人すればもう王族ではなくなるから、これくらいは大目に見てほしい
「お稽古中、失礼します。殿下、こちらを」
珍しくメーテルが四角い手紙盆を持ってやって来る。封蝋は解かれているため、一度開封しているのだろう。中の紙を見るとアーロンの茶会の招待状だった。
「本日到着いたしましたが、国王陛下が参加するようにと」
アーロンからの茶会なら行かないわけにはいかないのだが、気が重い。アーロンだけではなく、多くの子弟が集まるのだろう。もう友好関係が築かれている中に一人で投げ出されるのは、少し辛い。茶会の主催者であるアーロンは、僕の横にはいてくれないだろうし。
「メーテル、行きたくないよ」
「アーロン様は殿下の婚約者でございます。拒否なさるには正当な理由が必要となります」
「でも……」
僕が難しい顔をしていたのか、メーテルにジェスが、
「俺がついていく。クロル・メイザースの養子、ジェス・メイザースとして。駄目か?」
とメーテルを見上げた。
「ありがとうございます、ジェス様。では、招待状を手配します。なにとぞ、殿下をお守りください」
行くことになってしまった。でも、僕には茶会用の衣装なんてない。
「メーテル、待って。だって、明日だよね、お茶会。そんな服なんて……」
王息に相応しい茶会の服なんて、簡単には用意できないんだ。
「そうですわね。大公孫のアーロン様のお茶会ですものね。ジェス様のお召し物も……」
そこにもの凄い勢いでテレサが駆けてきて息を切らせながら、頭を下げる。
「殿下方、メーテル様、恐れながら申し上げます」
「許可する」
僕が告げると三つ編みが跳ねるように上がり、緑色の目を輝かせて、
「お茶会のお召し物はございますっ!」
と告げた。
「本当なのですか、テレサ」
メーテルがテレサに尋ねると何度も頷き、ジェスと僕を見つめてから両手を絡ませるようにして胸元で組む。
「もちろんでございます。ジェス様と殿下でいつでもお茶会が出来ますよう、私が丹精込めました。背が高くなられた殿下は銀糸布を使用した上着に、襟と袖口の折り返しは金糸で刺繍を施し、ドレスブラウスはシルクモスリンの柔らかな布地で袖口から見えるフリルはたっぷりと。ジェス様は金のお髪と瞳に似合う銀青で殿下同様の刺繍を施しました。袖口は設けていませんがそちらにはサテンシルクリボンをおつけしました。どちらもハイウエストの背後には大きなシルクリボンをあしらい、もちろん、膝上太腿キュロットと膝上ストッキングです!」
と力説した。メーテルが静かに頷き、
「その服を見せて下さい、テレサ」
と室内に入っていく。テレサの勢いに驚いた僕とジェスは取り残され、庭仕事をしていたアルベルトが苦笑しながら立ち上がり、テレサが出してくれるはずのレモネードを、庭のガゼボに用意してくれた。ターク先生は離宮のガゼボを『セイヨウフウアズマヤ』と呼んでいる。
「うちにはガゼボはないけど、フォリーって建物が庭にある。母様がいい薬草を育てている畑があって、婆様も時々来るし、大婆様も泊まりに来たりするんだ」
ジェスってもしかしてすごい貴族の子ではないのだろうか。
「ねえ、ジェス。クロルの養子になって大丈夫だったの?」
レモネードが美味しくておかわりが欲しい。アルベルトを視線で追う前に、テレサが戻って来てレモネードを追加してくれた。あ、レモンの輪切りが美味しい。
「名目上だ。クロルも理解している。なあ、サリオン、アーロンと伴侶になるのか?」
僕は迷いなく頷いた。
「アーロンか望んで王である父様が許可をしたから」
「お前はそれでいいのかよ」
「貴族の子供であるだろう君がそれを言うの?僕はただでさえ役に立たないから、僕の身で王政に補えることが出来るのならば、僕はアーロンを伴侶に受け入れるよ」
王息である僕の価値はそんなものだから。
ーーー
毎日更新が出来ずすみません。ここから一週間少し休みがありますので、ストック作りたいです。やっとここまで来ました。次は茶会での断罪です。
「悔しいな、なんだか」
マナを剣に乗せるのは簡単に出来たのに、剣を振るだけで魔法陣を複数展開させるやり方はどうしても出来なかった。
「たまには俺にも勝たせろって」
背後にある加速陣を剣を振って前に出すと、身体に金の陣を纏う。するとジェスの瞬間速度が上がり、その俊敏性に僕は振り回されて尻餅をついた。
「もうっ、瓦解陣!」
尻餅をついた手で庭に触れて、地面を揺らす。ジェスが足元を掬われるようにたたらを踏み、そこに転がっていた僕の剣でジェスの剣を跳ね飛ばして、ジェスの細い首に剣の刃を当てた。
「はい、僕の勝ち」
「ずるいぞ、サリオン!剣の稽古だろ!」
「ターク先生は剣を持ったら実戦形式、何がなんでも勝つことって言っていたじゃない?」
僕は瓦解陣で乱れた芝の治癒をしながら、地団駄を踏むジェスに笑ってしまった。確かに王族としては格好悪い勝ち方だけれど、僕は成人すればもう王族ではなくなるから、これくらいは大目に見てほしい
「お稽古中、失礼します。殿下、こちらを」
珍しくメーテルが四角い手紙盆を持ってやって来る。封蝋は解かれているため、一度開封しているのだろう。中の紙を見るとアーロンの茶会の招待状だった。
「本日到着いたしましたが、国王陛下が参加するようにと」
アーロンからの茶会なら行かないわけにはいかないのだが、気が重い。アーロンだけではなく、多くの子弟が集まるのだろう。もう友好関係が築かれている中に一人で投げ出されるのは、少し辛い。茶会の主催者であるアーロンは、僕の横にはいてくれないだろうし。
「メーテル、行きたくないよ」
「アーロン様は殿下の婚約者でございます。拒否なさるには正当な理由が必要となります」
「でも……」
僕が難しい顔をしていたのか、メーテルにジェスが、
「俺がついていく。クロル・メイザースの養子、ジェス・メイザースとして。駄目か?」
とメーテルを見上げた。
「ありがとうございます、ジェス様。では、招待状を手配します。なにとぞ、殿下をお守りください」
行くことになってしまった。でも、僕には茶会用の衣装なんてない。
「メーテル、待って。だって、明日だよね、お茶会。そんな服なんて……」
王息に相応しい茶会の服なんて、簡単には用意できないんだ。
「そうですわね。大公孫のアーロン様のお茶会ですものね。ジェス様のお召し物も……」
そこにもの凄い勢いでテレサが駆けてきて息を切らせながら、頭を下げる。
「殿下方、メーテル様、恐れながら申し上げます」
「許可する」
僕が告げると三つ編みが跳ねるように上がり、緑色の目を輝かせて、
「お茶会のお召し物はございますっ!」
と告げた。
「本当なのですか、テレサ」
メーテルがテレサに尋ねると何度も頷き、ジェスと僕を見つめてから両手を絡ませるようにして胸元で組む。
「もちろんでございます。ジェス様と殿下でいつでもお茶会が出来ますよう、私が丹精込めました。背が高くなられた殿下は銀糸布を使用した上着に、襟と袖口の折り返しは金糸で刺繍を施し、ドレスブラウスはシルクモスリンの柔らかな布地で袖口から見えるフリルはたっぷりと。ジェス様は金のお髪と瞳に似合う銀青で殿下同様の刺繍を施しました。袖口は設けていませんがそちらにはサテンシルクリボンをおつけしました。どちらもハイウエストの背後には大きなシルクリボンをあしらい、もちろん、膝上太腿キュロットと膝上ストッキングです!」
と力説した。メーテルが静かに頷き、
「その服を見せて下さい、テレサ」
と室内に入っていく。テレサの勢いに驚いた僕とジェスは取り残され、庭仕事をしていたアルベルトが苦笑しながら立ち上がり、テレサが出してくれるはずのレモネードを、庭のガゼボに用意してくれた。ターク先生は離宮のガゼボを『セイヨウフウアズマヤ』と呼んでいる。
「うちにはガゼボはないけど、フォリーって建物が庭にある。母様がいい薬草を育てている畑があって、婆様も時々来るし、大婆様も泊まりに来たりするんだ」
ジェスってもしかしてすごい貴族の子ではないのだろうか。
「ねえ、ジェス。クロルの養子になって大丈夫だったの?」
レモネードが美味しくておかわりが欲しい。アルベルトを視線で追う前に、テレサが戻って来てレモネードを追加してくれた。あ、レモンの輪切りが美味しい。
「名目上だ。クロルも理解している。なあ、サリオン、アーロンと伴侶になるのか?」
僕は迷いなく頷いた。
「アーロンか望んで王である父様が許可をしたから」
「お前はそれでいいのかよ」
「貴族の子供であるだろう君がそれを言うの?僕はただでさえ役に立たないから、僕の身で王政に補えることが出来るのならば、僕はアーロンを伴侶に受け入れるよ」
王息である僕の価値はそんなものだから。
ーーー
毎日更新が出来ずすみません。ここから一週間少し休みがありますので、ストック作りたいです。やっとここまで来ました。次は茶会での断罪です。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
258
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる